どら焼は恋をつなぐ

谷内 朋

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やっとこさ本編

……ちゃんと話した方が良いのかな?

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 「もうすぐ出来るからそれまで我慢してよ」
 僕は伽月君の目論みを牽制します。十歳の晋だってちゃんと待ってるのに……見た目より子供っぽいところあるんだから。お姉ちゃんはお姉ちゃんで出来上がりが待ちきれないみたいで、お母さんと一緒に食べてるミックスナッツをつまみにビールを飲んでいます。まぁほぼいつもの事だし、つまみ食いよりは……マシかとも思ったけどどうなんだろう?と考えてる間につまみ食いしやがった!
 「もうっ!駄目だってば!」
 「だってさ、カルパッチョがどうしても今食ってほしいなぁってさ……」
 「言わないからっ!絶対言わないからっ!!!」
 ったく、油断も隙もありゃしない!ちゃんとフォークも出してあるのに手で食べちゃって……。
 「俺には聞こえたんだよ、心が澄んでるからだろうな」
 「そういう事自分で言う?しかも輝君の受け売りだし」
 輝?伽月君の表情が急に変わりました。えっ?僕何か変な事言った?
 「輝が何だって?」
 彼の口調が一気に変わって僕の胸がざわつき始めました。一体どうしちゃったんだろう……?
 「こ、この前パフェのウエハース食べられちゃったでしょ?その時同じ様な事言ってたの……覚えてない?」
 「あぁ、その事な。今の今まで忘れてたわ」
 伽月君はそう言って笑顔を見せましたが、心なしか表情は固いままです。何なんだろう?今僕の中で物凄い罪悪感……ひょっとして勘付いてるのかな?それとも……。
 「兄ちゃん、ピザ焼けたよ」
 ……はっ!考え事してたらオーブンのアラーム聞き逃してました。僕は慌ててオーブンに駆け寄って出来上がったピザを取り出します。勇が用意してくれてる大皿に乗せてピザカッターで八等分に切り分けてテーブルに置くと、お姉ちゃんと晋も席に着いていました。
 「ピザかぁ、ビールに合うわ」
 いただきます。お姉ちゃんは早速ピザを頬張っています。
 「いただきまぁす。伽月君居るのにこれで足りるの?」
 「大丈夫、今からもう一枚焼くから」
 「一枚じゃ足んねぇよ、もう二??三枚は……」
 伽月君は既に元の表情に戻って悪態を吐いてきます。最近口の聞き方が星哉君化してません?同居してると似てくるのかな?でもそのための手は打ってます。お父さんとお母さん用の夜食にお米炊いてるんだよねぇ、念のため五合。
 「お米あるからおにぎり作ってあげるよ」
 「ん、頼むわ」
 彼は次の一手に満足したみたいです、僕の分ちゃんと残しててよ。って思ったそばからもう無くなってるじゃない!伽月君ってば、二枚一気に食べないでよ!
 「んもぅ??、残しててよぉ……」
 「もう一枚焼いてんだろ?それくらい待てよ」
 「逆なら怒るくせに……」
 「お前今何つった!?」
 伽月君は僕を捕まえてこめかみをグリグリしてきます、これが半端無く痛い……僕はすぐさま白旗を挙げて降参、加減はしてくれてても結構な馬鹿力してるんだよね。僕はちょっと涙目になりながらこめかみをさすり、伽月君はふんっ!と鼻を鳴らして元の位置に座り直すと、食べかけのピザをあっさり完食してしまいました。
 「ううぅ……」
 「諦めな、兄ちゃん。力勝負じゃ勝てないよ」
 ……うん、僕は勇になだめられておにぎりの具材を準備します。お米そろそろ蒸らせてるだろうから握り始めよう、ピザの方はまだかかるし。やっぱりツナマヨは外せないよね?それに梅干しとおかかと昆布の佃煮、あとはお父さんが塩むすび(しかも海苔を巻かない裸タイプ)が好きなのでそれと……。さっき塩戸棚に仕舞っちゃったから出さないと。
 「兄ちゃん、どのタイミングで食べるの?スープ冷めちゃってるよ」
 「ピザが焼けるタイミングで食べようかな、って」
 「そっち代わるから、スープとパスタくらいは食べておけば?」
 勇は僕の隣に立ってツナ缶とお箸を取り上げてしまいます。こうして改めて立っている弟はすっかり大きくなっています。
 「?何見てんの?」
 「うん、大きくなったなぁ、って。身長何センチなの?」
 「百六十七、一年生にしては大きいらしいけど……上を目指すなら二メートルあっても良い競技でしょ?」
 「上……ってどこ目指してんの?」
 「ん?オリンピック代表かな」
 そ、壮大過ぎて僕には想像できない……思わず固まってしまいました。すると伽月君が、夢はデカイ方が良いとフォローしてくれます。確かにそうだよね、なら僕の夢ってちっぽけなのかな……?
 「そう言ってくれる人って案外少ないんだよね。兄ちゃんみたいにびっくりしてるだけなら良いんだけど、時々『身の程をわきまえろ』的な事言ってきたり蔑視してくる人も少なからず居るから」
 「そんなの放っときゃ良いさ、そいつらの言う事聞いて後悔したって責任取ってくんないんだから……誠、お前何固まってんだ?」
 「えっ!?……勇の夢が壮大過ぎて」
 「で、『僕の夢ってちっぽけなのかなぁ?』とか考えてたんだろ?」
 わわっ、読まれてる!何で?
 「夢とか目標は人それぞれで大小も優劣も無いんだよ。腹減ってるとそっちに考えが行き易くなるから、取り敢えず食え」
 美味いぞ、お前の作る飯。彼のその一言が僕の劣等感をいとも簡単に溶かしてくれました。こうして僕の作った料理を美味しそうに食べてくれる人が目の前に居る、これって案外幸せな事だよね。お姉ちゃんも晋も綺麗に平らげてくれています。
 「ピザあと何分くらいで焼ける?」
 七分ほどだよ。僕はお姉ちゃんの問いに答えてから、普段から使ってる指定席に着いて、冷製パスタとぬるくなったスープを食べ始めました。
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