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第四章 株式会社ニンヒアレコード 新宿本社
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対談終了後。私たちはニンヒア近くの喫茶店に向かった。レンガに蔦がびっしり生えていて見るからに老舗といった佇まい。そんな店だ。
「弥生ちゃんお疲れ様。今日も疲れたでしょ?」
席に着くと春川さんがそう言って穏やかに微笑んだ。弥生ちゃんはそれに「大丈夫です!」と元気に答えた。おそらく大丈夫ではない。それが分かるぐらい脊髄反射的な即答だ。
「ハハハ、そんな肩肘張らなくても大丈夫だよ。てかごめんねぇ。ウチの上川くんがまーたデリカシーのないこと言って」
春川さんはそう笑うと私たちに喫茶店のメニューを差し出した。黒革カバーのすり切れたメニュー表。なかなか年季が入っているように見える。
「いえいえ。上川さんには本当によくしていただきました。こちらこそ気遣いさせちゃって申し訳ないです」
「そっか。ま……。弥生ちゃんがそう感じてくれたなら良かったよ」
それから私たちは各々料理を注文した。私はナポリンタンを。フジやんくんは海老ピラフを。弥生ちゃんと春川さんは野菜サンドをそれぞれ頼んだ。実に喫茶店らしい料理だ。これならUGの隣近所の占い喫茶と大差ないと思う。
「香澄ちゃんも今日はありがとね。急に学校休ませたみたいで……」
「ううん。いいんだよ。今日は休めて逆に良かったんだ」
私がそう言うとフジやんくんは「だね」と小声で反応した。どうやら彼も今回の校外学習には満足してくれたらしい。
「藤岡くんもありがとね。ほんと! すごい助かったよ。選んでくれた髪飾りめっちゃ良かった!」
「そ、それなら良かったよ。春日さんって可愛らしい人だから……。薔薇のヘアクリップ似合うと思ったんだ」
フジやんくんはそんな風に戸惑いながらも弥生ちゃんのことを可愛らしいとか言い出した。事実だとしても初見の人にこれを言うのは……。なかなかナンパ野郎みたいだと思う。
「ハハハ、ありがと。嬉しいよ。……あ、そうそう! 藤岡くん良かったら住所教えてくんない? 今回の取材記事できたら送るからさ」
「うん! えーと千葉県千葉市美浜区――」
その後。フジやんくんと弥生ちゃんは私が思っていたよりずっと盛り上がっていた。そして私はそんな二人を横目に春川さんと仕事の話をした。ニンヒアとはこれから良い関係を築きたいのだ。もし上手くいけばUGにとっても有益だし何より叔父の懐具合が潤うと思う。
「そっかぁ。蔵田さんとこってコスプレ衣装も取り扱ってたのね?」
「ええ、そうなんです。DEERとは別に特注の衣装も作ってるんですよ。トライメライさんにもよく卸させて貰ってます」
「……ふむ。なるほどね。だからトライメライだけは衣装協力欄にも毎回名前書かれてたのね。ずっと不思議だったんだ。事務所欄と衣装欄両方に載ってたから」
「そうですね……。一応トライメライさんには自社でやってるってことにしてもらってます。まぁ、実際自社みたいなものなんですけどね。叔父も名前だけはトライメライさんの役付ですから」
そう。事実として叔父はトライメライの役員の一人なのだ。そして役員報酬代わりにUGのあの場所を無償で借りているらしい。
「そんな感じよねぇ。いや、出雲さんのことだから何か上手いことやってるとは思ってたんだよね……。ねぇ鹿島さん? 蔵田さんのやってるコスチュームショップのカタログ的なのって――」
春川さんがそう言い掛けると同時に私はバッグからUGのカタログを一〇冊取り出した。そして「こちらになります」とそれを差し出した。絶好の営業チャンス。これを逃すわけにはいかない。そう思って準備しておいたのだ。
「プッ。何か……。まんまとハメられた気がするなぁ」
春川さんはそう言うと自身の名刺を取り出して私に差し出した。そして「発注するときは電話するよ」と苦笑いした――。
「弥生ちゃんお疲れ様。今日も疲れたでしょ?」
席に着くと春川さんがそう言って穏やかに微笑んだ。弥生ちゃんはそれに「大丈夫です!」と元気に答えた。おそらく大丈夫ではない。それが分かるぐらい脊髄反射的な即答だ。
「ハハハ、そんな肩肘張らなくても大丈夫だよ。てかごめんねぇ。ウチの上川くんがまーたデリカシーのないこと言って」
春川さんはそう笑うと私たちに喫茶店のメニューを差し出した。黒革カバーのすり切れたメニュー表。なかなか年季が入っているように見える。
「いえいえ。上川さんには本当によくしていただきました。こちらこそ気遣いさせちゃって申し訳ないです」
「そっか。ま……。弥生ちゃんがそう感じてくれたなら良かったよ」
それから私たちは各々料理を注文した。私はナポリンタンを。フジやんくんは海老ピラフを。弥生ちゃんと春川さんは野菜サンドをそれぞれ頼んだ。実に喫茶店らしい料理だ。これならUGの隣近所の占い喫茶と大差ないと思う。
「香澄ちゃんも今日はありがとね。急に学校休ませたみたいで……」
「ううん。いいんだよ。今日は休めて逆に良かったんだ」
私がそう言うとフジやんくんは「だね」と小声で反応した。どうやら彼も今回の校外学習には満足してくれたらしい。
「藤岡くんもありがとね。ほんと! すごい助かったよ。選んでくれた髪飾りめっちゃ良かった!」
「そ、それなら良かったよ。春日さんって可愛らしい人だから……。薔薇のヘアクリップ似合うと思ったんだ」
フジやんくんはそんな風に戸惑いながらも弥生ちゃんのことを可愛らしいとか言い出した。事実だとしても初見の人にこれを言うのは……。なかなかナンパ野郎みたいだと思う。
「ハハハ、ありがと。嬉しいよ。……あ、そうそう! 藤岡くん良かったら住所教えてくんない? 今回の取材記事できたら送るからさ」
「うん! えーと千葉県千葉市美浜区――」
その後。フジやんくんと弥生ちゃんは私が思っていたよりずっと盛り上がっていた。そして私はそんな二人を横目に春川さんと仕事の話をした。ニンヒアとはこれから良い関係を築きたいのだ。もし上手くいけばUGにとっても有益だし何より叔父の懐具合が潤うと思う。
「そっかぁ。蔵田さんとこってコスプレ衣装も取り扱ってたのね?」
「ええ、そうなんです。DEERとは別に特注の衣装も作ってるんですよ。トライメライさんにもよく卸させて貰ってます」
「……ふむ。なるほどね。だからトライメライだけは衣装協力欄にも毎回名前書かれてたのね。ずっと不思議だったんだ。事務所欄と衣装欄両方に載ってたから」
「そうですね……。一応トライメライさんには自社でやってるってことにしてもらってます。まぁ、実際自社みたいなものなんですけどね。叔父も名前だけはトライメライさんの役付ですから」
そう。事実として叔父はトライメライの役員の一人なのだ。そして役員報酬代わりにUGのあの場所を無償で借りているらしい。
「そんな感じよねぇ。いや、出雲さんのことだから何か上手いことやってるとは思ってたんだよね……。ねぇ鹿島さん? 蔵田さんのやってるコスチュームショップのカタログ的なのって――」
春川さんがそう言い掛けると同時に私はバッグからUGのカタログを一〇冊取り出した。そして「こちらになります」とそれを差し出した。絶好の営業チャンス。これを逃すわけにはいかない。そう思って準備しておいたのだ。
「プッ。何か……。まんまとハメられた気がするなぁ」
春川さんはそう言うと自身の名刺を取り出して私に差し出した。そして「発注するときは電話するよ」と苦笑いした――。
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