46 / 68
第2章
ただ会いたくて 2
しおりを挟む
夏が終わる……終わってしまう。
「お帰りアーサー、夏休みは人が変わったように真面目に生活していたようだな」
「はい……気持ちを改めました」
「うむ、私も悪かったよ。残り少ない高校生活を謳歌しなさい。ラスト1年だ」
湖水地方の別荘から戻るとすぐ、父の書斎に呼ばれた。
早速お小言かと思いきや、意外な言葉を告げられて、天にも昇る心地になった。
この数か月……俺は結局まだ親の庇護の下、のうのうと暮らす贅沢な若造だと痛感した。だから今までのように小さな子供が駄々をこねるように無鉄砲に反抗したり、力ずくで抵抗したり汚い言葉で悪態をつくのはやめた。
もっと俺がしっかりすれば、あんなふうにエミリーに一方的にやられることもないのだと悟ったのだ。
「……それで、エミリーの事だが」
彼女との婚約は、やはり、どうしても撤回して欲しい。
それだけは譲れない。
だが焦るな……今は、父の出方を待とう。
相手に合わせるのも大事だと、学んだ。
「……はい」
「確かに調べてみると彼女の素行にも問題があったようだね。こちらも早まらず慎重になろう。焦ってこの侯爵家を汚す事になっては、元も子もないからな。さぁ今日はせっかくの日曜日だ。外の空気を吸いに出かけるといい」
「えっ、いいのですか」
「あぁ、もういいだろう」
「ありがとうございます!」
というわけで、俺は晴れて自由の身になった。
夏休み最後の日曜日。
家を出て、後ろを振り返っても、本当に誰もいない事を確認すると、一目散に公園に向かって走った。
さっきまでの冷静な俺はいない。
ただ君に会いたいと、全速力で走る俺がいた。
****
強い日差しとキラキラ輝く緑が眩しかった英国の短い夏も、そろそろ終わりだ。
「瑠衣、今日も公園に行くのか」
「うん」
「そうか。まぁ気が済むまで行ってこい。そうだ、今日はぐっと暑くなりそうだから気をつけろよ」
「分かった」
海里に見送られて、家を出た。
あの日から、君に会えなくなって数か月。
それでも僕に残された自由な時間は、君のために使いたいんだ。
他にすることなんて、思いつかない。
海里とテニスをした日以来、ただ公園のベンチに座っているだけでも満足出来た。
それにしても、もう夏の終わりなのに、今日はいつもより暑いな。春には花で溢れていた公園には、日光浴を楽しむ人々で賑わい、向こうの芝生には、上半身裸で寝転ぶ男性までいる。
長閑な休日風景に、和やかな心地になってくる。
汗ばんだ額を拭おうとしたら、突然冷たいドリンクを渡された。
それだけでも驚いたのに顔を上げて……もっと驚いた!
「えっ……」
「飲んで」
「君っ! どうして」
夢かと思って、目をこすってしまった。
だって……こんな急に、君が再び現れるなんて予期していなかったから!
「ごめん。実は向こうからずっと見ていたんだ。でも……話しかけていいものか迷って、頭を冷やすためにレモネードを買って来た」
数か月ぶりに会えた君は少し髪も伸び、大人っぽくなっていて緊張した。
「あぁ……また会えてよかった。もう会ってもらえないと覚悟していたんだ」
君がつらそうに口にした言葉。
それは僕の心の言葉と同じだった。
「それは僕の台詞だ! あの日はごめん……逃げてしまって」
「いや、俺こそごめん。君をつかまえられなくて……」
「でも……こうやって、また会えた」
霧の中で掴んでもらわなくても、こんな晴れた空の下で、お互いに歩み寄って会えた。
それが嬉しくて、視界がかすんでしまう。
君に触れてみたい。僕から触れても……
すると、やっぱり君の同じ気持ちだった!
「……その、再会の握手をしても?」
「もちろん!」
お互いが手を差し出して、僕と君のちょうど真ん中で、手をギュッと握り締めた。
「お帰りアーサー、夏休みは人が変わったように真面目に生活していたようだな」
「はい……気持ちを改めました」
「うむ、私も悪かったよ。残り少ない高校生活を謳歌しなさい。ラスト1年だ」
湖水地方の別荘から戻るとすぐ、父の書斎に呼ばれた。
早速お小言かと思いきや、意外な言葉を告げられて、天にも昇る心地になった。
この数か月……俺は結局まだ親の庇護の下、のうのうと暮らす贅沢な若造だと痛感した。だから今までのように小さな子供が駄々をこねるように無鉄砲に反抗したり、力ずくで抵抗したり汚い言葉で悪態をつくのはやめた。
もっと俺がしっかりすれば、あんなふうにエミリーに一方的にやられることもないのだと悟ったのだ。
「……それで、エミリーの事だが」
彼女との婚約は、やはり、どうしても撤回して欲しい。
それだけは譲れない。
だが焦るな……今は、父の出方を待とう。
相手に合わせるのも大事だと、学んだ。
「……はい」
「確かに調べてみると彼女の素行にも問題があったようだね。こちらも早まらず慎重になろう。焦ってこの侯爵家を汚す事になっては、元も子もないからな。さぁ今日はせっかくの日曜日だ。外の空気を吸いに出かけるといい」
「えっ、いいのですか」
「あぁ、もういいだろう」
「ありがとうございます!」
というわけで、俺は晴れて自由の身になった。
夏休み最後の日曜日。
家を出て、後ろを振り返っても、本当に誰もいない事を確認すると、一目散に公園に向かって走った。
さっきまでの冷静な俺はいない。
ただ君に会いたいと、全速力で走る俺がいた。
****
強い日差しとキラキラ輝く緑が眩しかった英国の短い夏も、そろそろ終わりだ。
「瑠衣、今日も公園に行くのか」
「うん」
「そうか。まぁ気が済むまで行ってこい。そうだ、今日はぐっと暑くなりそうだから気をつけろよ」
「分かった」
海里に見送られて、家を出た。
あの日から、君に会えなくなって数か月。
それでも僕に残された自由な時間は、君のために使いたいんだ。
他にすることなんて、思いつかない。
海里とテニスをした日以来、ただ公園のベンチに座っているだけでも満足出来た。
それにしても、もう夏の終わりなのに、今日はいつもより暑いな。春には花で溢れていた公園には、日光浴を楽しむ人々で賑わい、向こうの芝生には、上半身裸で寝転ぶ男性までいる。
長閑な休日風景に、和やかな心地になってくる。
汗ばんだ額を拭おうとしたら、突然冷たいドリンクを渡された。
それだけでも驚いたのに顔を上げて……もっと驚いた!
「えっ……」
「飲んで」
「君っ! どうして」
夢かと思って、目をこすってしまった。
だって……こんな急に、君が再び現れるなんて予期していなかったから!
「ごめん。実は向こうからずっと見ていたんだ。でも……話しかけていいものか迷って、頭を冷やすためにレモネードを買って来た」
数か月ぶりに会えた君は少し髪も伸び、大人っぽくなっていて緊張した。
「あぁ……また会えてよかった。もう会ってもらえないと覚悟していたんだ」
君がつらそうに口にした言葉。
それは僕の心の言葉と同じだった。
「それは僕の台詞だ! あの日はごめん……逃げてしまって」
「いや、俺こそごめん。君をつかまえられなくて……」
「でも……こうやって、また会えた」
霧の中で掴んでもらわなくても、こんな晴れた空の下で、お互いに歩み寄って会えた。
それが嬉しくて、視界がかすんでしまう。
君に触れてみたい。僕から触れても……
すると、やっぱり君の同じ気持ちだった!
「……その、再会の握手をしても?」
「もちろん!」
お互いが手を差し出して、僕と君のちょうど真ん中で、手をギュッと握り締めた。
14
あなたにおすすめの小説
【短編】【完結】王子様の婚約者は狼
天田れおぽん
BL
サティ王子はクルクルした天然パーマな茶髪が可愛い18歳。婚約者のレアンは狼獣人で、子供の頃は子犬のように愛くるしかったのに、18歳となった今はマッチョでかっこよくなっちゃった。
「レアンのこと大好きだから守りたい。キミは信じてくれないかもしれないけれど……」
レアン(すでにオレは、貴方しか見ていませんが?)
ちょっと小柄なカワイイ系王子サティと、美しく無口なゴツイ系婚約者レアンの恋物語。
o♡o。+。o♡o。+。o♡o。+。o♡o。+。o♡o。
ノベルバにも掲載中☆ボイスノベルがあります。
強欲なる花嫁は総てを諦めない
浦霧らち
BL
皮肉と才知と美貌をひっさげて、帝国の社交界を渡ってきた伯爵令息・エルンスト──その名には〝強欲〟の二文字が付き纏う。
そんなエルンストが戦功の褒美と称されて嫁がされたのは、冷血と噂される狼の獣人公爵・ローガンのもとだった。
やがて彼のことを知っていくうちに、エルンストは惹かれていく心を誤魔化せなくなる。
エルンストは彼に応える術を探しはじめる。荒れた公爵領を改革し、完璧な伴侶として傍に立つために。
強欲なる花嫁は、総てを手に入れるまで諦めない。
※性描写がある場合には*を付けています。が、後半になると思います。
※ご都合主義のため、整合性は無いに等しいです、雰囲気で読んでください。
※自分の性癖(誤用)にしか配慮しておりません。
※書き溜めたストックが無くなり次第、ノロノロ更新になります。
六年目の恋、もう一度手をつなぐ
高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。
順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。
「もう、おればっかりが好きなんやろか?」
馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。
そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。
嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き……
「そっちがその気なら、もういい!」
堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……?
倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡
αが離してくれない
雪兎
BL
運命の番じゃないのに、αの彼は僕を離さない――。
Ωとして生まれた僕は、発情期を抑える薬を使いながら、普通の生活を目指していた。
でもある日、隣の席の無口なαが、僕の香りに気づいてしまって……。
これは、番じゃないふたりの、近すぎる距離で始まる、運命から少しはずれた恋の話。
君は恋人、でもまだ家族じゃない
山田森湖
恋愛
あらすじ
同棲して3年。
毎朝コーヒーを淹れて、彼の寝ぼけた声に微笑んで、
一緒に暮らす当たり前の幸せを噛みしめる——そのはずだった。
彼女は彼を愛している。
彼も自分を愛してくれていると信じている。
それでも、胸の奥には消えない不安がある。
「私たちは、このまま“恋人”で止まってしまうの?」
結婚の話になると、彼はいつも曖昧に笑ってごまかす。
最初は理由をつけていたのに、今では何も言わなくなった。
周囲の友人は次々と結婚し、家族を持ち始めている。
幸せそうな写真を見るたび、彼女の心には
“言えない言葉”だけが増えていく。
愛している。
でも、それだけでは前に進めない。
同棲という甘い日常の裏で、
少しずつ、確かにズレ始めているふたりの未来。
このまま時間に流されるだけの恋なのか、
それとも、家族へと歩き出せる恋なのか——。
彼の寝息を聞きながら、
彼女は初めて「涙が出そうな夜」を迎えていた。
王妃の椅子~母国のために売られた公子
11ミリ
BL
大陸で一番の強国であるディルア王国には男の王妃がいる。夫婦間は結婚当時より長年冷え切っていた。そんなある日のこと、王のもとへ王妃がやってきて「わたしを殺させてあげよう」と衝撃な一言を告げる。けれど王は取り合わない。
喜んでもらえると思っていただけに意外だった王妃は自分の離宮に帰り、人生を振り返る。
かつて弱小公国の美しい公子だったライル(後の王妃)は強国へ貢がれた。強制的に戦へ参加させられ、人には騙され、第六王子には何かと絡んでくる。そしてある日目が覚めたら王子妃に……。
■■■
ハピエンですが、前半の人生は辛いことが多いです。一人で耐えて耐えて生き抜く主人公を気にする不器用第六王子が傍にいます。
長年の片思いと鈍感のコンビ夫婦です。
話の都合上、途中で名前がライル(男名)からライラ(女名)に変わります。
鳥の姿に変化できる「ニケ」という特異な体質が出てきます。
囚われ王子の幸福な再婚
高菜あやめ
BL
【理知的美形王子×痛みを知らない異能王子】
触れた人の痛みは感じても、自分の痛みに気づけない──そんな異能を持つ王子カシュアは、政略結婚で嫁いだ異国で幽閉され、四年間忘れられていた。
彼が再び人前に姿を現したのは、クーデターの混乱のさなか。そして、存在を持て余された末、次期宰相である王子との再婚が決まる。
冷静で無口な王子が、なぜかカシュアにだけは優しいのは、かつて彼が妖精物語に恋をした少年だったから――不器用な王子とともに、愛をたしかめ合うストーリー。※2025/11/26第三部スタート
君を選ぶ理由 〜花の香りと幼なじみのΩ〜
なの
BL
幼い頃から、桐生湊は桜庭凪のそばにいると、花が咲いたような香りを感じていた。
祖父同士が幼馴染という縁もあり、二人は物心つく前からいつも一緒だった。
第二性の検査で湊はα、凪はΩと判明。
祖父たちは「完璧な番」と大喜びし、将来の結婚話まで持ち上がる。
――これはαとΩだから?
――家のため?
そう疑う湊。一方、凪は「選ばれる側」としての不安を胸に、静かに距離を取ろうとする。
湊の兄・颯の存在も、二人のすれ違いを加速させる。
花の香りの奥に隠れた本当の気持ち。
役割や運命ではなく、「君だから」と選び直す、
幼馴染オメガバースBL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる