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第四十八話 かぐや姫のお買い物

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 昼間夕子と前世の未来。
朝霧美夏と前世の三日月妹。
星乃紫と前世の三日月姫。
酒田昇と日向黒子は六人の後ろにいた。

 三日月姉妹は、双子である。
その双子の生まれ変わりも同じ顔をしていた。

 朝霧と星乃が同じ顔に気付かなかったのが不思議と夕子は無意識に考えた。
おそらく髪型の性かと思っていたが他人の視線がさっきから気になる。

 夕子は、二階にもう一度行くことに決め、星乃と朝霧に提案した。

「紫、ちょっとヤバイから帽子を買おうと思うの、どうかな」
「そうね、四つ子と双子じゃ怪しいわよね」
 紫が夕子に言うと美夏が星乃に言った。

「紫、私たち他人の空似じゃなかったみたいね」
「女は、髪型と化粧で化けるから分からなかったのよ。
ーー きっと・・・・・・」

 星乃紫の言葉に朝霧美夏が複雑な表情を浮かべている。
前世の三日月妹が美夏を見て微笑んだ。



 酒田と日向を地下に残して、六人は二階の帽子売り場に行った。
かぐや姫である三日月姫と、その妹が帽子を見て驚いている。
前世の未来も同じく驚きを隠せない。

「夕子、これはなんです」
「姫、これは野球の帽子です」

 三日月姫は、野球帽を気に入ったようで、夕子は姫と妹に買い与えることに決める。

「夕子、未来も同じ物が欲しいでござります」
「未来、分かったわ」

 三日月姫は、紫色を選ぶ。
姫の妹は、楓のような色を選んだ。
前世の未来は、緑色を手に取り被って鏡を見て満足している。

 夕子がレジで支払いを済ませて三人に帽子を渡した。
三人は、その場で帽子を被り上機嫌な表情を浮かべている。

「紫、三日月姫は紫色の帽子を選んだわよ」
「本当、私の名前にも因縁があったのね」
と夕子に言いながら紫は、はにかむ。

 前世の帽子三人と生まれ変わりの三人は地下に戻り、酒田と日向と合流した。

「酒田さん、紫色の帽子が三日月姫よ」
星乃が酒田に教えた。

「・・・・・・」
酒田は三日月姉妹の帽子を見て困惑している。

「酒田、そんな顔すると女性に失礼よ」
「昼間先生、つい・・・・・・」

「ついか、酒田さんと日向は、食品を探して、野沢菜漬けがいいわね」
「私たちは日本酒を探しているわね」

「日本って、なんじゃ、夕子」
「今はね、日本と呼ぶの。
ーー 昔は、ヒノモトかヤマトね」

「夕子、ヤマトなら分かる」
「じゃあ、ヤマトのお酒ということね」

 三日月姫は店員が試飲に差し出したお酒をじっと見ていた。
前世の未来がお毒味をして、姫に渡した。

「未来、これは美味しい」
「姫さま、未来も嬉しくござります」

 店員は、三日月姫の雪のような真っ白い手を見て言った。
「白雪姫のように真っ白な手を初めて見ました」
星乃が慌てて店員の前に行き、試飲を頂き会話を遮る。

 夕子もまずいと思い買い物を早く済ませることにした。

「星乃先生、朝霧先生、ちょっと多くない」
「昼間先生、酒田さんと日向がいるから大丈夫よ」
 夕子は朝霧の言葉を信じることにした。

 食品売り場の会計は、いつも通り割り勘で済ませてスーパーマーケットをあとにする。



 昼間夕子の部屋に到着すると零と神主が出迎えてくれた。
零が沢山の買い物袋を見て驚いていた。

 夕子、美夏、紫、黒子、酒田の五人は夕子の部屋のキッチン台に買い物袋を置いた。
美夏と紫がお酒を冷蔵庫に入れ準備を始める。
三日月姫は夕子の袖を引っ張りせがむ。

「夕子の御伽噺を・・・・・・」
 夕子は三日月姫を書斎に連れて行き書棚から紫色のジャケットの本を取り出して三日月姫に渡した。

 三日月姫は本を手にして夕子に言った。
「これは、なに」

「はい、三日月未来の私の本です」
「三日月未来というのか」
「はい、執筆名です」

「この紙は、随分つるつるしておる」
「はい、現世うつしよの流行りです」

「夕子、和紙じゃないが」
「和紙は、高価です」

「左様か、夕子。
ーー この漢字は見たことない。
ーー 文字も見たことない」

 夕子は、竹取物語の時代背景を思い浮かべて、しまったと心の中で呟く。
この文体では、三日月姫が読むことが出来ない。

 夕子は酒田を呼んで古文の文体版が出来ないか相談してみた。

「昼間先生、編集長と相談してみないと分かりません」

 夕子は三日月姫に時間を頂きたいと伝えた。



 しばらくして、大きなダイニングテーブルには、四人の前世者と四人の生まれ変わり、酒田と神主がいた。

 玄関側に近い壁際から順に、前世の三日月妹、日向黒子、前世の未来の三人。
その対面に、朝霧美夏、前世の未来の妹の零、昼間夕子が並ぶ。
朝霧と三日月妹の間に、酒田と神主の二人。
昼間と未来の間に星乃とかぐや姫である三日月姫が並ぶ。

 時計回りなら、三人、二人、三人、二人の順に席に着いていた。

 神主は三日月姫を見て興奮気味だった。
御伽噺のお姫様が自分の対面の席にいるのだから。
神主は、女神に許可を取らぬでいいのかと、ふと考えた。

 生まれ変わりと血縁のスパイラルが関係ないことを神主は知っている。
「夕子、あの者は誰じゃ?」
「陰陽師の神主さんです」

「陰陽師か。知っておる。
ーー 名前はなんじゃ」

安甲晴明あきのせいめいの子孫の安甲あきのさんですが」
「安甲か・・・・・・」

 三日月姫は、安甲の名前を知らなかった。
夕子は、時代背景のズレを考えた。

 夕子は立ち上がり、美夏と一緒にビールグラスを配り、ビールを注いだ。
前世の三日月姫は初日に見せた驚き顔をしていない。
前世の三日月妹と前世の未来は、香りと色と泡に驚いた。

「未来、これは、ビールと呼ぶ、お酒じゃあ。
ーー ちょっと変わった味じゃが、美味しいから杞憂きゆうじゃ」

 三日月姫の言葉に三日月妹の笑顔が戻った。
「未来、この部屋では、お毒味は不要じゃ・・・・・・」
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