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第1章 中洲ダンジョン

36話 異世界転移(ダンジョンコア)

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 俺は、バスでエスメラルダに転移した所から、うちに帰ってくるまでの話を、要約してかあさんに伝えた。
 しばらくは、信じられない、といった顔をしていたかあさんに、ナナイロとツバキが、姿を見せた。

「「じゃ~ん! わたしたちからも説明するのだ~」」
「まあ! かわいらしいお人形さんね!」

 うちのかあさんは、宇宙服を着たフィギュア2体を見ても、全然動じない。
 というか、昔からこんな感じなのだ。

「「ふははは~! シンイチ~、この建物の屋上に、わたしたちのダンジョンコアを、アポート引き寄せ転移させるのだ~」」
「あらあら、この子たちは何を言ってるのかしら?」

(……こいつら、俺のスキルを隠す気も無いし、まさか日本に来たいが為に、俺をこっちに戻したんじゃないだろうな)
「このマンションの屋上? 出来るかどうか分からないけど、落ちるなよ?」
「「あたりまえだ~」」

 エスメラルダにある、七色に輝く巨大な珠と、赤く輝く珠をイメージして、アポート引き寄せ転移する。もちろん、うちにでは無く、このマンションの屋上にだ。
 直径50メートルと、直径2メートルの、ダンジョンコアを引寄せる感触があったので、成功したのだと思うのだが、ちゃんと転移出来たのだろうか。

「「おお~!? ここがニッポン~」」

 ナナイロとツバキの、この反応からすると、成功したようだ。
 彼女らは、俺の肩の上でひとしきり騒いだあと、かあさんに説明を始めた。

 その途中に、カセットコンロで焚いていた米が焦げる、というハプニングはあったものの、小さなフィギュアたちは、理路整然とした話で、かあさんを納得させてしまった。
(君たち、いつものゆるい話し方じゃなくて、ちゃんと話せるじゃないの)

 話が終わると、かあさんは、鼻息を荒くして、なぜか掃除と洗濯を始めてしまった。
 電気が止まって、ストレスがたまっていたのかも知らないけど、なんだかめちゃくちゃ元気になったので放っておこう。

「真一! その変な服を脱いで、風呂に入ってきなさい!!」

 そう言えば、エスメラルダで買った服のままだった。

「フロ~」
「わたしもフロ~」
「3人とも、まとめて入ってらっしゃい!」

 ナナイロとツバキは、風呂に興味があったな。
 とりあえず、11日ぶりの風呂だ。ゆっくり温まろう。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 湯船に浸かると、俺の肩にしがみ付いているナナイロとツバキが、あまりの心地よさに騒ぎ出した。
 そのあとは一連のボディソープやシャンプー、リンス、歯磨きなどに一通り驚き、ひとつひとつどういった効果があるのか説明をさせられた。

 インフラが停止している今、この2人のおかげで人並みの生活が出来ているのだ。それくらいお安い御用である。
 ただし、俺も、このマンションを、ダンジョン化しようと思えば出来る。
 あの文字学習で、ダンジョンに関する事は、一通り頭に入っているのだ。

 結構な長風呂であったようで、上がってみると、かあさんが腕によりをかけた晩御飯が用意されていた。ただ、焦げた米はそのまま出されていた。

 かなりたくさん作られていたのだが、食料はどうなっているのだろう?
 停電していたので、生野菜などの生鮮食品は無し。缶詰などを工夫して調理されていた。

「かあさん、これ災害用の食料を使ってるのは分かるけど、この先どうするの?」
「先のことは分からないわね……わたしは、これを切り詰めて食べてたわ。でもお隣さんの話だと、駅地下にダンジョンがあって、若い人たちは、そこから食料を調達してるみたいよ?」
「は? ダンジョン?」

 今日1番驚いた。
 中洲駅の地下がダンジョンだと?
 フィギュア2人の動きが止まっている。

「ナナイロ、ツバキ、もしかして?」
「「もしかする~!」」

 俺はつい今しがた、その中洲駅ビルの屋上にいたのだ。
「それじゃあ確かめに行くか」と、俺が立ちあがると、かあさんの雷が落ちた。
「せっかく作った晩御飯を全部食べて、さっさと寝なさい」と。

 おっしゃる通りです。外は停電のせいでまっ暗だ。今日はおとなしく寝て、明日になってから行動しよう。

 部屋に戻ってベッドに潜り込むと、日に干した布団のいい臭いがする。かあさんは、いつ帰ってくるのか分からない俺たちのために、毎日布団を干していたのだろう。

 ナナイロとツバキも、即興でかあさんが作った、小さな布団に入って横になっている。俺の枕の横でだ。

「あ、明日マイヤーに、王の感謝状が届くんだった」

 そんな事を考えながら、俺はいつの間にか眠っていた。

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 うるさいなあ。
 マンションの下で騒いでいる声で目が覚めた。
 部屋の時計を見ると11時過ぎ。

「くわあぁぁ! こっちに帰った途端に寝坊か」

 あくびをしながら、12時間以上寝ていた事に気づき、気が緩んでいた事を自覚する。

「あ~、そういえばマイヤーはどうしよう」

 あの世界は嫌いだが、マイヤーの人たちは好きだ。ドールの子供たちの事も、気になるし。
 俺は机の上に置いている磁器符を見る。ナナイロたちにお願いすれば、マイヤーに行けるのかもしれない。

 ……いやいや、俺はようやく帰ってきたのに、今さら何を考えてるんだ。
 まずは当面の食糧問題を片付けねば。
 俺は速攻で着替えて、洗面所ルーチンをこなし、リビングへ向かう。

「おはよ……何やってんの?」
「あ~、シンイチのお寝坊さんだ~」
「わたしとナナイロちゃんで、ほっぺた突っついても起きなかったよ~」
「ふんっ! んむむむむむ!」

 キッチンにいるかあさんの両手に、ナナイロとツバキが乗っており、両方の指先から火と水が出ている。
 もしかしてこの2人は、俺のかあさんに魔法を教えているのか?

「シンイチが行ってた世界には、便利な魔法があるのね! んむむむむむ!!」
「……意外と受け入れるの早いんだな。それ何の魔法?」
「ナナイロちゃんとツバキちゃんが、わたしに生活魔法を、教えてくれたのんむむむ!」
「そんな事だろうと思ったよ。あと、普通に喋れ……。そういえば、マンションの下で騒いでる奴らはなに?」
「たぶん、昨日の夜、このマンションに、明かりがついてたからよ。それを見つけた人たちが、来てるみたいいんんむむむむ!」
「……マンションに住んでる人たちは、大丈夫なの?」
「お隣さんが、対処してるわああああ!」
「普通にしゃべれって」
「そうそう、あの人たち、電線を引かせてくれとか、水道管やガス管の工事をするとか言ってるの。危なそうだから、わたしは下に行ってないけどおおんむむむむむ!!」

 そんな輩に、電気ガス水道の、お裾分けなどしたら、必ず俺も俺もって奴が現れるだろう。
 それに、今は状況が分からなさすぎるのだ。
 申し訳ないけど、これはシカト一択だな。

 まあ、どんな輩が来ようとも、このマンションは、ナナイロたちがダンジョン化しているのだ。仮に、フォレストワームが来ても、平気だろう。

 俺は一旦部屋に戻り、野球部で使っていた金属バットを持ち、駅ビルの屋上に転移した。
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