どら焼は恋をつなぐ

谷内 朋

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長すぎる序章

……終わったように見せかけて

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 「ただいまぁ」
 この日お父さんは土曜日だったんだけどお仕事があって、お昼過ぎに帰ってきました。お母さんはお仕事で外国に行ってて来週末まで帰ってきません。僕は二人の弟と留守番をしていて、三人でお父さんを玄関までお出迎えに行くのが日課なんです。
 「お帰りなさぁい♪……こんにちは」
 お父さんの隣に知らないお兄さんが立ってたんだけど、テレビで見るような俳優さんみたいにカッコ良くて背が高くて……僕と同じ男の人なんだけど、何だか見てるとドキドキしちゃうなぁ、この人。
 「紹介するよ。こちら畠中星哉さん、お父さんと同じ会社で働いてるんだ。こっちはウチの息子たち。大きい順に長男のマコト、次男のイサム、三男のススムだよ」
 「畠中星哉です、こんにちは」
 畠中さんというイケメンさんはしゃがんで僕たちの目の高さに合わせて挨拶をしてくれました。僕は体が小さいので、上から覆い被さるように見下ろしてくる大人の人が苦手なんです。でもその点お父さんが連れてくる職場の方はそんな事してこないので、僕の中では大丈夫な大人の人、なんです。この前来た沼口ヌマグチさんって方も気さくで楽しい人だったなぁ。晋凄く懐いちゃってお帰りになる時泣いてたもん。
 「初めまして……小田原誠オダワラマコトです……」
 僕はこれでも精一杯の愛想を振り撒いて挨拶をしました。端から見るとむしろ距離を取っているように見られがちなんですが、彼は優しい笑顔で頭を撫でてくれました。
 「早速なんだけど誠に勉強教えてやってよ」
 えっ!?僕は思わず声を出してしまいました。どうしよう……あのつやっつやな瞳で見つめられちゃうと余計に緊張しちゃうなぁ……。
 「あの、事前にちゃんと言ってあげてました?」
 「ううん、今思い付きで」
 もう!お父さんはたまにそういう事するんです。きっと悪気はないと思うんですけど、畠中さんご迷惑じゃないのかなぁ?僕はそっちの方が気になって変な緊張をしています、今。
 「えっと誠君、だっけ。イヤなら無理しなくて良いからな」
 「いっ、あのっ……ええっと……」
 僕の体には全く空気が入らなくて頭も全然働きません。せめてイヤじゃないって事は伝えないと誤解されちゃうよぉ~!
 「じゃあぼくとおあちょびちてぇ♪」
 こういう時晋の性格が羨ましくなります、何の気兼ねなく初対面の畠中さんの脚にまとわりついておねだり出来ちゃうんだもん。でもでもっ、ここは我が弟を見習って、せめてイヤじゃない事は伝えないと……。
 「晋、お遊びは誠兄ちゃんのお勉強が終わってからね、それまでは勇兄ちゃんとパパと一緒」
 はぁい。晋はちょっとつまらなさそうにしてたけど、お父さんの助け船のお陰で僕は素敵で格好いい畠中さんに勉強を教えてもらえる事になりました。
 
 「宿題と言っても『教えてもらう』感じの物ではないんです……」
 僕は畠中さんを子供部屋に案内したんですが、実は四十七都道府県を覚えるのが今回の宿題なんだよね……僕は社会科の教科書を見せてその事を説明しました。畠中さんは教科書を見ながら、どれくらい覚えた?と訊ねてきました。
 「え?ええっと……その……」
 暗記の苦手な僕はしどろもどろしてきちん返事が出来ません。畠中さんは教科書から視線を外して僕の顔を見ています。そっそんな綺麗な瞳で見つめないでください、緊張します……。
 「じゃあ取り敢えず言ってみな、覚えてる分だけでも」
 「あっあの……僕暗記がすっごく苦手で……」
 「だからって零じゃないだろ?ここは?」
 確かにその通りです、僕はここの都道府県名を答えたら、なっと優しい笑顔を見せてくれました。
 「そしたら隣接してる都道府県名は言えるか?」
 「ハイ」
 それは真っ先に暗記したのですらすらと答える事が出来ました。じゃあ今度は、と同じ地方で括られてる都道府県名も訊ねられて、それも毎日見る天気予報で覚えてしまっていたので答える事が出来ました。すると畠中さんは僕の頭を優しく撫でて意外な事を言いました。
 「それだけ覚えられてたら全然問題無いよ、苦手意識なんて持たなくて良いさ。俺は隣接してる都道府県すらまともに分かってない大人をいっぱい知ってる、やっつけ仕事で詰め込んだところで使えなきゃ暗記する意味なんて無いんだよ」
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