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小学生編
しあわせ図鑑 9
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「憲吾さん、リビングにどうぞ」
「あぁ、お邪魔するよ」
ソファに座ると、芽生と瑞樹が作ったというレモンゼリーを瑞樹が運んでくる。
「これです。どうぞ、外は暑かったですよね」
レモンゼリーは涼しげなガラスの器に入っていて、ゼリーには薄く切ったレモンスライスと小さなミントの葉が添えられていた。
夏の日差しを集めたようなゼリーは、宝石のように煌めいていた。
「これ、おじさんのために作ったんだよ! おいしいよ!」
「本当に全て手作りなのか。すごいな、じゃあいただこう」
「うん、冷やしておいたから、ちょうどいい頃だよ」
スプーンですくって一口食べると、瑞樹と芽生は少し緊張した面持ちでその様子を見つめていた。
二人とも同じ表情で可愛いものだ。
「……おっ、これは爽やかな味で美味しいよ」
「ほんと?」
「本当ですか」
芽生の声が弾んだ。
瑞樹も嬉しそうだ。
「あの、大沼の母の試作品のレシピなんです。もう少し感想を聞かせていただけたら嬉しいです」
「なるほど、そうだな。甘酸っぱさがいい塩梅で、口の中がすーっと涼しくなる感じだ。夏に相応しい……なんというか……ええっと、そうだ! こう……高原に風が吹いた時の味とでもいうのか」
普段は白か黒かで判断しているので、感想を伝えるのって難しいものだな。
変な汗が出てくるよ。
「えへへ、お兄ちゃんが頑張ってくれたの。お兄ちゃんがいなかったら無理だったよ」
芽生が瑞樹を見ると、瑞樹は頬を染めてうつむいてしまった。
「芽生、ほめ過ぎだよ。今日の僕はあくまでも芽生くんの助手だったんだよ」
「そうなの?」
「ええっと、味見係も兼ねていた?」
「うん」
微笑ましい会話に、嬉しさがこみあげてくる。
芽生の言葉だと……「ほくほくしてくる」だろうか。
むむっ?
なんだか俺の語録にはない言葉を最近多用しているような。
あまりに二人の会話が微笑ましくて、お互いに相手がどんなに大切なのが、言葉の端々にも表れている。
「はははっ」
なんだか嬉しくて、思わず声を立てて笑ってしまった。
「芽生と瑞樹は、最高のチームだな」
「そうでしょうか」
「あぁ、どこから見てもそう思う」
ゼリーの後は、芽生の夏休みの算数のワークをみてやり、瑞樹が育てているベランダのプランターも見せてもらった。
「先ほどのレモンゼリーには自家製のミントの葉を乗せたんですよ」
「ミントって、買ってくるものだとばかり……」
これなら私にも育てられるのだろうか。
サボテンすらも枯らす男にも、何か植物を育ててみたいという欲ぐらいあるさ。
「ミントはとても育てやすいハーブです。そうだ、よかったら憲吾さん、ミントの葉を持って帰られますか」
「え、いいのか」
「はい、そうして欲しいです。その、美智さんもお好きですよ、きっと」
「そうか、そう言えば、美智もマンションに住んでいた頃、こんな風に何かを育てていたような」
「ですよね、きっとそうだと思いました。美智さんは緑の手をお持ちですよ」
瑞樹との会話は安らぐな。
ふわりと優しいそよ風のようだ。
「お兄ちゃん、緑の手ってなに?」
「えっと、花や木を育てるのが上手な人、つまりしおれてしまった元気のない植物を元気にできる人のことを『緑の手を持った人』と言うんだよ。
芽生が自分の手を見て、首を傾げていた。
「あ、じゃあ緑色の手じゃないんだね」
「くすっ、うん、そうだよ」
「よかったー 上手になりたいけど、急に手の色が変わったらびっくりしちゃうなって」
「くすっ、大丈夫だよ」
「ねえ、おじさん、また来てくれる?」
「もちろん。ゼリーがあるなら毎週でも来るよ」
芽生が嬉しそうに笑って、瑞樹の肩に寄りかかる。
離婚した当初、芽生はよく宗吾の出張中は、実家に預けられていた。
時折見かけた芽生は、いつも不安で寂しそうだった。
だが、今は違う。
瑞樹がいるから、芽生は、いつも幸せそうだ。
「憲吾さん、こんな風に過ごす日曜日も、いいですね」
「そうだな。いかにも夏休みって感じだな」
「今日は、いい午後になりました」
グラスの中でぷるるんと揺れるレモンゼリーが、三人の笑い声に包まれて、いっそう明るく見えた。
「あぁ、お邪魔するよ」
ソファに座ると、芽生と瑞樹が作ったというレモンゼリーを瑞樹が運んでくる。
「これです。どうぞ、外は暑かったですよね」
レモンゼリーは涼しげなガラスの器に入っていて、ゼリーには薄く切ったレモンスライスと小さなミントの葉が添えられていた。
夏の日差しを集めたようなゼリーは、宝石のように煌めいていた。
「これ、おじさんのために作ったんだよ! おいしいよ!」
「本当に全て手作りなのか。すごいな、じゃあいただこう」
「うん、冷やしておいたから、ちょうどいい頃だよ」
スプーンですくって一口食べると、瑞樹と芽生は少し緊張した面持ちでその様子を見つめていた。
二人とも同じ表情で可愛いものだ。
「……おっ、これは爽やかな味で美味しいよ」
「ほんと?」
「本当ですか」
芽生の声が弾んだ。
瑞樹も嬉しそうだ。
「あの、大沼の母の試作品のレシピなんです。もう少し感想を聞かせていただけたら嬉しいです」
「なるほど、そうだな。甘酸っぱさがいい塩梅で、口の中がすーっと涼しくなる感じだ。夏に相応しい……なんというか……ええっと、そうだ! こう……高原に風が吹いた時の味とでもいうのか」
普段は白か黒かで判断しているので、感想を伝えるのって難しいものだな。
変な汗が出てくるよ。
「えへへ、お兄ちゃんが頑張ってくれたの。お兄ちゃんがいなかったら無理だったよ」
芽生が瑞樹を見ると、瑞樹は頬を染めてうつむいてしまった。
「芽生、ほめ過ぎだよ。今日の僕はあくまでも芽生くんの助手だったんだよ」
「そうなの?」
「ええっと、味見係も兼ねていた?」
「うん」
微笑ましい会話に、嬉しさがこみあげてくる。
芽生の言葉だと……「ほくほくしてくる」だろうか。
むむっ?
なんだか俺の語録にはない言葉を最近多用しているような。
あまりに二人の会話が微笑ましくて、お互いに相手がどんなに大切なのが、言葉の端々にも表れている。
「はははっ」
なんだか嬉しくて、思わず声を立てて笑ってしまった。
「芽生と瑞樹は、最高のチームだな」
「そうでしょうか」
「あぁ、どこから見てもそう思う」
ゼリーの後は、芽生の夏休みの算数のワークをみてやり、瑞樹が育てているベランダのプランターも見せてもらった。
「先ほどのレモンゼリーには自家製のミントの葉を乗せたんですよ」
「ミントって、買ってくるものだとばかり……」
これなら私にも育てられるのだろうか。
サボテンすらも枯らす男にも、何か植物を育ててみたいという欲ぐらいあるさ。
「ミントはとても育てやすいハーブです。そうだ、よかったら憲吾さん、ミントの葉を持って帰られますか」
「え、いいのか」
「はい、そうして欲しいです。その、美智さんもお好きですよ、きっと」
「そうか、そう言えば、美智もマンションに住んでいた頃、こんな風に何かを育てていたような」
「ですよね、きっとそうだと思いました。美智さんは緑の手をお持ちですよ」
瑞樹との会話は安らぐな。
ふわりと優しいそよ風のようだ。
「お兄ちゃん、緑の手ってなに?」
「えっと、花や木を育てるのが上手な人、つまりしおれてしまった元気のない植物を元気にできる人のことを『緑の手を持った人』と言うんだよ。
芽生が自分の手を見て、首を傾げていた。
「あ、じゃあ緑色の手じゃないんだね」
「くすっ、うん、そうだよ」
「よかったー 上手になりたいけど、急に手の色が変わったらびっくりしちゃうなって」
「くすっ、大丈夫だよ」
「ねえ、おじさん、また来てくれる?」
「もちろん。ゼリーがあるなら毎週でも来るよ」
芽生が嬉しそうに笑って、瑞樹の肩に寄りかかる。
離婚した当初、芽生はよく宗吾の出張中は、実家に預けられていた。
時折見かけた芽生は、いつも不安で寂しそうだった。
だが、今は違う。
瑞樹がいるから、芽生は、いつも幸せそうだ。
「憲吾さん、こんな風に過ごす日曜日も、いいですね」
「そうだな。いかにも夏休みって感じだな」
「今日は、いい午後になりました」
グラスの中でぷるるんと揺れるレモンゼリーが、三人の笑い声に包まれて、いっそう明るく見えた。
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