どら焼は恋をつなぐ

谷内 朋

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やっとこさ本編

……僕は前に進みます

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 ようやく学校に行けた木曜日の夕方、僕は輝君に電話をしてみました。
 『はい』
 何度かのコールで通話に出てくれた彼の声は少しかすれていました。風邪でも引いたのかな?
 「誠です、もしかして体調悪い?」
 『うん……峠は越えて熱は下がったんだけど喉の痛みだけ残ってて』
 って事は僕がダウンしたのとほぼ同時期に輝君も体調崩してたんだ……知らなかったとは言え、一度くらい連絡すれば良かったかもと少し申し訳無い気持ちになります。
 「差し障り無ければお見舞いに行ってもいい?」
 『うん、良いよ。実は君に話しておきたい事があって……』
 僕もだよ、そう思いながらも言葉を飲み込みました。今回は輝君の話を聞いたら帰ろう……そう考えながら一旦『マカロワさん』から逆方向にある洋菓子店で、お気に入りのレモンタルトを買ってからお見舞いに行きました。

 「ごめんください」
 輝君の自宅でもある『マカロワさん』に入ると、子供の頃から見慣れてるおかみさんがいらっしゃい、と出迎えてくれました。たまに手抜きしたい時に利用させて頂くので、僕が一応近所に住んでるって事はご存知みたいです。
 「久し振りだねぇ、◇◇に通ってんのかい?」
 「はい。今日は輝君のお見舞いに伺いました」
 僕は買ってきたレモンタルトを手渡します。
 「あら、あの子と親しくしてくれてんだね。お気遣いありがとう、さっ、上がって上がって」
 お邪魔します。僕はおかみさんに案内されて三階にある輝君の部屋の前に着きました。
 「輝、お友達が来てくれたよ」
 『はい、今開ける』
 その声と共にドアが静かに開き、マスク姿の輝君がそっと顔を出してきました。
 「後でお茶淹れるね」
 「うん、ありがとう伯母さん」
 あっ、そっか。今は伯父様夫妻がここを切り盛りしてるんだよね。お父様は手伝ってらっしゃるって聞いてるけど……。
 「来てくれてありがとう、あんまキレイな部屋じゃないけど入って」
 「あっうん、お邪魔します」
 そう言えば輝君の部屋初めて入る……ドキドキしながら中に入ると、さすがブラバン青年と言った感じで音楽絡みの物がたくさんありました。うわっ、練習用のドラムセットもある!
 「凄い……音楽一色のお部屋だね」
 「うん、要らないのもあるけど捨てられなくて」
 うんうん、ジャンルは違えどそういうのあるよね。因みに僕はミシンとお祖母ちゃんが買ってくれた子供用のお料理キット、ミシンは壊れちゃったけどお料理キットはたまに出してお手入れしてます……って話脱線しちゃいました。
 「早速なんだけど、良いかな?」
 うん。僕は勧められるまま向かい合って座ります。輝君は変わらず綺麗な顔をしていますが、遊園地デートの時みたいなときめきは感じませんでした。
 「日曜日の事なんだけど……ゴメンね、キス、しちゃって」
 輝君は申し訳無さそうにそう言ってきました。恋じゃなかった事を思い知らされたのは事実だけど、そこまで嫌じゃなかったから気に病まないで。
 「気にしないで、嫌だった訳じゃないから」
 「でも……正直凄く後悔したんだ、何か悪い事しでかした様な罪悪感がずっと抜けなくて」
 ひょっとして彼も同じ様な事考えてるのかな?本当の気持ちを知りたい……僕は輝君の次の言葉を待ちます。
 「誠君の事大好きだし、君はとっても魅力的だよ。でも違ってた、恋じゃなかったんだ……」
 「僕もそう……」
 「えっ?」
 「僕も同じ事考えてた。輝君はとっても優しくて素敵だから、お付き合いするならこういう人が良いなぁ、って思ってて。恋じゃなかったって気付いた時はちょっとショックだったし勝手な言い分だと思うけど……友達じゃ駄目かな?」
 「そう言ってくれて嬉しいよ……君とも伽月とも気まずくなりたくなかったんだ。先に言われちゃったけど……これからも仲良くして」
 うん。こんな形で折角の縁が薄れてしまうのが嫌だったので、思い切って言葉に出来て良かったです。この部屋にホッとした空気が流れたところで、おかみさんがさっき渡したレモンタルトと飲み物を持って入ってきました。
 「飲み物は紅茶にしたけど良かったかい?」
 「うん、ありがとう。それよりこのタルトあそこの洋菓子店?」
 「そうだよ、この子がお見舞いにって持ってきてくれたんだ。ご丁寧に私らの分まで」
 「えっ!?ウチ七人家族だよ!?誠君そこまでしなくても……」
 輝君はびっくり顔で僕の顔を見ています。実はその洋菓子店、セールでカットケーキが百円で買える事があるんです。通知はホームページのみ、僕はそこの隠れファンで定期的にチェックしてるんです。で、今日はレモンタルトが一個百円、安くなってもクオリティは全く下がらないからとってもお買い得♪しかも個数制限無し。
 「種明かしするとセールだったから安く買えたんだ」
 「あぁ、サイト限定のセール今日だったんだね。あんまり広めたくないから黙ってたのよ」
 おかみさんはご存知だったみたいです、思わぬ所にお仲間が……ってまたまた脱線してしまいました。おかみさんはすぐお店に戻り、僕たちはケーキを美味しく頂きました。
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