【完結】8年越しの初恋に破れたら、なぜか意地悪な幼馴染が急に優しくなりました。

大森 樹

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82 黒い手紙【アイザック視点】

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 昨日、リリーに婚約指輪を無事に渡せた。家に帰すのが遅くなってデューク様にちょっと怒られたけど……幸せだ。彼女も嬉しそうだった。

 どんどん彼女との結婚が近づいているのがわかってついつい頬が緩んでしまう。

「リリー今頃刻印見てるかな?」

 そんな想像をしてまたニマニマとしてしまう。

『どんなに時が経っても愛し続ける』

 指輪にはそう刻印してもらった。何年経ってもずっとずっと一生彼女が好きだという意思表示だ。喜んでるかな……もしかして気持ちが重いとか思われてたらどうしよう。

 一人でベッドでゴロゴロと転がりながら、百面相をしている。

「おい、一人で盛り上がってるとこ悪いけど話がある」
「お、親父! ノックくらいしろよ!」
「何回もしたに決まってるだろ!お前が気がつかなかったんだ」

 俺はかなり妄想に浸っていたらしい。

「なんだよ、話って」
「これが……またきた」

 それは前に脅しで来ていた黒い手紙。


 アイザック・ハワード

 何度も警告してやったのに
 お前は私の女神ヴィーナスを奪った
 許さない
 彼女が誰のものなのか 思い知るがいい
 全てを奪う 覚悟しておけ


「これ……なんでまた届くんだ? 前のはブライアンが出してたんじゃないのか」
「俺もそう思っていたんだが」
「違うのか?」
「わからないが嫌な予感がする。とりあえず、明日ブライアンに手紙のこと確認してくれ」
「わかった」

 俺は手紙を受け取り、カバンにねじ込んだ。せっかく幸せだったのに水を差されてしまった。

 だが、まだウェイターを殺した犯人は見つかっていない。だから、彼女を狙っている魔法使いは確実にのだ。気を抜くわけにはいかない。

♢♢♢

 学校に着いて、マックス(中身はブライアン)が来るとすぐに「ちょっといいか」と声をかけた。

「なんだよ、わざわざ呼び出して」
「なあ……今までこの手紙出してたのってお前だよな?」

 俺は今まで届いた真っ黒な手紙を渡す。マックスは眉を顰めて、全部の手紙に目を通した。

「なんだこの悪趣味な手紙は? 僕は知らない」
「え……?」
「僕がこんな手紙を送ったことはない。お前、誰かにずっと脅されてたのか? こいつがリリーを狙う魔法使いなんじゃないか」
「本当にこれはお前じゃないのか!」
「ああ」
「勝手にお前が送ったと思っていた……」
「おい! これ新しいのいつ届いた?」
「昨夜だ」

 マックスはとても難しい顔をしている。

「おい、今朝彼女に会ったか?」
「ああ。挨拶した。教室にいたから授業受けてるはずだ。もしいなかったらエミリーが俺のとこに知らせてくれるはずだから」
「そうか……ならいい」

 マックスは安心したようにはあ、とため息をついた。

「お前はアルファードに、僕が書いた手紙ではないとすぐに伝えてくれ」
「わかった。魔法で伝える」

 何だか嫌な胸騒ぎがする。これだけ挑発してきたのだから何かしらアクションがあるはずだ。その後も俺とマックスで休み時間の度にそれとなく彼女の無事を確認していたが、リリーに変化はなさそうだった。

「帰りはリリーを送ったほうがいい。しばらく登下校一人にさせるな……もしお前が無理な場合は僕が送る」
「ああ」
「僕もデュークと話したいことがあるから、放課後スティアート家に向かう。できればアルファードも一緒に話したいのだが」
「もちろんだ。親父も呼ぶよ……なんか嫌な感じがする」
「ああ」

 俺達のこの日最後の授業は実技なので外であった上に、時間通りに終わらなかった。俺は自分の教室に戻らず、そのまま急いで普通科へ向かう。が……そこはもうほとんど誰もいなかった。

 ――リリーがいない!

「おい……まだ終わったばかりの時間なのに、なんでこんなに誰もいないんだ?」
「ああ、さっきの授業先生の都合で自習だったんだよ。だからみんな早く帰ってる」
「なんだって?リリーを知らないか?」
「リリー嬢? 少し前に出て行ったぞ」
「ありがとう」

 俺はスティアート家の馬車を確かめるため門まで走る。すると、マックスも駆けつけてきた。

「教室にいないのか?」
「いない……帰ってるならいいが」

 門に行くとまだ馬車はいた。はぁ……はぁ……息が切れる。御者に聞くと「まだお嬢様は来られていません」と言っていた。

「くそ、おかしい……リリーは早く教室を出たんだろ?」
「そうらしい。しかもエミリーの家の馬車はなかった……彼女は家に帰ってるのに、リリーはいない!俺は校内を探す」
「お前はこっち、私はこっちからだ」
「ああ」
「見つかったら魔法で連絡しろ」
「わかった」

 リリー、どうか無事でいてくれ。

 マックスと、アーサーも加えて三人で隅々まで捜したが、彼女はどこにもいなかった。やはり家にも帰ってきていないらしい。

 捜している間にデューク様と親父にも「学校にリリーがいない」と連絡をしていた。

 そんな時、急に親父が目の前にあわられた。魔力消費するのに、移動魔法で学校まで来たのだろう。これは……急用ということだ。

「親父っ!」
「おい、これを見ろ。さっき届いた!」

 俺は、震える手で黒い手紙を開ける。


 アイザック・ハワード

 女神ヴィーナスは私の物になった
 不愉快な贈り物は 君に返そう
 これは最後の手紙だ
 さようなら


 その文字とともに、俺が贈った引きちぎられたネックレスと婚約指輪……そして彼女のブロンドの髪が一束入っていた。

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