婚約者に浮気されたので、肩代わりしてた公務その他をお返しします

泉花ゆき

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「なっ、なっ……何を……!」

ジェラルドは言葉に詰まり、わなわなと拳を震わせた。ヴィクトリアは、ジークフリートの流れるような追及に内心で感嘆していた。彼はジェラルドの逃げ道をふさぎながら、繰り返されないようにも説いている。

「ジェラルド様……あなたがどうしてもそのドレスを彼女に贈りたいと仰るなら、どうぞご自身の個人資産からお支払いください」

「ふざけるな!僕は今、持ち合わせが……今月はミナへの贈り物が重なって……」

「あら、不思議なことですね」

ヴィクトリアは、わざとらしく驚いて見せる。柔らかな物言いではあるが、瞳には一欠片の情も宿っていないようだった。

「先日もミナ嬢とは外部の貴族街にあるレストランで外食をなさったのでしょう。人目さえはばからず婚約者でもない女性と豪遊する余裕がありながらドレス一着の代金すらお持ちでないなど……」

「なっ」

お前がなぜそれを、と言いたげにジェラルドの口がぱくぱくと開閉される。

「それに、女性への贈り物を経費で済まそうだなんて。まさかそんな情けないお姿を皆様に見せるおつもりなのかしら」

「うぐっ……、それは、だな……」

「大丈夫ですよ、殿下」

ジークフリートが、一見すれば慈悲深いだけの…その実、冷たいものを孕んだ笑みを浮かべて追い打ちをかける。

「今夜一晩かけてその山のような書類仕事を終わらせれば……お父上、つまり陛下も殿下の勤勉さを評価してくださるでしょう。そうすれば、先立つものお小遣いを願い出る口実もできるのでは?」

(……もっとも、これだけの量の実務をこれまで全てヴィクトリア嬢に丸投げしていたという事実が明るみに出れば、小遣いどころか廃嫡の議論さえ加速しかないがな)

ジークフリートの冷ややかな視線の中にある言葉が、なぜかヴィクトリアには容易に想像がついた。
ジェラルドにまでそれが伝わったかは分からないが、とにかく彼は手をつける方向に決意を定めたようだった。
……これ以上、ジークフリートにしゃべらせておくことに我慢がならなかったのかもしれないが。

「……っ、分かった!やればいいんだろう、やれば!」

いかんともしがたい状況を突きつけられ、ジェラルドは吐き捨てるように叫ぶと乱暴に椅子に座り直した。ペンを握る手は怒りと焦りで小刻みに震えている。

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