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第四十九話 女神とかぐや姫

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 酒田昇さかたしょうは、会社の編集長と相談していた。
「編集長、三日月未来の小説かぐや姫・・・・・・。
ーー で、ご相談なんですが」

「何をさせたいのかが見えないのだがね」

「現代文を古文形式にしてもらえないでしょうか?」
「字体は、どうする?」

「出来れば、それも・・・・・・」
「読めない本じゃ、売れないがなあ」

「学校の副読本という設定は如何でしょうか」
「副読本か、面白い」

「小冊子くらいの短編にしたらと考えています」

「出版コストが合えばいいが・・・・・・」
「全国の学校に展開すればと・・・・・・」

「酒田君、その営業を誰が出来るかだがね。
ーー 君の意向は分かった。
ーー 上と相談してみよう」

「最悪、自主出版とした場合の見積もりも知りたいのですが」

「酒田君、そこまでする意図を教えてくれないか」

「信じてもらえないかも知りませんが・・・・・・。
ーー がいまして」

「酒田君、大物って誰のことかな」

「口で言ってもなんですから、
ーー 明日、神聖学園前の書店のカフェで如何いかがでしょうか」

「明日か。午後なら大丈夫だ。
ーー 午後二時でどうだ」

「編集長、助かります」



 酒田は会社を出て昼間夕子に連絡を入れた。
「昼間先生、出版の件ですが」
「三日月姫の件ね」

「はい、それで、明日の午後二時に・・・・・・。
ーー 学園前の書店があるカフェで、
ーー うちの編集長と待ち合わせしています」

「酒田、私はどうするのか、さっぱりわからないが」

「はい、三日月姫を連れて来てもらえませんか」

「姫が動くと未来も一緒になるが構わないか。
ーー 神主にも相談して見ないとね」


 夕子は、神主に連絡して意向を確認した。
「カフェは、まずいから、社務所に来なさい」
「私も、安甲あきの神主と同じ考えでした。
ーー じゃ、明日の二時半ごろに
ーー 酒田と編集長を拾って神社に伺います」

 夕子は、酒田に連絡してカフェではなく神社に変更したことを告げる。
「酒田さんと編集長は書店があるビルの玄関前で待っていてください」
「昼間先生、じゃ明日」

 酒田は書店回りも仕事の一環と考えていた。



 翌日の午後二時、夕子は、書店前で酒田と編集長と合流する。
三日月姉妹、未来、零、星乃、朝霧の六人は大型ワゴンタクシーで神社に直行した。

 夕子、酒田、編集長は神社への道を歩いている。
「昼間先生、ご無沙汰してます」
「編集長、お久しぶりです。
ーー もうすぐで神社です」

「昼間先生の、今月もランキングしています」
「編集長、朗報をありがとうございます」

「この道、なんか、ひんやりしますね・・・・・・」

 編集長も霊感があるらしく、違和感を覚えいた。
風も無い晩夏の昼下がりだった。

 神主が言った時空のゆがみを酒田は思い出す。



「編集長、神社に着きました」
三人は鳥居を抜け小さな境内を通り右手にある社務所に到着した。

 巫女みこの花園舞が夕子に気付く。
「昼間先生、みなさんは奥座敷でお待ちしています」

 イラストのある部屋は避けらて手前の部屋になった。
零が嫌ったからだ。



 三人は、巫女みこの後ろに付いて廊下を歩いた。
和室の入り口で、神主が迎える。

 神社の境内からの光がレースカーテン越しに部屋中に溢れていた。

「ここの神主の安甲です」
神主は、編集長に名刺を渡した。

「酒田君の上司の飯塚と申します」
飯塚編集長も神主に名刺を渡した。

 座敷には、三日月姉妹、未来、零の前世組み四人と星乃と朝霧が座っていた。

「みんな、待った」

「未来、その者は誰じゃ・・・・・・」
「私の本を作ってくれている人です」
「そうか、それはいい」

 編集長は、夕子と姫の会話を聞いて直感が閃いた。
「まさか、あなたは・・・・・・」

 安甲神主が飯塚を遮る。
「その先は、言わぬが無難です」

 昼間夕子が、神主に言った。
「もう一度、女神の承認を受けたいと思います。
ーー 時空の歪みを含めて」



 しばらくして、酒田が女神召喚の詠唱えいしょうを唱え始めた。
最初の時と同じく女神は宙に浮いて現れた。

「わらわになんの用じゃ」
「前世の四人ですが」

「そこの姫の件じゃな。
ーー 前にも伝えたが問題はない、
ーー 肉体は魂の容れ物に過ぎない。
ーー かぐや姫がいたいならば好きにすれば良い」

「女神さま、生まれ変わり四人と前世の者四人ですが」
夕子が言った。

「何も変わらないから、杞憂きゆうじゃ」
女神は、そう言って消えて光になった。



 三日月姉妹、未来、飯塚編集長は初めて見る超常現象に驚いていた。

「三日月姫さま、大丈夫でござりますか」
「未来、大丈夫だ」

 飯塚編集長は、腰を抜かして青ざめている。
昼間夕子が飯塚に言った。

「小冊子の副読本の件ですが、一冊あれば助かるのですが」

「昼間先生、今はエイアイで変換可能だから、
ーー 短編くらいなら直ぐにも出来ます」
 飯塚は、神秘体験して態度が軟化していた。

 前世の未来が飯塚に三日月姉妹を紹介した。

「紫色の帽子が三日月姫でござります。
ーー 楓色の帽子が三日月姫の妹でござります。
ーー 私が従者の未来でござります」

 三日月未来の小説を読んでいた飯塚は、直ぐに紹介の内容を理解した。
「じゃあ、三日月姫がかぐや姫でございますか」
「はい、わらわをそう呼ぶ者がいるようでござります」

 飯塚編集長は酒田の手を握り言った。
「酒田君、副読本を緊急出版しよう。
ーー 費用は会社が負担しよう。
ーー 歴史の真実は何にも変えがたい」

 前世の未来が言った。
「あの御伽噺は未来が書きました。
ーー 未来の生まれ変わりは昼間夕子でござります」

 飯塚編集長の中で歴史のパズルが音を立てて繋がり始めた。
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