9 / 50
DISK1
第八話 吸血鬼と雛罌粟 ~Energy Vampire~
しおりを挟む
これは俺たちが鴨川月子に出会う物語だ。
彼女は京都の旧家で生まれ何不自由なく育てられた。
鴨川家はかなり古い家で、家系図もしっかり残っているらしい。
月子は幼い頃から歌が好きで、地元でののど自慢大会などにも出たらしい。
箸を持つよりマイクを持つことを先に覚えたと彼女は言っていた。
真偽は定かではないが……。
彼女は15歳の時に幼馴染の岸田健次に誘われて「アフロディーテ」というバンドを立ち上げた。
健次は彼女の才能に可能性を感じ、彼女と一緒なら音楽で食っていけると思ったそうだ。
アフロディーテは地元でインディーズ活動を10年ほどした後、メジャーデビューを果たした。
それから彼らが国内トップレベルのパンクバンドになるまで、それほど時間は掛からなかった。
下積みがどうとか、苦労がどうとかそんな話ではない。
才能というにはあまりにも非常識な成長だった。
健次は「これはすべて月子のせいやねん。あいつはいろんな意味でおかしいんや! まぁそのおかげで俺も飯食っていけるから感謝もしとるがな」と前に俺にそう話してくれた。
前振りが長くなったが、鴨川月子はいい意味でも悪い意味でも天才だった。
そして俺たちにとって……。いや、京極裏月にとって最大最凶の後ろ盾であり、同時に倒すべき相手になった……。
俺はスティックを握ると思い切りドラムを叩いた。
ウラが観客たちに挑発的に声を掛けると客席から歓声が上がる。
ジュンもいつも通り、自分の仕事を着実に熟していく。
2曲を駆け抜けるように演奏すると、ウラはギターのボリュームを落として、メンバー紹介を始めた。
「どうも、《The birth of Venus》です! クソ田舎からやってきました!」
ウラのMCで観客席からは笑い声が零れる。
本人は普通に話しているつもりなのだろうけど、俺が聞いていてもウラのMCは可笑しい。いい意味で。
メンバー紹介を終えると次の曲に移る。
ウラが楽しそうに演奏する後ろ姿はとても輝いて見えた。
感慨深ささえ感じる。
こんなヴォーカルだとドラマーとしても叩き甲斐がある。
演奏が一段落し、残りは2曲だ。
俺は裏からマイクを借りると客席に挨拶をした。
「今日はライブ来てくれてありがとうございます! 俺らのバンドの演奏を聴いてもらえてすげー嬉しいです! こうして来てもらえたのも何かの縁だと思うんで、よかったらまた俺らのライブきてください! では最後の曲です! 『Moon gate』」
俺は観客たちに挨拶を済ませると最後の曲振りをした。
俺たちのバンドには珍しいバラードで、ウラも珍しくしっとりと歌い上げていく。
観客たちも盛り上がるというより聴き入ってくれた。
「はい! 今日はありがとうねー!」
『Moon gate』の演奏が終わり、ウラがシメようとすると観客席から「もう一曲」というコールが起こった。
「え? 何? もう1曲やれって!?」
ウラがそう聞くと観客席は一段と盛り上がる。
後から聞いた話だが、『アシッドレイン』のライブではこのコールがお約束になっていたらしい。
「えー!? でもさー。正直ウチら今回は曲用意してないんだよねぇ。大志さぁ? どうする?」
「そーだな……。お前が決めたら? 俺らはそれに合わせるから。なぁジュン?」
「京極さんに任せるよ! 俺らは決めてもらった曲演奏するから!」
ジュンも俺の意見に乗っかる。
「そっかぁ……。じゃあじゃあ! みんな! コピー曲でもいい? 私さぁ、いっぺん遠征とかでこの曲やってみたかったんだよね!」
観客たちからは「いいよー」とか「うぉぉー」とか色々な声が聞こえた。
「実はね! ウチら昨日横浜まで『アフロディーテ』のライブ行ってきたんだ! いや、マジよかったよ! 私感動してさぁ! だから『アフロディーテ』のコピーやろうかなーって思うんだけど、みんなどーかなー!?」
やはり観客席からはいい反応が返ってくる。
いつも思うのだけれど、俺たちのバンドは客に恵まれていると思う。
「よっしゃ! じゃあみんなのお言葉に甘えて「アフロディーテ」のコピーやりたいと思います! では早速聴いてください!《デザイア》」
俺は一瞬ポカーンとしてしまった。選りに選って《デザイア》を選ぶとは……。
「大志! ドラム!」
ウラに声を掛けられて我に返る。
俺はインスタントな気分で《デザイア》のイントロのドラムロールを打ち鳴らした――。
《デザイア》の演奏が終わる。俺たちはもれなく汗まみれだ。
「みんなー! 今日はありがとうございました!! また神奈川絶対絶対! 来るからまた会おうねー!」
ウラの挨拶を最後に、俺たちは手を振りながら舞台袖へと下がった――。
控え室に入るなりウラは地べたに横になった。
「はぁー! 気持ちよかったー!!」
行儀の悪いことこの上ない。
「お疲れ! お前今日、調子よかったなー」
「お疲れ大志! うん。マジ最高だった! いやーマジで過去最高じゃね?」
「そうだね。京極さんが最後に《デザイア》ぶち込んで来るとは思わなかったからちょっと驚いたけどさ」
「そうだぞお前。選りに選ってなんで『アフロディーテ』の曲なんだよ? 俺らのオリジナルだってあったろうに……」
「えー!? だってさ! せっかく昨日生歌聴けたんだし、やらない手ないじゃん? それにうまくいったんだからよくね?」
まったく……。と俺は思った。いつものことながらウラは自由人だ。
確かに結果だけ見れば、彼女の言う通り問題はないと思う。
しかし、難易度の高い楽曲をいきなりぶち込まれると正直焦る。
「しっかし! 汗臭くてたまんねーよ。さっさとホテル戻ってシャワータイムしたいなー」
ウラは寝転びながら大欠伸をすると、猫のようにストレッチを始めた。
Tシャツが捲れて露わになった彼女の腹部は見事にくびれている。
それどころか、割れているようにさえ見えた。
「あのー、『バービナ』さんちょっとよろしいですか?」
俺たちが楽屋でくつろいでいるとライブハウスのスタッフがドアから顔を覗かせた。
「はーい! お疲れ様です! なんかありました?」
ウラは寝転がったままスタッフに返事をする。本当に行儀の悪い女だ。
「お休みのところ申し訳ないです。あの、お客様でどうしても『バービナ』さんと話させろってうるさい方がいまして……。どうします? 別に追い返してもいいんすけど?」
「へ? そうなんすか? まぁいいっすよ! 会いたいってんなら会います。別に減るもんじゃないし」
それにしても茨城の田舎のバンドに会いたいというもの好きはどんな奴なんだろうか?
俺たちは汗まみれのシャツを着替えると、別室へと向かった――。
部屋に入ると40代前後の髭を生やしてニット帽を被った男と、馬鹿みたいにでかいサングラスを掛けて胸元のあいた服を着た金髪の女が向かい合って座っていた。
女の方は年齢がはっきりしない。10代に見えなくもないし、見ようによっては30過ぎにも見える。
「あ! 来てくれたんや。嬉しいわぁ。追い返されたらどないしようかと思たわ」
「お前はいつも急なこと言うから悪いんや! 『バービナ』さんええ人たちでよかったなぁ」
2人は特徴的な関西弁でそう言うと立ち上がって俺たちの方に歩み寄ってきた。
「あのー。さっき聴いてくれたお客さんですよね! ありがとうございます! なんか話あるって聞いたん……」
ウラはそこまで言うと急に固まった。動揺し顔が見る見るうちに赤くなる。
そして揶揄ではなく、西野カナぐらい震えていた。
「そーやねん! いやな! 川崎ぶらぶらしとったら今日ライブあるゆーの見かけてな。これは行かなあかん! って思い立ったんや! そしたら君らのバンド《デザイア》やってくれたやん! もう嬉しかったわぁ。これはヴォーカルの子と話さなあかんて思ったで!」
俺もその女の話し方と声を聞いてウラの動揺の意味を理解した。
最近聞いたような声だ……。いや……。確か、昨日聞いた声だ。
「月子ぉ! ほんまええかげんにしーや。ほら、急に来たからこの子ら固まっとるで」
男がそう言うと女は少しバツが悪そうに後ろ髪を掻いて、馬鹿でかいサングラスを外した。
それまで半信半疑だった俺たちもその顔を見てさすがに言葉を失った。
「初めまして、ウチは『アフロディーテ』ゆうバンドやってる鴨川月子って言います。てか、昨日ウチらのライブ来てくれたんなら知ってるやろ?」
月子さんはそう言うと、氷のように冷たい笑顔を浮かべた。その笑顔は恐ろしく綺麗に見える。
俺はその表情に背筋が凍るものを感じた。
なんで選りに選って『アフロディーテ』のThukikoが俺らのライブに来たのだろう? 何かの間違いだ。
ウラは顔を真っ赤にしながら必死に月子さんに握手を求めた。
「は、わわわわ。初めまして!! 月子さんなんでこんなとこ来てんすか!? マジ私、大、大、大ファンなんです!」
「あらー。嬉しいなぁ。そうなんや! ウチらのバンド好きやなんて感激やわ。なぁケンちゃん? やっぱウチの言う通りこのライブハウス入って正解やったやろ?」
「ほんまやな。お前の直感はたいしたもんや。なぁ、ウラちゃんやったっけ? 君のギター見せてもらってもええか? ちょっと気になることがあんねん」
ウラは健次さんに言われるまま、自身のSGを取りに楽屋へ走って行った。
俺とジュンはそんな彼らを呆然と眺める。夢でも見ているような気分だ。
「お待たせしました!」
ウラは持ってきたギターを健次さんに手渡す。
「やっぱりな。思った通りや! ウラちゃんこれ、YAMAHAの廃版のSGやろ? 俺が最初に使ってたギターやからすぐにわかったわ。今状態の良いこのギターほとんど見かけへんから、珍しいと思ったんや!」
「そうなんです!! 健次さんに憧れて昔買いました! このカラーリングが好きなんですよねー」
「せやろ? 俺もなー、この赤が好きやったんや! きれーな雛罌粟色やから俺はギターにアマポーラゆう名前つけて大事にしとったんや。どっかのアホがライブんときにネック折って、お陀仏やけどな」
健次さんはそう言うと、月子さんを睨んだ。どうやらSGを壊した犯人は月子さんらしい。
「まだ根に持っとるんやな……。ごめんなさいー。ウチかてわざとやったわけやないんやからもう堪忍してや!」
「許すわけないやろ? 俺があのギターどんだけ大事にしとったかお前が一番よーく知っとっるやろ?」
痴話喧嘩。幼なじみなのは本当のようだ。
「なぁウラちゃん? 明日もこっち居るんか? もし居るんやったらちょっと飯でも行かへん? お願いしたいこともあるし……」
月子さんはさっきまでの笑顔から急に真面目な表情に変わった。
「え? 一応居ますけど……。なんすか? お願いって?」
「ちょっと相談したいことがあんねん。今日会ったばかりでこんな話して申し訳ないけど、ウラちゃんに頼みたいことがあんねん……」
「月子ぉ!! やめとけや! ユキちゃん時にもう懲りたやろ!?」
健次さんが月子さんの話を遮るように口をはさんだ。
それまで穏やかだった健次さんの口調が急に厳しくなる。
「ケンちゃんは黙っとき!! ウチのことはウチが決める!」
それから場の空気が急に重くなった。
月子さんと健次さんはお互いに視線をずらさずに睨み合っている。
「あの……。私は大丈夫ですよ! つーか月子さんの相談聞きたいです!」
ウラは2人の間に入るようにそう言った。
2人の空気は相変わらず張りつめていたが、ウラは臆することなく続ける。
「月子さん! 私も自分のことは自分で決めます! だから話を是非聞かせてください」
「ウラちゃん、ありがとうなぁー。と、いうわけやケンちゃん! 悪いけどウチらはウチらのやりたいようにやらせてもらうで! な! ウラちゃん!」
「……。なぁウラちゃん。俺はな、月子が何話したいかわかるねん。きっとそれは君のこと追い込むことになると思うんや。話聞くのはかまへんけど、月子の言う通りにする必要はないで! こいつと一緒にいて無事やった女の子はおらんから……」
その時俺は、健次さんが言っている言葉の意味が分からなかった。
……というより、話の流れが掴めなかった。
月子さんが何かしらウラに話したいということは分かった。
しかし、なんでそれがウラを追い込むことになるのだろう? と思ったのだ。
話が終わると、月子さんと健次さんは帰って行った――。
翌日、俺はジュンと茜ちゃんを車に乗せ地元に帰る。
ウラは月子さんと会うので別行動だ。
「大志、ごめんねー。茜ちゃんのことよろしくね!」
「了解、お前も気をつけて帰れよ! つーか今でも信じらんねーな。なんでお前、月子さんに誘われてんだよ」
「私が聞きたいくらいだよ!」
それだけ言うと、ウラは月子さんの所へ出かけて行った――。
「あー、新鮮な魚は美味しいですねー。クレームも解決したし、松田先輩の話も聞けたし、今日はスッキリしました」
真木さんは食事を済ませるとお茶を飲みながらほっこりしている。
「だなー。静岡は食い物がうめーよ! 俺も出張で来たときは食ったけど、やっぱりいいな」
「うんうん! えーと、それでウラさんはその後どうなったんですか?」
真木さんはさっきの話の続きを俺にせがんだ。
「ああ……。結論から言うと、月子さんはウラを自分の付き人にしたかったらしい。なんでもその当時、関西から関東に住み替えるとかで新生活を手伝う相手探してたんだとさ」
「ふーん。ということは、今ウラさんは月子さんの付き人してるんですか?」
「一応な……。ウラも誘われて一つ返事でOKしたみたいだからなー。当然といえば当然か、だって憧れのバンドの付き人になれるチャンスなんて普通はねーよ! それこそ天文学的確率だ」
「天文学的確率……」
真木さんはその言葉を噛みしめるように繰り返した。
本当に夜空の星から1つ選ぶような確率だ。
「それでな。俺とジュンもバンド続けながら働くことにしたんだ。まぁ、ジュンは母親のところに身を寄せてって形だからまだ融通も効くわけだけど、俺はそうもいかなくてな。完全にウラに人生曲げられたよ」
俺はそう言ってため息をついた。
その様子を見て真木さんは可笑しそうにクスクスと笑う。
「でも、松田先輩楽しそうですよ? ウラさんってきっと先輩にとって大事な人なんですね!」
「……。ま、否定はしねーよ。実際、ウラのお陰で俺らのバンドもそれなりに知名度を得たし、今の仕事だって決して嫌いじゃない。でも肝心のウラは今大変そうなんだよなー」
「え? だってウラさん憧れの人のそばに居れて、バンドも続けられてるんですよね?」
「そうなんだけよ。なかなか鴨川月子って女は曲者でな……」
鴨川月子は色んな意味で酷い女だった。
基本的にマイペースでおっとりしているようだが、激昂するとウラ以上に手に負えない女だった。
好き嫌いが激しく、好きなものはとことん大切にし、嫌いなものには最大限の嫌がらせをする……。そんな女だった。
付き人になったウラはいつもそんな彼女に振り回され続けていた。
下らない用事でパシられ、さらに機嫌が悪いと感情をウラにぶつけた。
健次さんの危惧していたことはこれだったのだろうと思う。
「へー、なんか思い通りにいかないもんですねー」
「まぁなぁ、月並みな言い方だけど、どこの世界も甘くはねーってことだよな。それでもウラは頑張ってるみたいだから俺も余計なことは言わねーけど」
俺はその時、健次さんが言っていた言葉を思い出していた。
2年ほど前、健次さんと俺の2人で飲みに行った時のことを……。
彼はウラを心配するような口調でこう言った。
『なぁ大志君! ウラちゃんほんまに頑張ってるで! 俺がギター教えるとカラッカラのスポンジ並みに吸収してくれるしな! あの子は才能あると思うで。でもな月子が良くないねん。アイツは根はいい奴なんやけど、どうしてもそばに居る子をダメにしてしまうんや』
健次さんはジャックダニエルのストレートを煽りながら続けた。
『せやから大志君! 今からでも遅くない! ウラちゃんを月子から離してやってほしいんや。月子はまるで吸血鬼のように若い子の生気を吸い取ってしまうんや。本人は若々しくいられるけど、一緒にいる子が朽ちていくようで俺は見てられへん。頼むで』
彼は寂しそうな表情を浮かべながら俺の肩を力強く叩いた――。
食事を済ませると、俺と真木さんは新幹線で東京へ戻った。
品川駅で真木さんは何回も何回も頭を下げてお礼を言ってくれた。彼女はやはり実直で真面目なようだ。
俺は真木さんと別れると自宅のアパートに向かうために電車に乗り込んだ。
その時、ウラからLINEがタイミングよく入る。
『お疲れ大志!! 明日ジュンとボウリング行くんだけど大志も行かない? たまには息抜きも大事よー』
やれやれだ。俺や健次さんの心配をよそにウラは元気なようだ。
健次さんの不安が的中しなければいいと思いながら、俺は彼女の誘いに応じることにした。
彼女は京都の旧家で生まれ何不自由なく育てられた。
鴨川家はかなり古い家で、家系図もしっかり残っているらしい。
月子は幼い頃から歌が好きで、地元でののど自慢大会などにも出たらしい。
箸を持つよりマイクを持つことを先に覚えたと彼女は言っていた。
真偽は定かではないが……。
彼女は15歳の時に幼馴染の岸田健次に誘われて「アフロディーテ」というバンドを立ち上げた。
健次は彼女の才能に可能性を感じ、彼女と一緒なら音楽で食っていけると思ったそうだ。
アフロディーテは地元でインディーズ活動を10年ほどした後、メジャーデビューを果たした。
それから彼らが国内トップレベルのパンクバンドになるまで、それほど時間は掛からなかった。
下積みがどうとか、苦労がどうとかそんな話ではない。
才能というにはあまりにも非常識な成長だった。
健次は「これはすべて月子のせいやねん。あいつはいろんな意味でおかしいんや! まぁそのおかげで俺も飯食っていけるから感謝もしとるがな」と前に俺にそう話してくれた。
前振りが長くなったが、鴨川月子はいい意味でも悪い意味でも天才だった。
そして俺たちにとって……。いや、京極裏月にとって最大最凶の後ろ盾であり、同時に倒すべき相手になった……。
俺はスティックを握ると思い切りドラムを叩いた。
ウラが観客たちに挑発的に声を掛けると客席から歓声が上がる。
ジュンもいつも通り、自分の仕事を着実に熟していく。
2曲を駆け抜けるように演奏すると、ウラはギターのボリュームを落として、メンバー紹介を始めた。
「どうも、《The birth of Venus》です! クソ田舎からやってきました!」
ウラのMCで観客席からは笑い声が零れる。
本人は普通に話しているつもりなのだろうけど、俺が聞いていてもウラのMCは可笑しい。いい意味で。
メンバー紹介を終えると次の曲に移る。
ウラが楽しそうに演奏する後ろ姿はとても輝いて見えた。
感慨深ささえ感じる。
こんなヴォーカルだとドラマーとしても叩き甲斐がある。
演奏が一段落し、残りは2曲だ。
俺は裏からマイクを借りると客席に挨拶をした。
「今日はライブ来てくれてありがとうございます! 俺らのバンドの演奏を聴いてもらえてすげー嬉しいです! こうして来てもらえたのも何かの縁だと思うんで、よかったらまた俺らのライブきてください! では最後の曲です! 『Moon gate』」
俺は観客たちに挨拶を済ませると最後の曲振りをした。
俺たちのバンドには珍しいバラードで、ウラも珍しくしっとりと歌い上げていく。
観客たちも盛り上がるというより聴き入ってくれた。
「はい! 今日はありがとうねー!」
『Moon gate』の演奏が終わり、ウラがシメようとすると観客席から「もう一曲」というコールが起こった。
「え? 何? もう1曲やれって!?」
ウラがそう聞くと観客席は一段と盛り上がる。
後から聞いた話だが、『アシッドレイン』のライブではこのコールがお約束になっていたらしい。
「えー!? でもさー。正直ウチら今回は曲用意してないんだよねぇ。大志さぁ? どうする?」
「そーだな……。お前が決めたら? 俺らはそれに合わせるから。なぁジュン?」
「京極さんに任せるよ! 俺らは決めてもらった曲演奏するから!」
ジュンも俺の意見に乗っかる。
「そっかぁ……。じゃあじゃあ! みんな! コピー曲でもいい? 私さぁ、いっぺん遠征とかでこの曲やってみたかったんだよね!」
観客たちからは「いいよー」とか「うぉぉー」とか色々な声が聞こえた。
「実はね! ウチら昨日横浜まで『アフロディーテ』のライブ行ってきたんだ! いや、マジよかったよ! 私感動してさぁ! だから『アフロディーテ』のコピーやろうかなーって思うんだけど、みんなどーかなー!?」
やはり観客席からはいい反応が返ってくる。
いつも思うのだけれど、俺たちのバンドは客に恵まれていると思う。
「よっしゃ! じゃあみんなのお言葉に甘えて「アフロディーテ」のコピーやりたいと思います! では早速聴いてください!《デザイア》」
俺は一瞬ポカーンとしてしまった。選りに選って《デザイア》を選ぶとは……。
「大志! ドラム!」
ウラに声を掛けられて我に返る。
俺はインスタントな気分で《デザイア》のイントロのドラムロールを打ち鳴らした――。
《デザイア》の演奏が終わる。俺たちはもれなく汗まみれだ。
「みんなー! 今日はありがとうございました!! また神奈川絶対絶対! 来るからまた会おうねー!」
ウラの挨拶を最後に、俺たちは手を振りながら舞台袖へと下がった――。
控え室に入るなりウラは地べたに横になった。
「はぁー! 気持ちよかったー!!」
行儀の悪いことこの上ない。
「お疲れ! お前今日、調子よかったなー」
「お疲れ大志! うん。マジ最高だった! いやーマジで過去最高じゃね?」
「そうだね。京極さんが最後に《デザイア》ぶち込んで来るとは思わなかったからちょっと驚いたけどさ」
「そうだぞお前。選りに選ってなんで『アフロディーテ』の曲なんだよ? 俺らのオリジナルだってあったろうに……」
「えー!? だってさ! せっかく昨日生歌聴けたんだし、やらない手ないじゃん? それにうまくいったんだからよくね?」
まったく……。と俺は思った。いつものことながらウラは自由人だ。
確かに結果だけ見れば、彼女の言う通り問題はないと思う。
しかし、難易度の高い楽曲をいきなりぶち込まれると正直焦る。
「しっかし! 汗臭くてたまんねーよ。さっさとホテル戻ってシャワータイムしたいなー」
ウラは寝転びながら大欠伸をすると、猫のようにストレッチを始めた。
Tシャツが捲れて露わになった彼女の腹部は見事にくびれている。
それどころか、割れているようにさえ見えた。
「あのー、『バービナ』さんちょっとよろしいですか?」
俺たちが楽屋でくつろいでいるとライブハウスのスタッフがドアから顔を覗かせた。
「はーい! お疲れ様です! なんかありました?」
ウラは寝転がったままスタッフに返事をする。本当に行儀の悪い女だ。
「お休みのところ申し訳ないです。あの、お客様でどうしても『バービナ』さんと話させろってうるさい方がいまして……。どうします? 別に追い返してもいいんすけど?」
「へ? そうなんすか? まぁいいっすよ! 会いたいってんなら会います。別に減るもんじゃないし」
それにしても茨城の田舎のバンドに会いたいというもの好きはどんな奴なんだろうか?
俺たちは汗まみれのシャツを着替えると、別室へと向かった――。
部屋に入ると40代前後の髭を生やしてニット帽を被った男と、馬鹿みたいにでかいサングラスを掛けて胸元のあいた服を着た金髪の女が向かい合って座っていた。
女の方は年齢がはっきりしない。10代に見えなくもないし、見ようによっては30過ぎにも見える。
「あ! 来てくれたんや。嬉しいわぁ。追い返されたらどないしようかと思たわ」
「お前はいつも急なこと言うから悪いんや! 『バービナ』さんええ人たちでよかったなぁ」
2人は特徴的な関西弁でそう言うと立ち上がって俺たちの方に歩み寄ってきた。
「あのー。さっき聴いてくれたお客さんですよね! ありがとうございます! なんか話あるって聞いたん……」
ウラはそこまで言うと急に固まった。動揺し顔が見る見るうちに赤くなる。
そして揶揄ではなく、西野カナぐらい震えていた。
「そーやねん! いやな! 川崎ぶらぶらしとったら今日ライブあるゆーの見かけてな。これは行かなあかん! って思い立ったんや! そしたら君らのバンド《デザイア》やってくれたやん! もう嬉しかったわぁ。これはヴォーカルの子と話さなあかんて思ったで!」
俺もその女の話し方と声を聞いてウラの動揺の意味を理解した。
最近聞いたような声だ……。いや……。確か、昨日聞いた声だ。
「月子ぉ! ほんまええかげんにしーや。ほら、急に来たからこの子ら固まっとるで」
男がそう言うと女は少しバツが悪そうに後ろ髪を掻いて、馬鹿でかいサングラスを外した。
それまで半信半疑だった俺たちもその顔を見てさすがに言葉を失った。
「初めまして、ウチは『アフロディーテ』ゆうバンドやってる鴨川月子って言います。てか、昨日ウチらのライブ来てくれたんなら知ってるやろ?」
月子さんはそう言うと、氷のように冷たい笑顔を浮かべた。その笑顔は恐ろしく綺麗に見える。
俺はその表情に背筋が凍るものを感じた。
なんで選りに選って『アフロディーテ』のThukikoが俺らのライブに来たのだろう? 何かの間違いだ。
ウラは顔を真っ赤にしながら必死に月子さんに握手を求めた。
「は、わわわわ。初めまして!! 月子さんなんでこんなとこ来てんすか!? マジ私、大、大、大ファンなんです!」
「あらー。嬉しいなぁ。そうなんや! ウチらのバンド好きやなんて感激やわ。なぁケンちゃん? やっぱウチの言う通りこのライブハウス入って正解やったやろ?」
「ほんまやな。お前の直感はたいしたもんや。なぁ、ウラちゃんやったっけ? 君のギター見せてもらってもええか? ちょっと気になることがあんねん」
ウラは健次さんに言われるまま、自身のSGを取りに楽屋へ走って行った。
俺とジュンはそんな彼らを呆然と眺める。夢でも見ているような気分だ。
「お待たせしました!」
ウラは持ってきたギターを健次さんに手渡す。
「やっぱりな。思った通りや! ウラちゃんこれ、YAMAHAの廃版のSGやろ? 俺が最初に使ってたギターやからすぐにわかったわ。今状態の良いこのギターほとんど見かけへんから、珍しいと思ったんや!」
「そうなんです!! 健次さんに憧れて昔買いました! このカラーリングが好きなんですよねー」
「せやろ? 俺もなー、この赤が好きやったんや! きれーな雛罌粟色やから俺はギターにアマポーラゆう名前つけて大事にしとったんや。どっかのアホがライブんときにネック折って、お陀仏やけどな」
健次さんはそう言うと、月子さんを睨んだ。どうやらSGを壊した犯人は月子さんらしい。
「まだ根に持っとるんやな……。ごめんなさいー。ウチかてわざとやったわけやないんやからもう堪忍してや!」
「許すわけないやろ? 俺があのギターどんだけ大事にしとったかお前が一番よーく知っとっるやろ?」
痴話喧嘩。幼なじみなのは本当のようだ。
「なぁウラちゃん? 明日もこっち居るんか? もし居るんやったらちょっと飯でも行かへん? お願いしたいこともあるし……」
月子さんはさっきまでの笑顔から急に真面目な表情に変わった。
「え? 一応居ますけど……。なんすか? お願いって?」
「ちょっと相談したいことがあんねん。今日会ったばかりでこんな話して申し訳ないけど、ウラちゃんに頼みたいことがあんねん……」
「月子ぉ!! やめとけや! ユキちゃん時にもう懲りたやろ!?」
健次さんが月子さんの話を遮るように口をはさんだ。
それまで穏やかだった健次さんの口調が急に厳しくなる。
「ケンちゃんは黙っとき!! ウチのことはウチが決める!」
それから場の空気が急に重くなった。
月子さんと健次さんはお互いに視線をずらさずに睨み合っている。
「あの……。私は大丈夫ですよ! つーか月子さんの相談聞きたいです!」
ウラは2人の間に入るようにそう言った。
2人の空気は相変わらず張りつめていたが、ウラは臆することなく続ける。
「月子さん! 私も自分のことは自分で決めます! だから話を是非聞かせてください」
「ウラちゃん、ありがとうなぁー。と、いうわけやケンちゃん! 悪いけどウチらはウチらのやりたいようにやらせてもらうで! な! ウラちゃん!」
「……。なぁウラちゃん。俺はな、月子が何話したいかわかるねん。きっとそれは君のこと追い込むことになると思うんや。話聞くのはかまへんけど、月子の言う通りにする必要はないで! こいつと一緒にいて無事やった女の子はおらんから……」
その時俺は、健次さんが言っている言葉の意味が分からなかった。
……というより、話の流れが掴めなかった。
月子さんが何かしらウラに話したいということは分かった。
しかし、なんでそれがウラを追い込むことになるのだろう? と思ったのだ。
話が終わると、月子さんと健次さんは帰って行った――。
翌日、俺はジュンと茜ちゃんを車に乗せ地元に帰る。
ウラは月子さんと会うので別行動だ。
「大志、ごめんねー。茜ちゃんのことよろしくね!」
「了解、お前も気をつけて帰れよ! つーか今でも信じらんねーな。なんでお前、月子さんに誘われてんだよ」
「私が聞きたいくらいだよ!」
それだけ言うと、ウラは月子さんの所へ出かけて行った――。
「あー、新鮮な魚は美味しいですねー。クレームも解決したし、松田先輩の話も聞けたし、今日はスッキリしました」
真木さんは食事を済ませるとお茶を飲みながらほっこりしている。
「だなー。静岡は食い物がうめーよ! 俺も出張で来たときは食ったけど、やっぱりいいな」
「うんうん! えーと、それでウラさんはその後どうなったんですか?」
真木さんはさっきの話の続きを俺にせがんだ。
「ああ……。結論から言うと、月子さんはウラを自分の付き人にしたかったらしい。なんでもその当時、関西から関東に住み替えるとかで新生活を手伝う相手探してたんだとさ」
「ふーん。ということは、今ウラさんは月子さんの付き人してるんですか?」
「一応な……。ウラも誘われて一つ返事でOKしたみたいだからなー。当然といえば当然か、だって憧れのバンドの付き人になれるチャンスなんて普通はねーよ! それこそ天文学的確率だ」
「天文学的確率……」
真木さんはその言葉を噛みしめるように繰り返した。
本当に夜空の星から1つ選ぶような確率だ。
「それでな。俺とジュンもバンド続けながら働くことにしたんだ。まぁ、ジュンは母親のところに身を寄せてって形だからまだ融通も効くわけだけど、俺はそうもいかなくてな。完全にウラに人生曲げられたよ」
俺はそう言ってため息をついた。
その様子を見て真木さんは可笑しそうにクスクスと笑う。
「でも、松田先輩楽しそうですよ? ウラさんってきっと先輩にとって大事な人なんですね!」
「……。ま、否定はしねーよ。実際、ウラのお陰で俺らのバンドもそれなりに知名度を得たし、今の仕事だって決して嫌いじゃない。でも肝心のウラは今大変そうなんだよなー」
「え? だってウラさん憧れの人のそばに居れて、バンドも続けられてるんですよね?」
「そうなんだけよ。なかなか鴨川月子って女は曲者でな……」
鴨川月子は色んな意味で酷い女だった。
基本的にマイペースでおっとりしているようだが、激昂するとウラ以上に手に負えない女だった。
好き嫌いが激しく、好きなものはとことん大切にし、嫌いなものには最大限の嫌がらせをする……。そんな女だった。
付き人になったウラはいつもそんな彼女に振り回され続けていた。
下らない用事でパシられ、さらに機嫌が悪いと感情をウラにぶつけた。
健次さんの危惧していたことはこれだったのだろうと思う。
「へー、なんか思い通りにいかないもんですねー」
「まぁなぁ、月並みな言い方だけど、どこの世界も甘くはねーってことだよな。それでもウラは頑張ってるみたいだから俺も余計なことは言わねーけど」
俺はその時、健次さんが言っていた言葉を思い出していた。
2年ほど前、健次さんと俺の2人で飲みに行った時のことを……。
彼はウラを心配するような口調でこう言った。
『なぁ大志君! ウラちゃんほんまに頑張ってるで! 俺がギター教えるとカラッカラのスポンジ並みに吸収してくれるしな! あの子は才能あると思うで。でもな月子が良くないねん。アイツは根はいい奴なんやけど、どうしてもそばに居る子をダメにしてしまうんや』
健次さんはジャックダニエルのストレートを煽りながら続けた。
『せやから大志君! 今からでも遅くない! ウラちゃんを月子から離してやってほしいんや。月子はまるで吸血鬼のように若い子の生気を吸い取ってしまうんや。本人は若々しくいられるけど、一緒にいる子が朽ちていくようで俺は見てられへん。頼むで』
彼は寂しそうな表情を浮かべながら俺の肩を力強く叩いた――。
食事を済ませると、俺と真木さんは新幹線で東京へ戻った。
品川駅で真木さんは何回も何回も頭を下げてお礼を言ってくれた。彼女はやはり実直で真面目なようだ。
俺は真木さんと別れると自宅のアパートに向かうために電車に乗り込んだ。
その時、ウラからLINEがタイミングよく入る。
『お疲れ大志!! 明日ジュンとボウリング行くんだけど大志も行かない? たまには息抜きも大事よー』
やれやれだ。俺や健次さんの心配をよそにウラは元気なようだ。
健次さんの不安が的中しなければいいと思いながら、俺は彼女の誘いに応じることにした。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる