上 下
34 / 73

第三十四話 酒田昇の退行催眠

しおりを挟む
 神聖学園の文芸部部室で昼間夕子ひるまゆうこの携帯電話が鳴っている。

「先生、さっき、スマホが鳴っていましたが」
部長の日向黒子ひなたくろこだった。

「悪い悪い、置き忘れてしまった・・・・・・」

 夕子は、着信履歴を見て、酒田の電話番号と知り連絡を入れた。

「先生、明日なんですが、お時間を取れませんか?」
「酒田さん、例の件ですか・・・・・・」

「明日、例の神社に伺おうと思っています」
「分かったわ、この間の書店の入り口でどうですか。
ーー 時間は、あとで連絡するわ」

「先生、ありがとうございます」

 夕子は、携帯電話を切り、神社の神主に連絡を入れる。

「先生、わざわざ、ありがとうございます。
ーー じゃあ、明日の午後四時どうでしょうか」
「はい、大丈夫です」


 翌日の三時半、昼間、朝霧、星乃の三人は、酒田と書店の入り口で落ち合う。
文芸部の生徒たちには知らせていない。

 四人は安倍晴明の子孫の神社への道に入った。

「今日は、なんにもなさそうですね」
「酒田さん、今日は神主さんが、
ーー 結界の綻びを直して強化したそうよ」

「先生、そうなんですね」

しばらく進むと目の前にもやが立ちめる。
「このガスは問題ないわね」

「星乃先生が言うと説得力が違うわね、昼間先生」
「朝霧先生、星乃先生を揶揄からかわないで」



 神社の神主が鳥居の前で手を振っている。
夕子たち四人も手を振りながら、神主に近づく。

「神主さん、お待たせしました」
「昼間先生、酒田さん、無理を言ってお付き合い頂きありがとうございます。
ーー さあさあ、社務所にお入りください。
ーー 巫女の花園舞はなぞのまいがお茶を入れますから」

 夕子たち四人は、社務所の玄関から巫女に案内され奥座敷に遠される。
「さあさあ、こちらです」

 和室の中央には大きな黒塗りの座卓が置かれていた。

 別の巫女が座卓の前に座布団を並べて席を四人の席をつくる。

 花園舞がお茶をお盆に乗せて夕子たちの座卓の上に置いた。

 大きな窓のレースカーテン越しに境内の樹木が見えている。
時より木漏れ日が部屋の中に差し込んでいた。

「わざわざ、ありがとうございます」
酒田が神主に丁寧に御礼をしている。

「さて、酒田さん頭を上げて、
ーー お茶を飲んだら本題を始めましょう」

「・・・・・・」
酒田は黙っている。



「この神社は、大昔にある方の別荘だった場所ですが、
ーー 色々あって、私の先祖が管理することになりました」
神主が言うと、星乃が神主に質問した。

「訳ありの場所なんですね。
ーー 先日の時空の落とし穴も、それと関係あるのでしょうか」

 星乃先生の質問に神主は坦々と応える。

「平たく言えば、曰く付きの場所です」
「誰かが亡くなったとかですか?」
夕子が聞いた。

「みなさんは、竹取物語をご存知ですか?」
「ええ、私は古典の教師ですから知っています」

 神主は夕子を見ながら言葉を選ぶ。
「その物語の関係者がここに並んでいます」

 神主の言葉に昼間、朝霧、星乃、酒田の四人は耳を疑った。


「実際の物語は、御伽噺とは違いますが、実在して、その前世を持つのが先日の七人ですが、
ーー 酒田さんだけは特殊で私が霊視することにしました」

「神主さん、僕ですか?」
「はい、あなたですね」

「酒田さん、あそこに置いてある安楽椅子に腰掛けてください」

 神主は、酒田の右手を握り、呪文を唱える。
酒田の脳裡に大昔の屋敷が見えて目から涙が溢れ出す。

「酒田さん、何が見えますか?」
「双子の姫の姉が病に倒れ息を引き取りました。
ーー あなたは、その亡くなった方と親しいのですか?」

「はい、私の婚約者です」
「あなたの立場を教えてください」

「わたしは、この国の主人あるじです」

 意外な展開に、星乃は両手で口を塞いだ。

「お名前を教えてください」
みかどと呼ばれています」

「あなたは、その後、どうされましたか?」
「姫の死を隠す物語を従者にお願いしました」

「その方のお名前は」
「思い出せません」

 神主は退行催眠を解除した。
巫女が暖かいおしぼりを酒田に手渡しする。

「ありがとうございます」

「神主さん、このミステリーのあらすじが見え隠れしていますが、
ーー 生徒たち三人が分かりませんわね」

「朝霧先生、それは、まだ先になるでしょう」



 精霊が呟く。
[サカタ、みかど]

「昼間先生、星乃先生、聞こえましたか?今の声」
「朝霧先生、間違いないわね」

 昼間は、頭の中を整理してパズルを組み合わせている。

双子の姉のかぐや姫が星乃紫ケイ
双子の妹の朝霧美夏みかづき
三日月の従者が昼間夕子みらい
そして、酒田昇ミカドか?

 七人の前世の繋がりと時空の歪みか?
夕子は整理をやめて次の機会を待とうと考えた。



 夕子たちは、酒田をお持ち帰りして、ねぎらいを掛けて四人で東富士見町のスーパーマーケットに入る。

「酒田さん、今日は、ご苦労様です」
「先生、お役に立てましたか?」

「酒田さん、覚えていませんか」
「大きな屋敷を見たような微かな記憶の残存がありました」

「そうですか?不思議ですね」
 夕子たちは、酒田の退行催眠には触れず話題を変えた。

「酒田さん、今日は、私たちのマンションでお酒を飲みましょう」
星乃紫だった。

 酒田が別の棚を探している時に、夕子、美夏、紫の三人は、酒田の今日の出来事を隠すことに決めた。

 レジで会計を済ませた四人はレジ袋を下げ、夕子、紫、美夏のマンションの近くの通路を進む。
「先生も、こっち側ですか、実は、僕もです」

 夕子たち四人は、昼間先生のマンション前で立ち止まる。

「あの、僕もここ住んでいますが」
「酒田さんですか」

「はい、僕の部屋は三階ですが」
「酒田さん、そんな話、初めて聞きましたわよ」

「三日月未来先生、出版担当者は住所までは管理していませんし、
ーー それに別の担当者の仕事ですからね」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

あなたの妻にはなれないのですね

恋愛 / 完結 24h.ポイント:64,682pt お気に入り:472

女子に虐められる僕

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:1,363pt お気に入り:15

【全話まとめ】意味が分かると怖い話【解説付き】

ホラー / 連載中 24h.ポイント:82,303pt お気に入り:648

異種族キャンプで全力スローライフを執行する……予定!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:3,464pt お気に入り:4,744

デッドエンド済み負け犬令嬢、隣国で冒険者にジョブチェンジします

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:462pt お気に入り:224

私が王女です

恋愛 / 完結 24h.ポイント:45,618pt お気に入り:463

悪役令息、主人公に媚びを売る

BL / 連載中 24h.ポイント:1,052pt お気に入り:70

処理中です...