どら焼は恋をつなぐ

谷内 朋

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やっとこさ本編

語り部ジャック 泰地編 勘の良い兄嫁

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 翌日の昼頃、波那ちゃんのケータイがぶるぶると震え出す。
 「はい。あぁ、誠君?どうしたの?」
 波那ちゃんの手伝いでリビングの掃除をしていた俺の手が思わず止まってしまう。この日は日曜日、学校は休みだからな。通話はものの一分もしないうちに終わり、波那ちゃんはキッチンの食器棚をごそごそと漁り出した。
 「誠家に来るのか?」
 「うん、ゼリー作ったんだって。多分伽月の見舞いのつもりで作ったんだろうけど……きっと僕たちにも分けてくれるかも、と思って」
 「それなら持ってってやれば?」
 「そうしたいところなんだけど、日曜日の面会は午前中だけなんだ」 
 明日食べさせよう。波那ちゃんはキッチンに立ってガラス製の器を洗い始める。それでか……今朝見舞い用のサンドウィッチ物凄く慌てて作って休日出勤の兄さんに持たせてたんだな。
 「ところで、誠何時頃来るって?」
 「聞かなかったけど、二時過ぎとかくらいなんじゃない?」
 「それなら俺迎えに行くよ」
 「分かった、その前に軽く何か食べよう。サンドウィッチで良い?」
 「うん、コーヒーある?」
 「インスタントで良ければあるよ、伽月のが」
 そっか、波那ちゃんも兄さんもコーヒー飲まないからな。兄さん外では飲むんだけど、朝食が完全和食だからコーヒーより緑茶の方が好きなんだ。伽月は朝食がシリアルかパンだから、今でもカフェオレ作ってんだろうな。
 「伽月カフェオレは自分で作ってる?」
 「うん、朝食は全部自分で作ってる。目玉焼き焼いたりサンドウィッチ作ったり。時間がある時は蒸し野菜とかスープとか、さすが手慣れてるよ」
 なんだ、案外ちゃんとやってんじゃんか。『このところ波那ちゃんに任せきり』とか言ってたのに……所々俺よりくそ真面目な性分してるからな、アイツ。波那ちゃんは今朝作ったサンドウィッチとミルクスープを用意してくれる。俺は伽月のコーヒーを頂いてブラックを淹れる。俺たちはダイニングテーブルに向かい合って座ると、ちょっと良いかな?と波那ちゃんが話を切り出してきた。
 「伽月の事なんだけど……このところ悩める青少年状態なんだよね」
 そうなのか……アイツそんな前から悩んでたんだな。
 「伽月から何か、聞いてない?」
 えっ?俺はすぐに返事出来なくて波那ちゃんの顔を見る。
 「ここ二週間メールもほとんどしてないから……」
 「テストが控えてたからそうかもね。で、昨日は?お見舞い行ってるもんね?」
 波那ちゃんは更に突っ込んで訊ねてくる。さすがに弟の秘めたる思いを軽々しく口に出来なくて首を横に振ったが、そう……と言いつつ俺から視線を外してくれない。するとさっきまでソファーでおもちゃ抱えて遊んでたミソラが俺の太腿に顎を置いてくる、お、重いぞミソラ……。
 「ミソラ、匂いにつられたか?」
 「多分違うと思うよ、ミソラは勘の良い子だから」
 波那ちゃんは俺を見て微笑みかけてくる。んだけど視線が半端なく恐ろしい……いや、鬼の形相、って意味ではなく泰地原因知ってるよね?って尋問してる視線だ。
 「これは僕の勘、なんだけど。伽月誠君の事好きだよね?」
 「えっ?やっぱりそうなのか?」
 俺は“一応勘付いてる”事にして話を進めようとするけど……いや、言い訳ではなくそれは嘘じゃないよ。”兄貴の勘“だって捨てたもんじゃない……何を言っても無駄そうなこの展開、きっとそうは問屋が卸してくれなさそうだ。
 「泰地ぃ~、“気付いて”はいただろうけど“聞いて”もいるよね?」
 うっ……波那ちゃん何もかもお見通しってか?かつての畠中家では父さんをも尻に敷くくらいの“かかぁ天下”だった俺だけど、知り合って六年弱、この人にだけは全く勝てる気がしない。それはミソラの態度を見ても分かる通りで、兄さんの躾の賜物ではあるんだけど波那ちゃんには絶対服従、さては今のも何か知らせたな、ミソラ。
 「……昨日、ちょこっとだけ聞いた」
 彼の勘の良さにはお手上げだ……スマン、伽月。ラー●のような口の軽い兄貴を許してくれ……俺は波那ちゃんに白旗を上げて頷いた。
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