私は普通のJKです! なのに転生騎士団全員から「我らが女王」とか呼ばれてるんですが!?

八百屋 成美

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20. 結果発表とズレたご褒美

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 長かった中間試験が終わり、数日が経った。
 答案が返却される運命の日。教室には朝から期待と不安が入り混じった、そわそわとした空気が漂っていた。

「はぁ……心臓に悪い……」

 私は自分の席で、ぎゅっと目を閉じ、神に祈るような気持ちでその時を待っていた。
 自分の成績ももちろん気になるが、それ以上に気がかりなのは、やはりあのダメ騎士二人の結果だ。あれだけ無茶苦茶な特訓をしたのだ。せめて赤点だけは回避していてほしい。もしそうでなかった場合、彼らがどんな奇行に走るか、そして私がどんな面倒に巻き込まれるか、想像するだけで胃が痛くなる。
 隣の席では莉緒ちゃんが「いよいよだね、公開処刑タイム」と、結果を楽しみにしている。
 やがてホームルームのチャイムが鳴り、担任の教師が分厚い答案の束を抱えて教室に入ってきた。

「えー、じゃあ今から試験の結果を返すぞー。名前を呼ばれたら前に取りに来い。一教科でも赤点だった奴は放課後、俺のところに来るように。補習について、ありがたーいお話をしてやる」

 その言葉に教室のあちこちから小さな悲鳴が上がる。
 そして無情にも名前が一人、また一人と呼ばれ始めた。
 私の心臓が、ドクン、と大きく跳ねる。

「……一条」

 呼ばれた瞬間、一条くんはビシッと背筋を伸ばし、まるで戦場に赴くかのように力強い足取りで前へと進み出た。クラス中の視線が、彼の背中に集まる。
 担任から答案を受け取った彼はその場で恐る恐る、一枚ずつ答案を確認していく。
 そしてその表情が一瞬、固まった。

(……ダメだったか)

 私が思わず顔を覆おうとした、その時だった。

「…………おお」

 彼の口から信じられない、といった様子の小さな感嘆の声が漏れた。
 そして彼はゆっくりと震える手で、ガッツポーズを作った。

「やった……。やりましたぞ、乃蒼様……!」

 彼は涙ぐみながら、こちらを振り返って叫んだ。
 その手には赤々と「32点」と書かれた答案が握られていた。
 ……32点。
 お世辞にも良い点数とは言えない。むしろ、かなり低い。
 だが、この学校の赤点の基準は30点未満。
 つまり彼はギリギリのところで全教科、赤点を回避したのだ。

「うおおおおおおおおっ!」

 一条くんは雄叫びを上げながら席に戻ってきた。その姿はまるで激戦の末に勝利を掴んだ凱旋将軍のようだった。

「如月!」
「はい」

 如月くんは涼しい顔で教壇に立ち、返された答案の束をパラパラとめくる。その表情からは何も読み取れない。しかし、彼の席に戻る足取りに一切の淀みがなかったことから、おそらくは想定通りの高得点を叩き出したのだろう。

「倉吉!」
「……はい」

 倉吉くんも静かに答案を受け取り、誰にもその点数を見せることなく、自分の席へと戻っていった。彼もまた計画通り、完璧な「平均点」に着地したに違いない。

「次、早苗!」
「おう!」

 早苗くんも一条くんに負けず劣らずの勢いで答案を取りに行く。
 そして彼もまた、答案を見た瞬間に目を丸くし次の瞬間、くしゃっと顔を歪めて笑った。

「……へへっ。やったぜ……」

 彼の数学の点数は「31点」。こちらもまた、奇跡的なまでのギリギリの滑り込みセーフだった。
 二人が全教科で赤点を回避した。
 その事実に、私は自分のことのように安堵のため息をついた。本当によかった。私の苦労も無駄ではなかったのだ。
 ちなみに私の成績は、全体的に平均より少し上という、実に理想的で平凡な結果に終わったことをここに記しておく。
 その日の放課後。
 私たちはお祝いと称して、ファミリーレストランに集まっていた。

「乾杯!」

 莉緒ちゃんの音頭で、私たちはドリンクバーのグラスをカチンと合わせた。

「いやー、マジでおめでとう!」
「ははっ、これも全て乃蒼教官殿の愛の鞭のおかげであります!」
「マジで乃蒼がいなきゃ、俺たち今頃、職員室で説教食らってたぜ!」

 一条くんと早苗くんは解放感からか、いつも以上に上機嫌だった。
 そんな彼らの姿を見ていると、私の心も自然と温かくなる。大変だったけれど、頑張ってよかった。

「それでね」

 莉緒ちゃんが何かを思いついたように、ニヤリと笑った。

「せっかく赤点を回避できたんだからさ、乃蒼ちゃんから二人にご褒美をあげなきゃね!」
「ご褒美?」

 私の問いに、一条くんと早苗くんの目が、カッと見開かれた。

「ご褒美! 乃蒼様からのご褒美!?」
「マジで!? なになに!?」
「え、いや、私は別に……」

 私が戸惑っていると莉緒ちゃんは悪戯っぽく、私にだけ聞こえる声で囁いた。

「いいじゃん、たまにはさ。あんだけ頑張ったんだから、何かしてあげなよ。あんたもちょっとはあいつらのこと……ねえ?」
「……!」

 莉緒ちゃんの言葉に私の顔が、カッと熱くなるのを感じた。
 私がもじもじしていると、しびれを切らした一条くんがガタリと席を立った。
 そして、彼はいつかの入学式のように、私の前に恭しく片膝をついた。

「乃蒼様! 我らにご褒美をくださるのであれば、お願いがあります!」

 彼は真剣な瞳で、私を見上げてくる。

「我々と結婚を前提とした……いえ、まずはお付き合いからで結構です! どうか、我々のこの想いを受け入れてはいただけませんでしょうか!」
「俺も! 俺も、それがいい!」

 早苗くんも彼の隣に並んで、元気に手を挙げる。

「乃蒼さまのこと、マジで、好きだからさ! 頼む!」

 ……また、これだ。
 せっかく少しだけ、良い雰囲気だったのに。
 なぜ、この人たちはすぐに、話がそっちの方向に飛躍してしまうのだろうか。
 私の額に青筋が浮かぶのが、自分でもわかった。
 そして、私はにっこりと最高の笑顔を作って、彼らに告げた。

「……ご褒美、ですね。わかりました」
「おおっ!?」
「では、お二人にプレゼントを差し上げます」

 私は鞄から、二冊の真新しいノートを取り出した。

「次の期末試験に向けての『特製・弱点克服ドリル』です。私がこの数日間、あなたたちの答案を分析して特別に作ってあげました。全百ページ、全ての設問に私が愛を込めて、手書きでイラスト付きの解説も入れておきましたよ」

 私の言葉に一条くんと早苗くんの笑顔が、ぴしり、と固まった。
 彼らの目の前に分厚い「ドリル」という名の現実を、ドン、と置いてあげる。

「さあ、受け取りなさい。これが私からの最高のご褒美です。期末試験では、せめて平均点を目指して頑張ってくださいね?」

 私の悪魔のような微笑み。
 それを見て、二人は顔面蒼白になりながら、震える手でそのドリルを受け取った。
 こうして、私たちのつかの間の祝勝会は次なる戦いへの宣戦布告の場と化した。
 ズレたご褒美に絶望するダメ騎士二人。
 それを見て腹を抱えて笑う、莉緒ちゃんと伊呂波くん、倉吉くん。
 まあ、でも。
 こんな騒がしくて面倒くさくて、どうしようもない毎日も。
 案外、悪くないのかもしれないな、なんて。
 ドリルを前に頭を抱える二人の姿を見ながら、私はほんの少しだけ、本当にほんの少しだけそう思うのだった。
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