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第一部 出会い、そして混沌の夜明け
序章2 天よりの差し金
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大層にエコーのかかった声に、たぶん「イケメン」と言われて、僕はきょろきょろと辺りを見回す。
まあ、言われるならこんなしゃがれたダミ声じゃなくて、萌え声がいいんだけど。
とにかく、声の主はどこにもいない。
「どこにいるんです? 姿が見えませんが」
『いなくて当然。我は――』
「わかった! さては透明人間ですね? 当たりでしょ?」
『ハズレだ。我は――』
「じゃあ幽霊?」
『違う! 最後まで話を聞け!』
何やら声だけの何者かがキレた。
それから一つ咳払いをして、ゆっくりと話した。
『我は、この世界の神だ』
「神様ですか」
なるほど。神様なら見えなくても仕方ない。
たぶん、空の遙か上の方に居座って、僕に語りかけているのだろう。
「それで、その神様が僕に何の用でしょうか?」
『そなた。前世で死んで、この世界に転生したことは知っているな?』
「はい、まあ」
『実を言うと、この世界にそなたを転生させたのは、我なのだ』
まあ、わからない話じゃない。
一般的に輪廻転生の管理者は冥界の王、すなわち冥王と考えられているが、ここは異世界だ。
神様が行っていると考えても、不自然ではない。
『して、我はそなたに伝えなければならないことがあって、こうして話しかけている』
「何なのです?」
『そなた、確か男になりたいと言っていたな?』
「はい。……あれ、ひょっとして。僕のお願いを聞いてくれたのって、神様ですか?」
『……。』
何やら押し黙ってしまった神。
その対応を肯定と受け取った僕は、すかさず「ありがとうございます」と感謝の意を述べた。
『ああ、いや……確かに聞いたのは我なのだが……その、少々問題が起きてしまってな』
だが、神はしどろもどろと意味深なことを告げてくる。
「問題?」
『左様。そなたをこの世界に転生させるときに、男にする因子とは別の力が混ざってしまったのだ。すぐに取り除こうとしたのだが、転生の儀式中の思いがけないハプニングであったことと、その別の力が驚くほどに強く……残念ながら、その力がそなたの中に取り込まれてしまった』
「は、はぁ……」
言ってることが難しくて詳しくはわからないけれど、転生が上手くいかなかった言い訳をしているらしい、ということは何となくわかった。
『幸い、転生後の見た目には問題が無いようで、何よりだ』
「見た目が大丈夫なら、転生は成功なんじゃないんですか?」
『いや、こればっかりはわからん』
神は、困ったように声のトーンを下げる。
いや、神ともあろう者がさじを投げるなよ。
思わずそう言いかけたが、堪えた。
「じゃあ、転生の際に別の力が入ったことで、僕の身体に何かが起こるかも知れないってことですか?」
『……まあ、平たく言ってしまえばそうだ』
「たとえば、どんなことが?」
『そうだな。……あくまで推測ではあるが、いきなり女の身体に戻ってしまう、とか』
それは困る。非常に困る。
ようやく夢が叶ったというのに、それは無慈悲すぎるというものだ。
「どうすれば、その別の力を取り除けますか?」
『うむ……我が転生の儀式役に就いてから、今日で三日目。今までこのような事例は無かったが故に、わからん』
いや転生に失敗したの、絶対あんたの経験不足が原因だろ。
『ともかく、転生の際に入った力の正体を掴まねば、取り出せるかどうかすらわからないのは事実だ』
「それは困りましたね……」
僕は少し思案に耽る。
今すぐどうこうという訳では無さそうだが、万が一、神が言ったような異変が僕の身体に起きるのは嫌だ。
これは……調べた方がいいのかも知れない。
『その力の正体を突き止めることを、我からもお願いしたい。今後の転生に、同じことが起きるのは避けたいのだ』
僕の心を読んだのか、神がそう頼み込んできた。
察するに、それが僕に話しかけてきた理由だろう。
「う~ん……わかりましたよ。やるだけやってみます」
『すまん。頼んだぞ』
そう一方的に言い捨てて、神の声は聞こえなくなった。
一応、前向きに答えてはみた。
まずは、どういう身体の異変が起きるかを知らなければならない。その上で、その異変の正体を探るべく旅をする必要がありそうだ。
「ともかく、これで目的は決まったな」
なんか不完全な身体で転生したようなので、その原因を探ること。そして……夢にまで見た女の子との恋。レッツ☆ハーレム!
これだけは、何があっても譲れない。
そんなことを考えていると。
ゴンッ!
突然鋭どい衝撃が後頭部を襲い、目の前でお星様がちらついた。
まあ、言われるならこんなしゃがれたダミ声じゃなくて、萌え声がいいんだけど。
とにかく、声の主はどこにもいない。
「どこにいるんです? 姿が見えませんが」
『いなくて当然。我は――』
「わかった! さては透明人間ですね? 当たりでしょ?」
『ハズレだ。我は――』
「じゃあ幽霊?」
『違う! 最後まで話を聞け!』
何やら声だけの何者かがキレた。
それから一つ咳払いをして、ゆっくりと話した。
『我は、この世界の神だ』
「神様ですか」
なるほど。神様なら見えなくても仕方ない。
たぶん、空の遙か上の方に居座って、僕に語りかけているのだろう。
「それで、その神様が僕に何の用でしょうか?」
『そなた。前世で死んで、この世界に転生したことは知っているな?』
「はい、まあ」
『実を言うと、この世界にそなたを転生させたのは、我なのだ』
まあ、わからない話じゃない。
一般的に輪廻転生の管理者は冥界の王、すなわち冥王と考えられているが、ここは異世界だ。
神様が行っていると考えても、不自然ではない。
『して、我はそなたに伝えなければならないことがあって、こうして話しかけている』
「何なのです?」
『そなた、確か男になりたいと言っていたな?』
「はい。……あれ、ひょっとして。僕のお願いを聞いてくれたのって、神様ですか?」
『……。』
何やら押し黙ってしまった神。
その対応を肯定と受け取った僕は、すかさず「ありがとうございます」と感謝の意を述べた。
『ああ、いや……確かに聞いたのは我なのだが……その、少々問題が起きてしまってな』
だが、神はしどろもどろと意味深なことを告げてくる。
「問題?」
『左様。そなたをこの世界に転生させるときに、男にする因子とは別の力が混ざってしまったのだ。すぐに取り除こうとしたのだが、転生の儀式中の思いがけないハプニングであったことと、その別の力が驚くほどに強く……残念ながら、その力がそなたの中に取り込まれてしまった』
「は、はぁ……」
言ってることが難しくて詳しくはわからないけれど、転生が上手くいかなかった言い訳をしているらしい、ということは何となくわかった。
『幸い、転生後の見た目には問題が無いようで、何よりだ』
「見た目が大丈夫なら、転生は成功なんじゃないんですか?」
『いや、こればっかりはわからん』
神は、困ったように声のトーンを下げる。
いや、神ともあろう者がさじを投げるなよ。
思わずそう言いかけたが、堪えた。
「じゃあ、転生の際に別の力が入ったことで、僕の身体に何かが起こるかも知れないってことですか?」
『……まあ、平たく言ってしまえばそうだ』
「たとえば、どんなことが?」
『そうだな。……あくまで推測ではあるが、いきなり女の身体に戻ってしまう、とか』
それは困る。非常に困る。
ようやく夢が叶ったというのに、それは無慈悲すぎるというものだ。
「どうすれば、その別の力を取り除けますか?」
『うむ……我が転生の儀式役に就いてから、今日で三日目。今までこのような事例は無かったが故に、わからん』
いや転生に失敗したの、絶対あんたの経験不足が原因だろ。
『ともかく、転生の際に入った力の正体を掴まねば、取り出せるかどうかすらわからないのは事実だ』
「それは困りましたね……」
僕は少し思案に耽る。
今すぐどうこうという訳では無さそうだが、万が一、神が言ったような異変が僕の身体に起きるのは嫌だ。
これは……調べた方がいいのかも知れない。
『その力の正体を突き止めることを、我からもお願いしたい。今後の転生に、同じことが起きるのは避けたいのだ』
僕の心を読んだのか、神がそう頼み込んできた。
察するに、それが僕に話しかけてきた理由だろう。
「う~ん……わかりましたよ。やるだけやってみます」
『すまん。頼んだぞ』
そう一方的に言い捨てて、神の声は聞こえなくなった。
一応、前向きに答えてはみた。
まずは、どういう身体の異変が起きるかを知らなければならない。その上で、その異変の正体を探るべく旅をする必要がありそうだ。
「ともかく、これで目的は決まったな」
なんか不完全な身体で転生したようなので、その原因を探ること。そして……夢にまで見た女の子との恋。レッツ☆ハーレム!
これだけは、何があっても譲れない。
そんなことを考えていると。
ゴンッ!
突然鋭どい衝撃が後頭部を襲い、目の前でお星様がちらついた。
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