【完結】殺されたくないので好みじゃないイケメン冷徹騎士と結婚します

大森 樹

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23 運命が変わった日

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 ジルヴェスターは自ら海に飛び込んでケントを蹴飛ばし、私が海面につく寸前に手を掴んで船へ放り投げた。

「シュバルツ、頼んだ」

「ワフっ!!」

 宙に浮いた私は、船の上で大きく変化したシュバルツにキャッチされた。

「ジルヴェスター!ジルヴェスター!!」

 私は慌てて下を覗き込むが、真っ暗な海は何も見えない。

「嫌……死んじゃ嫌……!ジルヴェスター……!!」

 混乱した私は海を覗き込んで叫んでいると、シュバルツに無理矢理後ろに引っ張られた。どうやら必死過ぎて落ちそうになっていたらしい。

 シュバルツがここにいるということは、きっと彼は無事なはずだ。だけど……だけどこの目で確認するまでは安心できない。

「助けてくれてありがとう」

 お礼を言ってシュバルツを抱き締めようとした時、私は気付いてしまった。

「シュバルツが……透けてる!?」

 もう体の半分以上透明になっていて、その部分に手を伸ばしても触れることができない。そしてシュバルツは急に元気が無くなって、ぺたりと床に伏せてしまった。

「シュバルツ!大丈夫?しっかりして!!」

 これはジルヴェスターの魔力が弱っている証ではないだろうか。どうしよう、どうしたらいいの?苦しそうなシュバルツも助けてあげたい。

 ――私には聖獣を回復させる魔力がある。

 そのような力がある実感はなかったが、実際にそうだった。私はシュバルツのまだ透明になっていない部分を慌てて抱き締めた。早くしないと消えてしまう……!

「私に力があるなら……お願い!シュバルツを助けて!!」

 するとその瞬間、パンッと眩しい光がシュバルツを包み込んだ。

「ワフっ!」

 シュバルツの元気な鳴き声を聞いてホッと安心した。ああ、良かった。するとシュバルツはどんどん大きくなり、そのまま海へ飛び込んだ。

「シュバルツ!?」

 驚いていると、シュバルツは光に包まれたまま海の中に入って行った。そしてすぐにザブンッと勢いよく海から出て来て、ジルヴェスターを船まで連れて戻ってきた。

「ジルヴェスター!ジルヴェスター!!大丈夫?」

 私は冷たく濡れている彼の身体をさすりながら、必死に声をかけるが反応はない。

「しっかりして!」

 口元に手を当ててみるが……息をしていない。でもここで諦めるわけにはいかない。私は日本で習った救命訓練を必死に思い出していた。

 高校生一年生の時、特別授業みたいなのがあったはずだ……そう……街のレスキュー隊の人が学校に教えに来てくれて……人形に人工呼吸の練習をした。

 ――私がやるしかない。

 大きく息をはいて心を落ち着かせた。そしてジルヴェスターの首を持ち上げ、軌道確保をし親指と人差し指で鼻を摘んだ。

「フーッ」

 口を大きく開き、彼の口を塞いで息を吹き込んだ。唇があまりに冷たくて驚いたが、それだけ彼が危ないということだ。

「ジルヴェスター、目を覚まして!!」

 私は祈るような気持ちで、もう一度人工呼吸をし心臓マッサージを繰り返した。

 ――これで合ってる?

 不安なるが、迷っている時間はない。とりあえず今はやり続けるしかない。

 思い出せ……!確か心臓マッサージを何十回かして人工呼吸を繰り返すのよね。お願い……お願い!目を覚まして。

「団長を病院へ運びます!」
「アンナちゃん、無事で良かった」
「早く治療しないと」

 いつの間にか騎士達がこの船を追って来ていたようで、別の船から助けに来てくれていた。だけど私は手を止めるわけにはいかない。

「駄目なの……!ジルヴェスター……息してない。今……蘇生……してるから……止められない……!」

 私はもう一度大きく息を吸って、彼の唇を塞いだ。息を吹き込むと、胸が大きく上にあがった。

 ――自分で息をして。お願い。生きて!

「……う……ゔっ…………」

 彼の身体が僅かに動いた。息も……正常にしている。

「ジルヴェスター!」

「……ア…………ナ」

 彼はゆっくり目を開けて、私の頬をそっと撫でた。声は掠れているが、名前を呼んでくれているのがわかる。

「ジルヴェスター、心配した。良かった……生きてて……くれて……うっ、ううっ……」

「泣か……ないで……くれ……アンナが……泣いてるのは……嫌……だ……」

「いいの。これは嬉し涙だから」

 そう言って涙を手で拭きながら微笑むと、彼もフッと笑いまた意識を手放した。だけど彼は息もしているし、心臓も動いている。

 私もホッとして力が抜け、くたりとその場から動けなくなった。

「団長とアンナちゃんを運ぶぞ」
「早くしろ!」
「二人とも絶対に助けるぞ」

 顔見知りの騎士団員達に安心し、私はそのまま意識を手放した。





♢♢♢





「アンナ……アンナ……!」


 私の名前を呼ぶ声が聞こえる。重たい瞼を開くと、目の前にふわふわと浮いている美しい女性が現れた。

 ――あの時の女神様!

 彼女はこの世界に私を転生させた張本人だ。あれ以来一度も姿を見せてくれなかったので、かなり久しぶりだ。

「ケントを倒せて良かったです。これでもうあなたは何度生まれ変わっても、本来の寿命まで生きることができます。安心しました」

 その言葉を聞いて私はホッと息を吐いた。あの男がいる限り私は何度も殺される運命だったのだから。やっとこの負のループから抜け出せたのね。

「元の世界に戻りますか?」

「……え?」

 私は言われたことを咄嗟に理解できず、聞き直してしまった。

「あの男は一種のバグのような存在……何故か神の力が通用せず、困っていたのです。今回はケントを倒してもらうために、被害者のあなたを強制的にここに送ってしまったので、元に戻すことも可能です」

「それは……出逢った人達の記憶はどうなるの?」

 日本に帰れるなんて思っていなかった私は、かなり動揺している。

「皆からアンナの記憶だけ消しますが、今の世界のまま過ぎていきます」

 じゃあ、ジルヴェスターも私のこと忘れちゃうんだ。そう思うとズキリと胸が痛んだ。なんかそれはすごく寂しい気がする。

「もちろんここにいてもいいですが、環境も違うので暮らしにくくないですか?日本に戻るなら、亡くなった日に遡ります。もちろんケントはもう存在せず、そのまま何事もなく生きられますよ」

 確かに私がここにいて……ジルヴェスターは困るのではないだろうか?デニスさんとのことが解決した今、彼は本当に好きな女性を見つけられるかもしれない。

 本物の婚約者を見つけた時、私がいたら間違いなく邪魔だ。彼はきっと私を放り出すことはしないだろう。このままバルト家で面倒をみると言い出しかねない。

 偽物の婚約者とはいえ、本物の婚約者からしたら近くに私がいるなんてさぞ不愉快だろう。

 それに彼の隣に綺麗で性格の良い女性が寄り添っているのを想像すると、なんか……うまく言えないがいい気分がしない。

 ――良いことのはずなのに。

 私は人の幸せを祝えない心の狭い人間だったのだろうか。こんな状態では彼にその時が来ても『おめでとう』と言えない可能性がある。

「……」

 やはり日本に帰る……べきなのだろうか。私は元々ここにいるべき人間ではないのだから。

「一週間後に返事を聞きに来ます。どうするか考えておいてくださいね」

 女神様は私の戸惑いを感じてくれたのか、そう言ってシュッと消えてしまった。


 ――私はどうしたいのだろう?



 いつの間にか私は彼のことを好きになっていたんだ。こんな状況になって初めて自分の気持ちに気がついてしまった。



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