私のことを嫌いなはずの冷徹騎士に、何故か甘く愛されています ※ただし、目は合わせてくれない

夕月

文字の大きさ
38 / 43
番外編

シフィルの誕生日 4

しおりを挟む
 貴賓室なんて入ったこともなかったけれど、城勤めのエルヴィンは迷う様子もなく辿り着いたようだ。
 広く美しい部屋は、何度か訪ねたことのあるユスティナの私室に少しだけ雰囲気が似ていて、緊張するシフィルの心を和らげてくれる。
 部屋の中央に置かれた天蓋つきのベッドは、シフィルの家のものより数段豪華で華やかだ。たっぷりとしたレースのカーテンや、フリルのたくさんついたクッションなど、可愛らしい雰囲気に、シフィルの心も思わず弾む。
 そんなベッドの上にシフィルを降ろしたエルヴィンは、そっと花束を取り上げるとテーブルの上に置いた。そして、ベッドに腰掛けるシフィルの前に膝をつくと、手を握ってまっすぐに見上げた。
「お誕生日おめでとう、シフィル。本当は一日ずっと一緒にいたかったけど、そうできなくてごめん」
「お仕事だもの、仕方ないわ。それでも、こうして少しでも一緒に過ごせて幸せよ」
 握られた手を握り返すと、エルヴィンの表情が優しく緩み、そっと抱き寄せられる。
「本当は、一番に渡したかったんだけど」
 少しだけ残念そうな表情で、エルヴィンが胸元から小箱を取り出した。中に入っていたのは、リボンモチーフのネックレス。結び目部分には小さな宝石がきらきらと輝いていて、よく見るとそれは赤紫の石と青緑の石だった。それに気づいたシフィルは、ふたりの瞳の色が使われていることにも嬉しくなる。
「素敵……! ありがとう、エルヴィン。着けてみてもいい?」
「もちろん」
 笑ってうなずいたエルヴィンが、ネックレスを取り上げてシフィルに着けてくれる。胸元で揺れるリボンが可愛くて、シフィルは思わずエルヴィンに抱きついた。
「嬉しい。すごく可愛いわ」
「うん。よく似合う」
 愛おしそうに頬を撫でた手が、ゆっくりとシフィルを上向かせる。彼の意図を察知して瞳を閉じたシフィルの唇に、エルヴィンの柔らかな唇が重なった。
 
「いつもと、色が違うな」
 唇が離れた瞬間、シフィルの下唇を親指でなぞるようにしながら至近距離でエルヴィンが囁く。
「ユスティナ様にもらった、新しい口紅をつけてみたの。キスしたくなる唇になるんですって」
 どうだった? と首をかしげてみせると、返事のようにエルヴィンの唇がまた重ねられた。
「いつだって、シフィルを見ればキスしたくなるから効果は分からないけど、それは俺の前以外ではつけないで」
 危険すぎるとつぶやくエルヴィンの、小さな独占欲を向けられたことが嬉しくて、シフィルは笑って了解とうなずいた。

  
 何度も啄むように口づけながら髪を撫でていたエルヴィンの手が、ワンピースの背中のリボンをそっと引っ張った。微かに服が緩んだ感覚に目を開けると、すぐそばにある赤紫の瞳が、いつもより少し色を濃くしてシフィルを見つめていた。シフィルを求める時に見せるその色に、自然と鼓動が速くなっていく。
「……いい? シフィル」
 吐息のかかる距離で、エルヴィンが囁く。シフィルは小さくうなずくと、彼の首筋に腕を回した。

 一段と深まったキスを交わしながらも、ふたりはまだベッドの端に腰掛けたままだ。いつもならあっという間にベッドに押し倒されているはずなのに、と微かに戸惑った気持ちに気づいたのか、エルヴィンがくすりと笑って立ち上がった。
「おいで、シフィル」
「え……?」
「このままだと、せっかくの服がくしゃくしゃになってしまう」
 汚れても困るだろうと耳元で揶揄うように囁かれて、シフィルは一気に真っ赤になった。
 だけど確かにこのままベッドに行けば、皺だらけになってしまうことは間違いない。シフィルは赤くなった顔を見られないようにうつむきながら、手を引くエルヴィンに身を任せて立ち上がった。

 まるで宝物を包む布を取り払うかのような慎重な手つきで、エルヴィンがワンピースをそっと脱がせていく。お気に入りの下着で良かったと思いながら、シフィルも黙ってエルヴィンの手に協力した。
 一度床に落とされたワンピースは、エルヴィンが大切そうに取り上げて綺麗にハンガーにかけてくれる。
 ベッドサイドに腰掛けてそれを見つめていたシフィルのもとにエルヴィンが戻ってくると、彼は目の前に膝をついた。
「靴を脱ごうか、シフィル」
「……っ」
 恭しく剥き出しの膝にキスを落としたあと、エルヴィンはそっとシフィルの片足を持ち上げて、丁寧な手つきで靴を脱がせてくれる。普段とは違うエルヴィンの行動に、シフィルは翻弄されてばかりだ。
 ワンピースの色にもよく合ったその靴は、いつもより華奢なヒールの可愛いもの。踝のあたりにはビジューつきのリボンがあしらわれていて、お気に入りだ。誕生日のお祝いにと両親から贈られたその靴は、きっとローシェがワンピースに合わせて選んでくれたものだ。
「可愛い靴だな。シフィルによく似合う」
「うん、お気に入りなの」
「今日はもう脱がせてしまうけど、今度はこれを履いてまた出かけよう」
 誓うように足の甲に口づけを落とされて、くすぐったさにシフィルは小さく笑ってうなずいた。

 ようやく身につけているのは下着だけとなったシフィルを、エルヴィンが熱っぽい視線で見つめる。恥ずかしい気持ちを堪えて見つめ返すと、エルヴィンの大きな手が頭を撫でてくれた。そのままゆっくりとベッドに押し倒されて、シフィルはそっとエルヴィンの首に腕を回した。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【書籍化】番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました

降魔 鬼灯
恋愛
 コミカライズ化決定しました。 ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。  幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。  月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。    お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。    しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。 よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう! 誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は? 全十話。一日2回更新 完結済  コミカライズ化に伴いタイトルを『憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜』から『番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました』に変更しています。

本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います

こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。