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【九十六】かるた大会準決勝 番狂わせ!
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準々決勝のあとで選手も応援席の生徒も軽い昼食を取りに学園の食堂に行くことになった。
徳田康代はライバルの逢坂めぐみと並んで、校舎の一階にある食堂に向かった。
「徳田さん、神聖女学園って、大きくて迷子になりそうよ」
『慣れるまでーー 慣れれば普通の学校と変わらないわ』
徳田の言う普通が、逢坂には普通に聞こえていない。
文武両道の徳田康代は、ある意味で感覚がずれていた。
天女の天宮静女も横で苦笑いをしている。
「普通の意味が違うでござらんかな?」
「徳田さんの普通は、難しいわね。
ーー ところで、決勝で当たる可能性が濃厚ね」
『逢坂さんと試合で対戦できる機会が、減ることを考えれば嬉しいですわ』
「練習では、毎日出来ますが」
『練習は、練習よ。
ーー つまり色々試しているでしょう』
「確かに、そうね」
食堂に到着すると、中等部の滝沢愛、瀬戸霞、笹山夜空の三人が、豊下秀美と同じテーブルで談笑していた。
徳田が声を掛けて相席をお願いした。
「あ、康代さん、どうぞ。
ーー こちら、滝沢さん、瀬戸さん、笹山さんです」
『知っているわ。来年は、私たちの後輩ね』
「康代さん、今ね、水納豆の作り方を伝えていたの」
逢坂めぐみが驚いて豊下に聞き返す。
「水納豆って何ですか」
「卵の代わりに水を入れるのよ。
ーー 作り方は、納豆を掻き混ぜてから、お醤油を入れて掻き混ぜる。
ーー 次に水を少量入れて、もう一度掻き混ぜる。
ーー 泡が立ったのを確認したら出来上がり」
『秀美、説明、上手くなったわね』
「豊下さん、また教えてね。
ーー 徳田さん、まだ試合あるから食後血糖に注意ね」
『私は、そういう時は、GI値の低いお蕎麦に決めているの。
ーー 眠気防止にと思っています』
「私も次から注意するわ」
『そうね。糖質はエネルギーではあるが有害の方が多いわね・・・』
明里光夏が遅れてやって来た。
「康代さん、大変なことになっています。
ーー 今、聞いたのですが、かるた大会のライブ配信がバズっています」
『光夏、なんの事?』
「夜神さんと朝霧さんの映像が流れて・・・・・・。
ーー 全国からの問い合わせが殺到しているそうです」
『想定外の効果ね。秀美に任せましょう』
「康代さん、全国生徒会議と相談してなんとかしますね」
秀美は、いつになく緊張していた。
『じゃあ、ちょっと早いけど、会場に戻るわね』
徳田康代と逢坂めぐみが離席した。
徳田と逢坂の二人は、会場に到着して、準決勝のトーナメント表を指でなぞった。
「次の相手は、朝霧雫さんよ」
『じゃあ、目立つわね』
「そうね。全国のファンを敵にしたくないわ」
背後から声が掛けられた。
「逢坂さん、そんなお気遣いは有り難くありませんわよ。
ーー 全力でお願いします」
朝霧雫だった。
「朝霧さん、ありがとうございます」
『じゃあ、会場に入りましょう』
生徒会の門田菫恋が小走りでやって来た。
「徳田さん、ネット配信の反響が凄いのですが、どうしますか」
『秀美に対応任せたから大丈夫でしょう』
「準決勝は、どうされますか」
『ちょっと待って』
康代は門田に背を向けて電話するようにセリエにテレパシーでコンタクトした。
[セリエさま、ご相談が]
[負のエネルギー抑制策かにゃあ]
[はい]
[それなら心配にゃいにゃあ]
[かるた中継継続します]
[康代よ、杞憂にゃあ]
[セリエさま、ありがとうございます]
康代はセリエとの交信を終えて門田を見た。
『門田さん、大丈夫ですから、準決勝の配信も継続しましょう』
「分かりました。徳田会長」
門田は重要な時は、徳田康代に生徒会会長の役職名を付加する癖があった。
『会長は入りませんよ。門田さん』
応援席に教師と女子生徒たちが戻った。
安甲晴美、由良道江、松山八重、滝沢愛、瀬戸霞、笹山夜空が最前列に着席した。
あとから、宝田劇団の夜神紫依、朝川夏夜、赤城麗華、大河原百合の四名の大スターが並び、後ろに敗退した参加者の顔があった。
安甲が小さな声で呟く。
「この試合、波乱起きそうね・・・・・・きっと」
司会の門田菫恋が準決勝参加の氏名を呼び出す。
「お名前をお呼びします。呼ばれた方は、お名前のある席に着いてください。
ーー Aブロック代表の徳田康代さんは、一番の席へ、
ーー Dブロック代表の姫乃水景さんは、二番の席へ、
ーー Eブロック代表の逢坂めぐみさんは、三番の席へ、
ーー Hブロック代表の朝霧雫さんは、四番の席へ、お願いします」
四人は、着席して正座で一礼をした。
専任読手が会場中央に現れ、一礼する。
「これより、準決勝を始めます。かるたを並べてください。
ーー 並べ終えたら暗記時間は、十五分です。
ーー 暗記を開始してください」
専任読手がストップウオッチを見て暗記時間終了を宣言した。
毒手は声高らかに序歌を詠み始めた。
「なにわずに さくやこの花 冬ごもり
いまを春べと 咲くやこの花・・・・・・
いまを春べと 咲くやこの花」
「むらさめの・・・・・・」
徳田と逢坂が同時に払い「きりたちのぼる・・・・・・」が宙を舞う。
徳田、逢坂連取で、徳田逢坂五枚リードで、徳田逢坂は二十枚になった。
姫乃が出遅れ、朝霧も出遅れた。
前半戦はA級選手の底力が発揮されたが、中盤で枚数が並ぶ。
姫乃も朝霧も徹底した自陣かるたを展開して終盤になって四人は運命戦になる。
徳田康代も逢坂めぐみも、まさかの展開に余裕が無い。
自陣に残る札を二人は確認していた。
大山札が徳田と逢坂の自陣にあった。
一方、姫乃と朝霧の前には一字決まりがある。
「めぐりあひて・・・・・・」
朝霧雫が「くもがくれにし・・・・・・」を押さえた。
徳田と姫乃は、空札となる。
再び空札のあと、
「せをはやみ・・・・・・」
姫乃水景が「われてもすゑに・・・・・・」を豪快に払いかるたが空に舞い回転した。
司会の門田菫恋が再び登場して挨拶する。
「決勝進出は、姫乃水景さんと朝霧雫さんになりました・・・・・・」
会場は、番狂わせにどよめく。
『姫乃さん、おめでとうございます』
「徳田さん、ありがとう」
「朝霧さん、頑張ってくださいね」
「逢坂さん、ありがとうございます」
四人は、挨拶を終え会場を出た。
「番狂わせが起きたでござるよー」
静女ががっかりしていた。
徳田康代はライバルの逢坂めぐみと並んで、校舎の一階にある食堂に向かった。
「徳田さん、神聖女学園って、大きくて迷子になりそうよ」
『慣れるまでーー 慣れれば普通の学校と変わらないわ』
徳田の言う普通が、逢坂には普通に聞こえていない。
文武両道の徳田康代は、ある意味で感覚がずれていた。
天女の天宮静女も横で苦笑いをしている。
「普通の意味が違うでござらんかな?」
「徳田さんの普通は、難しいわね。
ーー ところで、決勝で当たる可能性が濃厚ね」
『逢坂さんと試合で対戦できる機会が、減ることを考えれば嬉しいですわ』
「練習では、毎日出来ますが」
『練習は、練習よ。
ーー つまり色々試しているでしょう』
「確かに、そうね」
食堂に到着すると、中等部の滝沢愛、瀬戸霞、笹山夜空の三人が、豊下秀美と同じテーブルで談笑していた。
徳田が声を掛けて相席をお願いした。
「あ、康代さん、どうぞ。
ーー こちら、滝沢さん、瀬戸さん、笹山さんです」
『知っているわ。来年は、私たちの後輩ね』
「康代さん、今ね、水納豆の作り方を伝えていたの」
逢坂めぐみが驚いて豊下に聞き返す。
「水納豆って何ですか」
「卵の代わりに水を入れるのよ。
ーー 作り方は、納豆を掻き混ぜてから、お醤油を入れて掻き混ぜる。
ーー 次に水を少量入れて、もう一度掻き混ぜる。
ーー 泡が立ったのを確認したら出来上がり」
『秀美、説明、上手くなったわね』
「豊下さん、また教えてね。
ーー 徳田さん、まだ試合あるから食後血糖に注意ね」
『私は、そういう時は、GI値の低いお蕎麦に決めているの。
ーー 眠気防止にと思っています』
「私も次から注意するわ」
『そうね。糖質はエネルギーではあるが有害の方が多いわね・・・』
明里光夏が遅れてやって来た。
「康代さん、大変なことになっています。
ーー 今、聞いたのですが、かるた大会のライブ配信がバズっています」
『光夏、なんの事?』
「夜神さんと朝霧さんの映像が流れて・・・・・・。
ーー 全国からの問い合わせが殺到しているそうです」
『想定外の効果ね。秀美に任せましょう』
「康代さん、全国生徒会議と相談してなんとかしますね」
秀美は、いつになく緊張していた。
『じゃあ、ちょっと早いけど、会場に戻るわね』
徳田康代と逢坂めぐみが離席した。
徳田と逢坂の二人は、会場に到着して、準決勝のトーナメント表を指でなぞった。
「次の相手は、朝霧雫さんよ」
『じゃあ、目立つわね』
「そうね。全国のファンを敵にしたくないわ」
背後から声が掛けられた。
「逢坂さん、そんなお気遣いは有り難くありませんわよ。
ーー 全力でお願いします」
朝霧雫だった。
「朝霧さん、ありがとうございます」
『じゃあ、会場に入りましょう』
生徒会の門田菫恋が小走りでやって来た。
「徳田さん、ネット配信の反響が凄いのですが、どうしますか」
『秀美に対応任せたから大丈夫でしょう』
「準決勝は、どうされますか」
『ちょっと待って』
康代は門田に背を向けて電話するようにセリエにテレパシーでコンタクトした。
[セリエさま、ご相談が]
[負のエネルギー抑制策かにゃあ]
[はい]
[それなら心配にゃいにゃあ]
[かるた中継継続します]
[康代よ、杞憂にゃあ]
[セリエさま、ありがとうございます]
康代はセリエとの交信を終えて門田を見た。
『門田さん、大丈夫ですから、準決勝の配信も継続しましょう』
「分かりました。徳田会長」
門田は重要な時は、徳田康代に生徒会会長の役職名を付加する癖があった。
『会長は入りませんよ。門田さん』
応援席に教師と女子生徒たちが戻った。
安甲晴美、由良道江、松山八重、滝沢愛、瀬戸霞、笹山夜空が最前列に着席した。
あとから、宝田劇団の夜神紫依、朝川夏夜、赤城麗華、大河原百合の四名の大スターが並び、後ろに敗退した参加者の顔があった。
安甲が小さな声で呟く。
「この試合、波乱起きそうね・・・・・・きっと」
司会の門田菫恋が準決勝参加の氏名を呼び出す。
「お名前をお呼びします。呼ばれた方は、お名前のある席に着いてください。
ーー Aブロック代表の徳田康代さんは、一番の席へ、
ーー Dブロック代表の姫乃水景さんは、二番の席へ、
ーー Eブロック代表の逢坂めぐみさんは、三番の席へ、
ーー Hブロック代表の朝霧雫さんは、四番の席へ、お願いします」
四人は、着席して正座で一礼をした。
専任読手が会場中央に現れ、一礼する。
「これより、準決勝を始めます。かるたを並べてください。
ーー 並べ終えたら暗記時間は、十五分です。
ーー 暗記を開始してください」
専任読手がストップウオッチを見て暗記時間終了を宣言した。
毒手は声高らかに序歌を詠み始めた。
「なにわずに さくやこの花 冬ごもり
いまを春べと 咲くやこの花・・・・・・
いまを春べと 咲くやこの花」
「むらさめの・・・・・・」
徳田と逢坂が同時に払い「きりたちのぼる・・・・・・」が宙を舞う。
徳田、逢坂連取で、徳田逢坂五枚リードで、徳田逢坂は二十枚になった。
姫乃が出遅れ、朝霧も出遅れた。
前半戦はA級選手の底力が発揮されたが、中盤で枚数が並ぶ。
姫乃も朝霧も徹底した自陣かるたを展開して終盤になって四人は運命戦になる。
徳田康代も逢坂めぐみも、まさかの展開に余裕が無い。
自陣に残る札を二人は確認していた。
大山札が徳田と逢坂の自陣にあった。
一方、姫乃と朝霧の前には一字決まりがある。
「めぐりあひて・・・・・・」
朝霧雫が「くもがくれにし・・・・・・」を押さえた。
徳田と姫乃は、空札となる。
再び空札のあと、
「せをはやみ・・・・・・」
姫乃水景が「われてもすゑに・・・・・・」を豪快に払いかるたが空に舞い回転した。
司会の門田菫恋が再び登場して挨拶する。
「決勝進出は、姫乃水景さんと朝霧雫さんになりました・・・・・・」
会場は、番狂わせにどよめく。
『姫乃さん、おめでとうございます』
「徳田さん、ありがとう」
「朝霧さん、頑張ってくださいね」
「逢坂さん、ありがとうございます」
四人は、挨拶を終え会場を出た。
「番狂わせが起きたでござるよー」
静女ががっかりしていた。
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