【完結】殺されたくないので好みじゃないイケメン冷徹騎士と結婚します

大森 樹

文字の大きさ
22 / 30

22 絶体絶命

しおりを挟む
「全部終わるまで、ここで大人しくしておいてくださいね。出港までまだ時間がありますから」

 彼はそれだけ告げて、また扉を閉めガチャンと鍵をかけた。どうやら私は港の近くにいるらしい。最初の予想通りここは馬車の荷台なのだろう。

 ――ジルヴェスターが死んでる?

 まさか。そんなことはあり得ない。彼はこの国一強いのだから。

 私は縛られた腕を必死に動かして、ポケットを探った。そこに私が探していたものがちゃんとあった。

『防御魔法を指輪に込めれるだけ込めた。衝撃があれば自動的にバリアを張って君を守ってくれる。同時に君の居場所も私にわかる』

 ジルヴェスターはそう言っていた。なぜ私はあの時、指輪を外していたのかと後悔した。

 私は苦戦しながらもなんとか指輪をつけることができた。ここで……防御魔法を使うことが正しいのかはわからない。

 きっとこれからもっとピンチな場面があるだろう。だけど、どちらにしてもこの指輪がケントに見つかれば捨てられるだけだ。

 私は覚悟を決めた。これを使えば、ジルヴェスターに私の居場所がわかるし『生きている』ことは伝えられる。もしかしたら、私のことを考える暇などないくらい彼自身がピンチな場面かもしれないけれど。

「痛そう……」

 そもそも自分で傷つけてこの指輪は防御してくれるのだろうか。もの凄く不安だけど、やるしかない。女は度胸よ!

 私はケントが置いていったグラスを投げて割った。ガシャンと音がしたので、肝を冷やしたが……誰も来ることはなかった。私はずりずりと身体を動かして割れたグラスに近付いた。

「よし……!」

 私は目を瞑って、尖ったグラスの破片に向かって手を思い切り押し付けた。

 その瞬間、私の身体に光が纏いパリンという音と共に指輪の石が割れた。

「痛く……ない」

 ホッとしたら、ふりゃりと力が抜けた。細かい破片で小さな傷はできたが、こんなのかすり傷だ。これからどうなるかはわからないが、私はギリギリまで絶対にこの命を諦めない。あんな男に何度も殺されてたまるものか。



♢♢♢




「アンナっ!行きますよ」

 しばらくすると、また急に扉が開き荷台から引っ張り出された。

「チッ、あの男……本当に鬱陶しい」

 ケントは苛々しながら舌打ちをして、私を乱暴に担ぎ上げ大きな船に乗せた。

 ――きっと何かあったんだわ。

「あいつはなぜここがわかったんだ。しかし、海に出て隣国に渡ってしまえばこっちのものだ」

 そうだ……このまま船が動き出すのはまずい。どうにかしなければと私は必死に暴れ回った。

「助けてっ!」

 大声でそう叫ぶと、私を床に下ろして無理矢理手で鼻と口を塞がれた。息ができなくて……苦しい。

「アンナ、死にたいんですか?」

 冷たくそう言い放った彼の目は、日本で殺された時と同じように赤く光っていた。

「僕はあなたを殺したくないんですけどね?」

 口を塞がれたまま反対の手で、ギリギリと首を絞められる。そして私の薬指に付いている割れた指輪をチラリと見つめた。

「魔石……こんなもの隠し持っていたのか。じゃあ……アンナがあいつを呼んだんですね」

「ゔっ……」

「あなたは悪い女ですね?でも僕を一番愛してると言えば許してあげますよ。僕は心の広い男ですから」

 ニコニコと微笑みながら、首を絞めている姿はチグハグ過ぎて頭が混乱する。彼はいきなりパッと手を離した。

「チャンスは一度きりです。さあ、どうぞ」

 はぁ、はぁ……やっと息が吸えた。この男は本当に私を殺すつもりだ。

「十……九……八……」

 ケントは勝手にカウントダウンを始め出した。頭ではわかっている。こいつが『愛してる』と嘘をつけば、とりあえずは生き延びることができる。

「五……四……」

 たった一言『愛してる』と五文字を言えば、殺されないのだから簡単な話だ。

「……言うわ。よく聞いて」

 私がそう伝えると、ケントはニコリと微笑みカウントダウンをやめた。すう、と大きく息を吸い込んだ。









「私はジルヴェスター•バルトの婚約者。あなたのことなんて大嫌いよ!」









「……残念」

 彼は無表情のまま、両手で私の首を強く締め付けた。さっきより遠慮のない締め付けに、本気で殺しにかかってきているのがわかる。

「ああ、アンナの能力無くすのは惜しいですね」

「ぐぅ……う……」

「だけど僕に楯突くなら仕方ない。外見もナハトに似ていてお気に入りだったのに。死んだら魔法で綺麗な状態で保管して、ずっと愛でてあげるからね」

 この男に死体を奪われるなら、ここで海に落ちてサメの餌にでもなったほうがマシだ。

「さようなら。愛してたよ」

 目の前がだんだんと霞んできた。私は……やはりこの男に殺されてしまうのか。

「ジル……ヴ……スター」

 どうか無事でいて。ずっと辛かった分、あなたをちゃんと愛してくれる人を見つけてね。




 ――今までありがとう。









「アンナっ!!」








 私の名前を叫ぶ声が聞こえて、意識が飛びそうだったのに現実に引き戻された。

「その手を離せ」

 彼は剣を思い切り振り抜いたが、ケントは魔法でバリアを作り当たる寸前で避けた。彼が離れたことで私はやっと息が吸えた。

「げほっ……こほっ……こほ……」

「アンナ、大丈夫か?」

「だい……じょ……ぶ」

 ジルヴェスターは素早く縄を切り、優しく抱きしめてくれた。額に汗をかいた余裕のない彼を初めて見た。きっと急いで来てくれたのだろう。

「生きててくれて……本当に良かった。怪我をさせてすまなかった」

 彼はすぐに身体を離し、苦しそうに顔を歪めながら私の首をそっと撫でた。

「陛下は?」

「もちろん無事だ。向こうはデニスとケヴィンに任せてきた。デニスと話せたのはアンナのおかげだ」

 どうやらデニス様と仲直りできたらしい。それを聞いて私はホッとした。

「シュバルツは?シュバルツを出して。私に触れたら回復できるはずよ」

「……弱っているが大丈夫だ。アンナも傷付いてるからだめだ」

「お願い。シュバルツは私を守ってくれたの」

 私は懇願するように、ジルヴェスターの服をくしゃりと掴みじっと見つめた。すると彼は頷き、シュバルツを出してくれた。

「シュバルツ、ごめんね。痛かったね」

「クゥーン……」

 ぐったりしているシュバルツを抱きしめると、身体が光り出した。すると見る見るうちに元気になり、私の頬をペロリと舐めた。

「ああ、アンナ。何度見ても素晴らしい能力だ。やはり殺すのは惜しいですね」

 ジルヴェスターはうっとりとこちらを見つめるケントから私を隠すように前に立った。

「安心してくれ。必ず君を守る」

 彼は剣を構えた。ケントはふん、と馬鹿にしたように鼻で笑った。

「魔力があるのに剣を使うなんて無粋ですね」

「どちらも使えてこそ一流だ」

「あんたのそういうところ、本当に嫌いですよ。ドゥンケル、出てこい!やれ」

 あの時シュバルツを締め上げた白蛇が出て来て、ジルヴェスターに襲いかかった。

「シュバルツ」

 ジルヴェスターがシュバルツの名前を呼ぶと「ガルルッ……!」と威嚇しながら前に飛び出した。

 シュバルツはまるで動きがわかっているかのように、ドゥンケルの攻撃を避けガブリと噛み付いた。さっきとはシュバルツの動きがまるで違う。

 どうやら聖獣は、主人が近くにいればいるほど力を発揮するようだ。

「諦めろ。魔力も剣術も私の方が上だ。ローデンヴァルト公爵も陛下暗殺の容疑で捉えられた。もう終わりだ」

 ドゥンケルがどさりと倒れ込んだのを見て、ジルヴェスターは淡々と告げケントに剣を向けながらジリジリと追い詰めた。

「ははっ、父上が捕まったか。馬鹿な人だ。僕の完璧な計画が台無しじゃないか」

 ケントは自分の父親が捕まったというのに、ケラケラと笑っていた。

「お前……」

「僕一人でやれば上手くいったのに。父上は邪魔だった。僕は負けない。ドゥンケル、お前はまだやれる」

 彼は目を真っ赤に染めて怒りを露わにした。ドゥンケルの目も赤く染まり、むくりと起き上がった。

「おい、やめろ!聖獣に無理をさせたら死ぬぞ」

「ドゥンケルも僕のために死ねるなら本望だろう」

「最低だな」

 ケントはどこまでも自己中心的な男だ。道具のように扱われるドゥンケルは可哀想だ。

 彼の魔力を無理矢理注がれて力が暴走したドゥンケルは大きくなり、ジルヴェスターに襲いかかった。

「聖獣に罪はないが、こうなったら……斬るしかない!」

 ジルヴェスターは剣に魔力を込めドゥンケルを一撃で仕留めた。するとドゥンケルの姿がパッと消え、光が舞った。

「これで終わりだ」

「くっくっく、ドゥンケルは囮さ。君に愛するアンナを渡すくらいなら、僕は一緒に逝くよ」

 ドゥンケルとジルヴェスターが戦っているうちに、私はケントに捕えられていた。

「……アンナを離せ。その代わり俺を好きにしろ」

 ジルヴェスターは剣を投げ捨て、ケントに無抵抗だと示した。

「嫌だね。アンナ、あの世で一緒になろう」

 冗談じゃない。どうして私がケントと一緒に死なねばならないのか。ケントは暴れる私を無理矢理抱き上げた。

「絶対に嫌よ!離してっ!!」

「アンナ!!」

 ジルヴェスターが私に走り寄り手を伸ばしたのが、何故かスローモーションに見えた。私は悲鳴をあげる暇もなく、ケントと一緒に海の中に落ちていった。



しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜

織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。 侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。 学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。

【完結】『あなたを愛することはございません』と申し上げましたが、家族愛は不滅ですわ!

あまぞらりゅう
恋愛
「お前を愛することは――」 「あなたを愛することはありませんわぁっ!」 キャロラインとハロルドは、初夜で互いに誓い合った。 異性として愛することはないが、貴族としての義務は果たす――と。 割り切った関係のはずなのに、だんだんと二人の距離は近付いて……!? 前世の記憶を持つキャロラインを中心に、夫のハロルド、双子の姉・ロレッタ、弟・レックスが繰り広げる、 愉快なハーバート公爵家の物語。 好き勝手やってたら、家族の絆が深まりました! 目指せ、『婚約破棄された転生令嬢は、異世界で前世チート無双して王太子ザマァでもう遅い!大商会のボスになってトンカツ作って薬がポーションでモフモフモフ!』ですわ〜っ! ★家族愛を軸にした話です! 恋愛要素はちょっとだけです! ★ものづくり系の話ではありません! ★タイトル&あらすじは予告なく変更する可能性があります! ★他サイト様にも投稿しています!

3回目の人生は、悪役令嬢を辞めて引きこもります~一歩も出ずに国を救ったら、なぜか「聖女」として崇められ最強の男たちが部屋を包囲してくる件~

放浪人
恋愛
公爵令嬢エリザベートは、1度目は悪役令嬢として断罪され処刑、2度目は改心して聖女となり国に尽くしたが過労死……という悲惨な最期を遂げた。 記憶を持ったまま3度目の人生が始まった瞬間、彼女は固く決意する。 「もう絶対に働きません! 今世は部屋から一歩も出ず、睡眠と趣味に命をかけます!」 最強の拒絶結界『絶対領域』で部屋に籠城し、婚約破棄イベントも夜会も全て無視して惰眠を貪ろうとするエリザベート。 しかし、彼女の「働きたくない」一心からの行動――適当な農業アドバイスや、安眠妨害への容赦ない迎撃――が、周囲には「国を憂う深慮遠謀」「慈愛に満ちた奇跡」として超好意的に解釈されてしまう!? ヤンデレ化した元婚約者の王太子、物理で愛を語る脳筋騎士団長、効率厨の隣国王子、さらには古代の引きこもり少年までをも巻き込み、事態は国家規模の大騒動へ。 部屋ごと空を飛んで戦場を浄化し、パジャマ姿で古代兵器を操り、地下牢をスイートルームに変えながら、エリザベートは究極の安眠を手に入れることができるのか? 塩対応すればするほど愛され、逃げれば逃げるほど伝説になる、最強引きこもり令嬢の勘違いドタバタ溺愛ファンタジー、ここに完結!

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

愛されないはずの契約花嫁は、なぜか今宵も溺愛されています!

香取鞠里
恋愛
マリアは子爵家の長女。 ある日、父親から 「すまないが、二人のどちらかにウインド公爵家に嫁いでもらう必要がある」 と告げられる。 伯爵家でありながら家は貧しく、父親が事業に失敗してしまった。 その借金返済をウインド公爵家に伯爵家の借金返済を肩代わりしてもらったことから、 伯爵家の姉妹のうちどちらかを公爵家の一人息子、ライアンの嫁にほしいと要求されたのだそうだ。 親に溺愛されるワガママな妹、デイジーが心底嫌がったことから、姉のマリアは必然的に自分が嫁ぐことに決まってしまう。 ライアンは、冷酷と噂されている。 さらには、借金返済の肩代わりをしてもらったことから決まった契約結婚だ。 決して愛されることはないと思っていたのに、なぜか溺愛されて──!? そして、ライアンのマリアへの待遇が羨ましくなった妹のデイジーがライアンに突如アプローチをはじめて──!?

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!

屋月 トム伽
恋愛
私と婚約をすれば、真実の愛に出会える。 そのせいで、私はラッキージンクスの令嬢だと呼ばれていた。そんな噂のせいで、何度も婚約破棄をされた。 そして、9回目の婚約中に、私は夜会で襲われてふしだらな令嬢という二つ名までついてしまった。 ふしだらな令嬢に、もう婚約の申し込みなど来ないだろうと思っていれば、お父様が氷の伯爵様と有名なリクハルド・マクシミリアン伯爵様に婚約を申し込み、邸を売って海外に行ってしまう。 突然の婚約の申し込みに断られるかと思えば、リクハルド様は婚約を受け入れてくれた。婚約初日から、マクシミリアン伯爵邸で住み始めることになるが、彼は未婚のままで子供がいた。 リクハルド様に似ても似つかない子供。 そうして、マクリミリアン伯爵家での生活が幕を開けた。

虐げられていた次期公爵の四歳児の契約母になります!~幼子を幸せにしたいのに、未来の旦那様である王太子が私を溺愛してきます~

八重
恋愛
伯爵令嬢フローラは、公爵令息ディーターの婚約者。 しかし、そんな日々の裏で心を痛めていることが一つあった。 それはディーターの異母弟、四歳のルイトが兄に虐げられていること。 幼い彼を救いたいと思った彼女は、「ある計画」の準備を進めることにする。 それは、ルイトを救い出すための唯一の方法──。 そんな時、フローラはディーターから突然婚約破棄される。 婚約破棄宣言を受けた彼女は「今しかない」と計画を実行した。 彼女の計画、それは自らが代理母となること。 だが、この代理母には国との間で結ばれた「ある契約」が存在して……。 こうして始まったフローラの代理母としての生活。 しかし、ルイトの無邪気な笑顔と可愛さが、フローラの苦労を温かい喜びに変えていく。 さらに、見目麗しいながら策士として有名な第一王子ヴィルが、フローラに興味を持ち始めて……。 ほのぼの心温まる、子育て溺愛ストーリーです。 ※ヒロインが序盤くじけがちな部分ありますが、それをバネに強くなります ※「小説家になろう」が先行公開です(第二章開始しました)

処理中です...