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オリヴァーの昔話
幼少期の出会い・8
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だが、ある日ポツリとつぶやいたマルクの言葉がグランの気持ちを暗くさせた。
「……平民は貴族とは結婚できないんだぞ。だから、このままなら君は、貴族であるミレーとは結婚できない」
それが「オレは大きくなったらミレーをお嫁さんにもらって、一生幸せにしてやるんだ!」という言葉に対して、マルクが返した言葉だった。
それは、グランを絶望させるには十分な言葉であった。
その言葉を告げたときのマルクは、とても悲しそうな顔をしていた。
言い過ぎたのだろうか、と思ったが、どうやら違う理由であったらしい。
その時はマルクの表情の意味より、ミレーと結婚することは出来ない、という事実にショックを受けていた。
「グラン、どおしたの?」
今日もグランは、ルイーザの下へ遊びに行くロザリーに付き添って来ていた。
そして今日はグランの仕事が休みで、マルクも来ない。つまり一日ミレーを独り占めできるのだが、昨日マルクから告げられた「ミレーとは結婚できない」という言葉が、嬉しい気持ちを陰らせていた。
自分が沈んだ顔をしていたのだろうことを、ミレーが心配そうな表情で教えてくれた。
「……大丈夫だ、ミレー。……あの、さ。ミレーはオレのこと、好き?」
不安な気持ちからそう訊ねるグランに対して、ミレーは迷いのない声ですぐに答えた。
「うん! グランも、マルクも、だぁいすき!」
そう全身で喜びを表現するミレーを眩しそうに眺めながら、グランは目を細めた。
「……そか」
ミレーが好きなのは、自分だけじゃない。そうして、マルクは貴族だから、結婚するのならおそらくマルクとであろう。
そう思ったら、なんだか泣きそうになった。
鼻がつんとなる痛みを感じたが、涙は流さない。「オレは泣き虫じゃないからだ」と自分に言い聞かせて。
「ずっとずぅっといっしょだね!」
何もわかっていないのか、ミレーが無邪気にそう言った。
「……あと一週間もしたら、お前は家に帰るんだろう?」
「ここがおうちじゃないの?」
ミレーが不安そうにグランを見上げる。
「……家に帰りたくないのか?」
そう訊ねると、ミレーはやや躊躇ったあと、こくりと小さく頷いた。
「……おかあさまも、ここにいるほうが、えがおになれるから」
「……そうなのか」
ミレーの家庭事情は知らない。だが、あまり良くないことは確かそうだ。
ただ、ミレーが母親のことを好いていることと、この下町にいることを嬉しいと思っていることは分かった。
そして、グランの母・ロザリーも、ルイーザが来てから見違えるように元気になった。
それを、嬉しく思わないわけがない。
いつまでもこんな日々が続いてほしいと思ったが、そうはいかないのだろう。
「……ミレー。寂しくなったら、いつでもまたココに来いよ? オレたちが、いつでもお前の助けになるから、な」
「?」
その言葉が難しかったのか、ミレーはきょとんとしていた。
グランは考えてから、言い直した。
「イヤだなって思ったら、いつでも母ちゃんと一緒にここへ来い。そんで、また遊ぼうな」
そちらは通じたようで、ミレーは目を輝かせて「うんッ!」と頷いた。
その「うん」は、元気が良かったというより、どこか『安堵した』という様子にも見えた。
「……やっぱ、かわいいな」
ミレーを見つめながらそう呟いたグランの言葉には気付かず、ミレーは広場へ向かって走り出し、グランもその後をとぼとぼと追った。
「……平民は貴族とは結婚できないんだぞ。だから、このままなら君は、貴族であるミレーとは結婚できない」
それが「オレは大きくなったらミレーをお嫁さんにもらって、一生幸せにしてやるんだ!」という言葉に対して、マルクが返した言葉だった。
それは、グランを絶望させるには十分な言葉であった。
その言葉を告げたときのマルクは、とても悲しそうな顔をしていた。
言い過ぎたのだろうか、と思ったが、どうやら違う理由であったらしい。
その時はマルクの表情の意味より、ミレーと結婚することは出来ない、という事実にショックを受けていた。
「グラン、どおしたの?」
今日もグランは、ルイーザの下へ遊びに行くロザリーに付き添って来ていた。
そして今日はグランの仕事が休みで、マルクも来ない。つまり一日ミレーを独り占めできるのだが、昨日マルクから告げられた「ミレーとは結婚できない」という言葉が、嬉しい気持ちを陰らせていた。
自分が沈んだ顔をしていたのだろうことを、ミレーが心配そうな表情で教えてくれた。
「……大丈夫だ、ミレー。……あの、さ。ミレーはオレのこと、好き?」
不安な気持ちからそう訊ねるグランに対して、ミレーは迷いのない声ですぐに答えた。
「うん! グランも、マルクも、だぁいすき!」
そう全身で喜びを表現するミレーを眩しそうに眺めながら、グランは目を細めた。
「……そか」
ミレーが好きなのは、自分だけじゃない。そうして、マルクは貴族だから、結婚するのならおそらくマルクとであろう。
そう思ったら、なんだか泣きそうになった。
鼻がつんとなる痛みを感じたが、涙は流さない。「オレは泣き虫じゃないからだ」と自分に言い聞かせて。
「ずっとずぅっといっしょだね!」
何もわかっていないのか、ミレーが無邪気にそう言った。
「……あと一週間もしたら、お前は家に帰るんだろう?」
「ここがおうちじゃないの?」
ミレーが不安そうにグランを見上げる。
「……家に帰りたくないのか?」
そう訊ねると、ミレーはやや躊躇ったあと、こくりと小さく頷いた。
「……おかあさまも、ここにいるほうが、えがおになれるから」
「……そうなのか」
ミレーの家庭事情は知らない。だが、あまり良くないことは確かそうだ。
ただ、ミレーが母親のことを好いていることと、この下町にいることを嬉しいと思っていることは分かった。
そして、グランの母・ロザリーも、ルイーザが来てから見違えるように元気になった。
それを、嬉しく思わないわけがない。
いつまでもこんな日々が続いてほしいと思ったが、そうはいかないのだろう。
「……ミレー。寂しくなったら、いつでもまたココに来いよ? オレたちが、いつでもお前の助けになるから、な」
「?」
その言葉が難しかったのか、ミレーはきょとんとしていた。
グランは考えてから、言い直した。
「イヤだなって思ったら、いつでも母ちゃんと一緒にここへ来い。そんで、また遊ぼうな」
そちらは通じたようで、ミレーは目を輝かせて「うんッ!」と頷いた。
その「うん」は、元気が良かったというより、どこか『安堵した』という様子にも見えた。
「……やっぱ、かわいいな」
ミレーを見つめながらそう呟いたグランの言葉には気付かず、ミレーは広場へ向かって走り出し、グランもその後をとぼとぼと追った。
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