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第一章
羽織る 5
路地で足を休めていた俺に近づいてくる背の高い男の顔は誰だ?
逆光で良く見えない。
こんな嫌なことが学生時代に何度かあったのを思い出し、冷汗が流れる。
自分では自覚がないのだが、俺はどうも同性から好かれやすいようだ。学生時代に何度か真剣な告白をされたことがあるし、こうやって夜道で急に襲われそうになったことも実はあって……寸での所で逃げられたので良かったが。しかし今日はここは袋小路だし、俺は足が痛く逃げられない状況だ。
まずいな。
目を瞑ってその近づいてくる手を避けようと身を屈めると、相手は俺の足元にいた黒猫を抱きかかえあやし始めた。
「クロ~こんなとこにいたのか。さぁそろそろ帰るぞ」
「ニャー」
「んっ誰かいるのか、そこに? 」
あっなんだ! この声は信二郎じゃないか。
途端にほっとして躰から力が抜けていく。
「信二郎……」
「あっお前、夕凪か。なんでこんな所にいるのだ? 」
「んっ……」
信二郎を探していたとは言えずにいると、心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
「どこか具合悪いのか」
「実は鼻緒が擦れて足が痛くて……休んでいたんだ」
そう答えると信二郎は呆れた顔をしながら、深いため息をついた。
「夕凪! お前は馬鹿だな。ここ何処だか分ってるのか……そんな無防備に」
「えっ? 祇園だよ、なんで? 」
「夕凪みたいなお坊ちゃんがこんな時間に来る場所じゃないよ。ここらは」
「くっ! そんなことない。俺だって祇園くらい来たことある」
「夜にか」
「……いや……昼間だったが」
「ぷっ! やっぱりな~」
「おいっ!信二郎っ、からかうな。俺は立派な成人男子だ。迷子になったわけでもないのに、なんでそんな風に茶化すんだ」
信二郎に笑われて、ムッとしてしまった。
「でも夕凪さっき凄く怯えた顔をしていたよな?震えてたし」
「そっそれは」
「もしかして男に襲われるとでも思ったのか」
「ちっ違う!」
いつだって信二郎はこんな調子で俺を揶揄う。 なのになんであの日あんなに熱く激しく……俺を女のように求め抱いたりしたのだろうか。
俺が忘れられなくなる位きつく……深く……
信二郎にとっては、俺はただの遊びの延長なのか。本意が分からず、ますます混乱してしまう。
「どれ足を見せてみろ」
信二郎が俺の前に膝をつく。 その立ち振る舞いがあまりに洗練されていて思わず見惚れてしまう。
「夕凪、どうした? 顔赤いぞ」
「なっなんでもない! 」
もう今日は気持ちが上がったり下がったりで散々だ。何だってこんなにも俺の心をこの前からかき乱すんだよ! すべて信二郎のせいだと思うと腹立たしくもなってくる。
「夕凪は本当に可愛いな」
ちゅっ……
突然だった。 信二郎が百面相している俺の頬に口づけしたのは。
その感触に先日の感触を思い出し躰が震える。
「こっこんなところで! 何で! 」
「何でって夕凪が可愛いからだよ。さっきからくるくる変わる表情に見惚れていたよ」
「おっお前は男に可愛いって……それはないだろう」
動揺する俺のことを屈んだまま見上げ、にこりと余裕の笑みで向けてくる。
「夕凪、桜が満開だ。せっかく来てくれたんだから祇園白川の夜桜を一緒に愛でていかないか」
「俺は……お前に逢いに来たんじゃない。たまたま通りかかったんだ。そう、たまたまだ! 」
「ふっそうだな。たまたまでも此処でこうやって可愛い夕凪にまた逢えて嬉しいよ。まずは歩けるか足を診てやるよ」
信二郎はどこまでも余裕の笑みを浮かべ、俺の草履に手を伸ばして来た。
逆光で良く見えない。
こんな嫌なことが学生時代に何度かあったのを思い出し、冷汗が流れる。
自分では自覚がないのだが、俺はどうも同性から好かれやすいようだ。学生時代に何度か真剣な告白をされたことがあるし、こうやって夜道で急に襲われそうになったことも実はあって……寸での所で逃げられたので良かったが。しかし今日はここは袋小路だし、俺は足が痛く逃げられない状況だ。
まずいな。
目を瞑ってその近づいてくる手を避けようと身を屈めると、相手は俺の足元にいた黒猫を抱きかかえあやし始めた。
「クロ~こんなとこにいたのか。さぁそろそろ帰るぞ」
「ニャー」
「んっ誰かいるのか、そこに? 」
あっなんだ! この声は信二郎じゃないか。
途端にほっとして躰から力が抜けていく。
「信二郎……」
「あっお前、夕凪か。なんでこんな所にいるのだ? 」
「んっ……」
信二郎を探していたとは言えずにいると、心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
「どこか具合悪いのか」
「実は鼻緒が擦れて足が痛くて……休んでいたんだ」
そう答えると信二郎は呆れた顔をしながら、深いため息をついた。
「夕凪! お前は馬鹿だな。ここ何処だか分ってるのか……そんな無防備に」
「えっ? 祇園だよ、なんで? 」
「夕凪みたいなお坊ちゃんがこんな時間に来る場所じゃないよ。ここらは」
「くっ! そんなことない。俺だって祇園くらい来たことある」
「夜にか」
「……いや……昼間だったが」
「ぷっ! やっぱりな~」
「おいっ!信二郎っ、からかうな。俺は立派な成人男子だ。迷子になったわけでもないのに、なんでそんな風に茶化すんだ」
信二郎に笑われて、ムッとしてしまった。
「でも夕凪さっき凄く怯えた顔をしていたよな?震えてたし」
「そっそれは」
「もしかして男に襲われるとでも思ったのか」
「ちっ違う!」
いつだって信二郎はこんな調子で俺を揶揄う。 なのになんであの日あんなに熱く激しく……俺を女のように求め抱いたりしたのだろうか。
俺が忘れられなくなる位きつく……深く……
信二郎にとっては、俺はただの遊びの延長なのか。本意が分からず、ますます混乱してしまう。
「どれ足を見せてみろ」
信二郎が俺の前に膝をつく。 その立ち振る舞いがあまりに洗練されていて思わず見惚れてしまう。
「夕凪、どうした? 顔赤いぞ」
「なっなんでもない! 」
もう今日は気持ちが上がったり下がったりで散々だ。何だってこんなにも俺の心をこの前からかき乱すんだよ! すべて信二郎のせいだと思うと腹立たしくもなってくる。
「夕凪は本当に可愛いな」
ちゅっ……
突然だった。 信二郎が百面相している俺の頬に口づけしたのは。
その感触に先日の感触を思い出し躰が震える。
「こっこんなところで! 何で! 」
「何でって夕凪が可愛いからだよ。さっきからくるくる変わる表情に見惚れていたよ」
「おっお前は男に可愛いって……それはないだろう」
動揺する俺のことを屈んだまま見上げ、にこりと余裕の笑みで向けてくる。
「夕凪、桜が満開だ。せっかく来てくれたんだから祇園白川の夜桜を一緒に愛でていかないか」
「俺は……お前に逢いに来たんじゃない。たまたま通りかかったんだ。そう、たまたまだ! 」
「ふっそうだな。たまたまでも此処でこうやって可愛い夕凪にまた逢えて嬉しいよ。まずは歩けるか足を診てやるよ」
信二郎はどこまでも余裕の笑みを浮かべ、俺の草履に手を伸ばして来た。
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