私は普通のJKです! なのに転生騎士団全員から「我らが女王」とか呼ばれてるんですが!?

八百屋 成美

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9. 夢見ヶ崎さんって、何者?

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 入学してから約一ヶ月が経過した。
 私の学園内での立場はこの一ヶ月で劇的に変化……いや、悪化の一途をたどっていた。
 当初、私は「学園のアイドルであるイケメン四人組に、なぜか入学式で公開プロポーズされた謎の地味な女」だった。
 それが今では、すっかりこう呼ばれるようになっていた。

『四天王を従えし、謎多きクールビューティー』。

 ……誰がクールビューティーだ。
 この現実と百八十度かけ離れた不名誉極まりない二つ名が定着してしまったのには、いくつかの理由がある。
 まず第一に、騎士団の四人が私以外の人間と話している時と私と接している時とで、あまりにも態度が違いすぎることだ。
 彼らはそのルックスとカリスマ性、そしてそれぞれが持つ卓越した能力(勉強、運動、その他諸々)によって、すでに学園内で『四天王』という実にありがたくない呼び名で呼ばれるようになっていた。
 そんな彼らが他の生徒たちには気さくで、完璧で、手の届かない憧れの存在として振る舞う一方で、私の前でだけはなぜか跪いたり、傅いたり、あるいは子犬のようにじゃれついてくる。その異常なギャップが「夢見ヶ崎乃蒼は、あの四天王を従えるほどの大物なのではないか?」という、とんでもない憶測を生んでしまったのだ。
 第二に、私が彼らの奇行に対してもはやまともな反応を返す気力を失ってしまったことだ。
 最初の頃は「やめてください!」「違います!」と必死にツッコミを入れていた。しかし、私の否定や拒絶が彼らにとっては何の意味もなさない、むしろ喜ばせるだけの燃料にしかならないと悟ってからは、私はある種の諦念と共に彼らの行動を「無」の表情で受け流すようになってしまった。
 一条くんが「乃蒼様、本日のご機嫌はいかがですか!」と大声で話しかけてきても、私はただ静かに頷くだけ。如月くんが「本日の貴女様のストレス指数は72%。原因の9割はレノーです」とレポートを差し出してきても、無言で受け取るだけ。倉吉くんが背後にいつの間にか立っていても、もう驚かない。早苗くんが頭を撫でてきても、されるがまま。
 この感情の起伏を一切見せない私の態度が、周囲の目には「何をされても動じない、肝の据わったクールな美女」と映ってしまったらしいのだ。
 本当は違う。私はただ、あらゆる感情を消費し尽くし、心が枯渇しているだけなのだ。胃痛と寝不足で顔色が悪いのを「ミステリアスな雰囲気」と勘違いされているだけなのだ。
 結果として私の『平凡なJKライフ計画』の最重要項目であった、「普通の友達作り」は絶望的な状況に陥っていた。
 誰も、私に話しかけてこない。
 男子生徒は倉吉くんの秘密裏の牽制を恐れてか、私と目を合わせようともしない。女子生徒たちは私を「四天王を独占する、格上の女」と認識しているのか、遠巻きにヒソヒソと噂話をするだけで、決してその輪の中に入れてはくれなかった。
 唯一の例外は、隣のクラスの空崎莉緒ちゃんだけだ。
 彼女だけが「よっ、クールビューティー! 今日も大変そうだね!」と、からかうように、しかし親しみを込めて話しかけてくれる。彼女の存在がなければ私はとっくに精神の均衡を失っていたかもしれない。

「もはや、これまでか……」

 ある日の昼休み、屋上へと続く階段の踊り場で私は一人、空になった弁当箱を前にため息をついていた。教室は騎士団がいるせいで全く気が休まらない。最近ではこの場所が、私の唯一の安息地となっていた。
 友達ゼロ。会話する相手もなし。
 クラスでは完全に孤立し、腫れ物のように扱われる日々。
 私が夢見た、きらきらと輝く、普通の高校生活は一体どこにあるのだろう。

「やはりここにいらっしゃいましたか、乃蒼様」

 その声に、私のささやかな安息は終わりを告げた。
 階段を上がってきたのは、騎士団の四人だった。どうやら教室に私の姿がないことに気づき、探しに来たらしい。倉吉くんあたりが私の居場所を特定したのだろう。

「乃蒼さま、こんなとこで一人でメシ食ってたのか? 声かけろよー」

 早苗くんが屈託なく言う。その言葉が私の心をチクリと刺した。

(声をかけられる友達が私にはいないんだよ……)

「乃蒼様、お一人での食事は栄養の吸収効率、及び精神衛生上の観点から推奨できません。次回からは、我々と共に」

 如月くんが冷静に分析する。

「そうだぞ、乃蒼様! 昼食は皆で楽しく摂るものだ! 我らが貴女様の完璧なランチタイムを演出してご覧に入れましょう!」

 一条くんが自信満々に胸を張る。
 彼らの言葉にはいつものように、一ミクロンの悪意もない。
 純粋な善意と忠誠心。
 そして、その善意が私の心をじわじわと追い詰めていることに、彼らは全く気づいていない。
 私の心の中にどす黒い感情が渦巻くのがわかった。
 怒り、悲しみ、そして、諦め。

(……ああ、もう、どうでもいいや)

「……好きにすればいいじゃないですか」

 ぽつりと、自分でも驚くほど冷たい声が、私の口から漏れた。

「え?」

 きょとんとする四人を私は枯渇しきった瞳で見上げた。

「あなたたちが私のことを『女王』だって言うなら、それでいいです。私があなたたちを従えてるように見えるなら、それでもう結構です」
「乃蒼様……?」
「もう疲れました。否定するのも、ツッコむのも。友達を作ろうと努力するのも。……平凡な日常なんて、もう、諦めましたから」

 自嘲気味に、私はふっと笑った。
 その瞬間、四人の顔色が変わった。
 特に、一条くんはまるで雷に打たれたかのように目を見開き、愕然とした表情で立ち尽くしていた。

「……諦めた? 乃蒼様が……我々のせいで……?」

 彼の声は震えていた。
 いつも自信に満ち溢れていた彼の瞳から、光が消えていく。
 如月くんは厳しい顔で唇を噛み締め、倉吉くんは悲しげに目を伏せ、早苗くんでさえいつもの笑顔を消して困惑したように私と一条くんを交互に見ている。
 初めてだった。
 私の言葉が彼らに、「都合のいい解釈」をされずにそのままの意味で届いたのは。
 そして、彼らが自分たちの行動が私を傷つけていた可能性に、ようやく思い至ったのは。
 重い沈黙が、踊り場に落ちる。
 五時間目の開始を告げる予鈴がその沈黙を破るように、遠くで鳴り響いた。

「……教室に、戻ります」

 私は立ち上がると彼らの横をすり抜けて、無言で階段を下り始めた。
 背後から誰も追いかけてはこなかった。
 この日を境に、私の日常はまた少しだけ形を変えることになる。
 しかし、それが良い変化なのか、それとも、さらなるカオスへの序章に過ぎないのか。
 それを知る者は、まだ誰もいなかった。
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