婚約者に浮気されたので、肩代わりしてた公務その他をお返しします

泉花ゆき

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ミナはそう言いながら、ジェラルドが止める間もなくズカズカと部屋の奥へ踏み込んできた。

「やっぱりお疲れなんじゃないんですか?私がたくさん癒してあげますよ~」

そして、あろうことかジェラルドが格闘していた書類の山の上に重いバスケットを置こうとした。それはこの場にある唯一と言っていいほどの貴重なもの、過去の控えや計算書の上だった。

「それで、この間お願いしたドレスなんですけどぉ~。やっぱりあれだとちょっと地味かなと思って。新しく宝石とか足しませんかぁ?」

「待て、そこは……!」

……ジェラルドの制止は間に合わなかった。不安定な紙の山に置かれたバスケットが傾き、中に入っていたティーポットが派手な音を立てて転がった。当然のことながら、中からは熱い紅茶が溢れ出す。

──バシャッ

絶望的な音とともに、甘ったるい香りの液体が流れていく。それはみるみるうちにジェラルドが必死に書き上げていた予算案の上へと広がっていった。

「あ……」

「……っ!!」

ミナが小さく声を漏らす。 
数時間の苦闘が、一瞬で茶色いシミへと変わっていく。 それを見つめていたジェラルドの中で、ぷつりと理性の糸が断ち切れた。

「ふっ……ふざけるな!!」

ジェラルドは椅子を跳ね飛ばさんばかりの勢いで立ち上がり、濡れて使い物にならなくなった書類をミナの目の前で振り上げた。

「何をしてるんだ!これがどれだけ重要な書類か分かっているのか!」

「だっ、だって……!ジェラルド様が最近ちっともかまってくれないから……!」

「かまう!?こっちは国の信用がかかっているんだ!お前の遊びに付き合ってる場合じゃないんだよ!」

「遊びって何よ、私は疲れてるジェラルド様を元気づけようとして……!」

優しさという免罪符を出せば許されると思っていたミナだったが、今のジェラルドには火に油を注ぐだけだった。
売り言葉に買い言葉で、ミナは完全に罵倒する方へと舵を切る。

「ていうかそんなに大事ならそんなとこに置いてあるほうが悪いんじゃない!」

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