婚約者に浮気されたので、肩代わりしてた公務その他をお返しします

泉花ゆき

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「ヴィクトリア様、これをお使いください」

人だかりの輪から一人の令嬢が進み出て、小さなガラスの小瓶を差し出した。
気付け薬だ。

「私もよくめまいを起こしてしまうため、常に持ち歩いております。お役に立てれば……」

「ありがとう、助かるわ」

短く礼を言い、私は受け取った瓶のコルクを引き抜いた。鼻を刺すような鋭い刺激臭が一瞬こちらまで漂いう。
腕の中にいたソフィアが、小さく身を震わせながらゆっくりと瞼を持ち上げた。

「あ……わたくし……」

「無理に動かず、ゆっくり呼吸をしてちょうだい。今は話さなくても大丈夫……」

私は彼女の背を支えつつ、人目に触れぬよう素早くドレスの背を緩めた。きつく止められたコルセットを着衣の上から僅かに解く。
拘束から解かれた肺へと深く空気が吸い込まれ、ようやくソフィアの青ざめた頬にはわずかな赤みが戻り始めた。

「ヴィクトリア様、医務官がいらっしゃいました!」

少し遠くから、切迫した声が響く。芝生に座り込んだままの私たちのために、令嬢たちが自然と道を開けた。

駆け付けた医務官は慣れた手つきでソフィアの脈を測り、彼女の瞳の動きを確認していく。

「一時的な脳貧血でしょう。話を聞く限りでは心労と急な動きが重なったようですな。幸い、意識ははっきりしておられる」

年頃の令嬢が集まる学園とあって、こうした事態には医務官も手慣れたものだった。適切な処置の合間に投げかけられる簡単な問診にソフィアも落ち着きを取り戻し、か細いながらも受け答えを返している。

「痛みはありますか?ティーカップをぶつけられていたでしょう」

私の問いに、ソフィアは今まで忘れていたとばかりに自分の腹部を小さくさすった。けれども痛みよりも先に、変色して肌に張り付くドレスの不快感に気づいたようだった。当惑した声を上げる。

「……いやだ、べたついている」

「着替えが必要ね……医務室へ行きましょう。そこで腹部も詳しく診てもらうといいわ。私も付き添います」

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