どら焼は恋をつなぐ

谷内 朋

文字の大きさ
45 / 145
やっとこさ本編

…何てこった…

しおりを挟む
 『キスの中で一番好きな味って誰だった?』
 頭の中で勇の質問がグルグルと回ってる。俺は誠の自宅を出て帰宅途中の電車に乗って自問自答状態だ。夕飯前に聞かれた事だからもう勇には答えたんだけど、実は咄嗟に嘘ついちまったんだ。
 『う~ん、強いて言えば前カノかな』
 確かに歳上で芸能活動なんかやってるレベルの美人だし、ご家族も美容系の仕事をされてる関係なのかセンスの良いフレグランス使ってたんだ。でもそれって本人の香りじゃないだろ?彼女とはもちろんセックスだってしてるけど、とにかく何と言うか……化粧品の使い方が上手くてほぼ必ず何らかの香りを纏ってたんだ。それで本来の体の匂いってのがよく分からなくてさ、勇の意図した答えになってない様な気がしてその質問が頭から離れないんだ。
 『キスの味』……まぁあけすけに言ってしまえば直前に食べてた物の影響がでかい。あとぶっちゃけ歯磨き直後のミントな感じが多いと思うよ、やっぱり気にはなるだろ?特に女の子だとさ。だから体を寄せ合った時の微かに香る匂いの方が勇の質問の答えに近いのは間違い無いと思うけど、本当に純粋な答えとなると……誠なんだよ。
 誠の持ってるあのふんわりとしたホットミルクみたいな甘い香り、何となくだけど死んだ母親の優しさを思い出すんだ。俺には母親の記憶を引き出せない、ただ誠の体の匂いが唯一それを思い出させてくれるんだ。記憶として思い出せなくても、遺影でしか顔を知らなくても、ちゃんと母親から愛情を貰えてたって安心感ももたらしてくれる。いくら兄貴から話を聞かされても実感沸かないしさ、ずっと入退院を繰り返してる人だったらしいから写真も残ってないんだよ。だからって事もないけど誠の存在は俺の癒しだし、形はどうあれ一生傍にいて欲しい、手の届く所に、せめて目の届く所に。
 輝の事、どうするんだろう……?そんな事ばっかり考えてると危うく降り損ねるとこだった!俺は慌てて立ち上がり、電車を飛び降りた。

 伽月君が家を出て、キッチンに立って洗い物をしてるところに勇がひょっこりやって来ました。
 「手伝おうか?」
 「大丈夫、もう終わるから」
 そう。勇は風呂上がりだったみたいで、冷蔵庫から麦茶を取り出してます。食器棚からグラスを取り出して注ぎ入れると、ダイニングでお茶を飲み始めます。
 「あのさぁ、ぶっちゃけキスした事ある?」
 「へっ!?な、何?やぶからぼうに」
 「いや、単なる興味本位で聞いてみただけ」
 勇はそう言ってニンマリと笑います、こういう時アイツは何か企んでます。
 「……まだしたこと無い」
 当然氷泉のそれは数に入れてやりません。この前のはおまじない的な物だし……ちゃんとしたキスってやっぱり無いなぁ……。
 「やっぱり、その嘘はもう通用しないよ」
 えっ……?もしかしてあの時の事言ってんの?だってアレはキスとしてカウントしないって伽月君と話し合って……ってか何でお前が知ってんの!?
 「まさかあの時……」
 「それに関してはゴメン!その現場覗いちゃったんだ。ただ誰にも言ってないよ」
 勇は顔の前で手を合わせます。
 「そこは疑ってないから……」
 「あっ、でもさっき伽月君には言った」
 「良いよ、彼は当事者だから。でも何で三年も前の事を今になって?」
 「何かさ、伽月君と兄ちゃんの関係ってそろそろてこ入れが必要なんじゃないかな、って」
 てこ入れ?勇は一体何が言いたいんでしょうか?僕にはさっぱり分かりません。
 「うん、これまでの関係をちょっとシフトチェンジしてみたら?」
 「シフトチェンジ?」
 「そっ。ただでさえ普通の男友達的な感じじゃないんだからさ」
 「そうかな?普通の男友達だと思うけど」
 「普通の男友達はキスなんてしない!例え話し込んでたにしても男二人シングルベッドで寝ない!」
 「だって眠くなったら動くの面倒臭いじゃない」
 「恋人でもない相手と体寄せ合うなんてむさ苦しいだろ?」
 「まぁ……でも伽月君は友達だもん、そんな風に思った事無いよ」
 僕は正直に言ってるんだけど、勇は僕よりも大きな目を一の字になるまで細めて疑わしげにしています。この顔する時は確実に僕の言葉を信じてません。
 「何で信じてないの?僕正直に話してるよ」
 「発言に無理があるから。ってか二人付き合えば?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完】君に届かない声

未希かずは(Miki)
BL
 内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。  ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。 すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。 執着囲い込み☓健気。ハピエンです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

学校一のイケメンとひとつ屋根の下

おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった! 学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……? キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子 立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。 全年齢

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

処理中です...