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第五十一話 運命の出逢い

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「未来、そんな怒らなくても大丈夫よ」
「夕子、本当でござりますか?」

「未来に嘘をつくことわないわ」

 未来と夕子の会話を聞いていた三日月姫が未来に告げた。

「わらわが気にすることは、ないわ、未来。
ーー 夕子たちを叱らないで」

「姫が仰るなら、未来は従うだけでござります」

 昼間夕子は、三日月姫に尋ねた。

「三日月姫、今夜は何になさいますか?」

「わらわは、新潟の地酒とやらが気に入っておる」

 星乃紫が地酒を手に取り三日月姫に言った。

「三日月姫、これは如何でしょうか?」

 三日月姫は、現代語の文字が読めなかったが、自分の生まれ変わりの星乃に微笑みうなずく。

 前世の未来が星乃に言った。

「姫さまは、それで良いとうなずいてござりまする」

 星乃は、新潟の地酒を持ってレジに行く。
酒田も、岩手の地酒を持って星乃の後を追いかけた。



 夕子は、石川か静岡かと地酒を見て迷っている。
朝霧が、静岡を手にしたのを見て、夕子は石川の地酒を手にすることにした。

 零と日向黒子は、お惣菜コーナーに行き、数点を買い物かごに入れた。
三日月姫姉妹と未来が零たち一緒に移動したのを見て、朝霧と夕子もカートと一緒に移動する。

「夕子、これは何かな」
「冷凍餃子です」

「冷凍?」
「はい、凍っています」

「凍る?」
三日月姫は冷凍餃子を手にした。

「わー」
前世の未来も冷凍餃子を手にして声を上げた。

「夕子、これは、何でござりますか」

「冷凍餃子です」

「食べられるのか」
「フライパンで加熱して食べます」

 夕子と未来のやり取りを聞いていた三日月姫が、冷凍餃子を三つ夕子の買い物かごに入れた。

しばらくして、全員がスーパーのレジを済ませ帰路に着く。



 東富士見町上空に轟音ごうおんが届く。

「夕子、あの大きな鳥は何じゃ?」
「三日月姫、あれは旅客機です」
「・・・・・・」

「飛行機と言う乗り物です」
「あれに乗れるのか」

「はい」

 星乃が夕子を遮る。
「三日月姫、あれは、遠くに行く用事がある時だけ利用します」

 三日月姫は、星乃の言葉に納得した。

「わらわは、遠くには行かぬ。
ーー 夕子の傍が気に入っておる」

 前世の未来は用心棒のように周囲を警戒していた。

「三日月姫さま、お疲れは、ござりますか?」
「未来、わらわは、大丈夫じゃ」



 買い出しの行商人のように大きな袋を下げた、昼間夕子、朝霧美夏、星乃紫、酒田昇、日向黒子の五人。
三日月姉妹、未来、零の前世組の四人は手ぶらだった。

チャコールグレーのスラックスにグレーのシャツの酒田が叫んだ。

「みんな、やっと到着した」
「酒田さん、空腹でお買い物は注意ね」
神聖学園の紺色ブレザーにスカートの日向黒子だった。

「いや、面目無い、日向さん」

 三日月姫が帝の生まれ変わりの酒田を見て笑っている。
滅多に笑わない姫が未来の前で笑っていた。



 三日月姫は、夕子が先日買い与え藤色のワンピース姿だった。
姫の妹は鮮やかな原色の水色のワンピースだった。

 未来は、夕子の若草色のワンピースが気に入っていた。
零も黄色のワンピースを、この日も着用していた。

 昼間夕子の部屋に全員が入ると三日月姫がキッチンにやって来た。
「夕子、手伝うことあるか」
未来が三日月姫を止めた。

「姫さま、それは従者の仕事でござります」

「左様か。未来」

「はい、左様でござります」

「ところで、そこの紫色の花は」

「はい、カトレアです」
夕子が答えた。

「夕子、聞いたことのない花じゃ」

「蘭とも呼ばれています」

「蘭か」

 昼間夕子は、三日月姫に提案してみた。

「三日月姫、明日、私や星乃さん、朝霧さんと一緒に、
ーー 私たちの職場の神聖学園に行きませんか」

 三日月姫は、目を輝かせ夕子の提案に頷く。

 未来の静止を三日月妹が遮る。

「わらわも、姉とご一緒したくござります」
 三日月妹も目を輝かせていた。



 翌日、六人は、ワゴンタクシーで神聖学園に向かった。

 さすがに、目立ち過ぎるため、文芸部の部室で待ってもらうことにした。
夕子、朝霧、星乃が交代で三日月姫の相手をしている。

零は、この日も神社の仕事に出かけた。



 放課後、夢乃真夏ゆめのまなつ夢乃神姫ゆめのしんき白石陽子しらいしようこの三人は昼間に呼ばれ部室に顔を出す。
日向黒子ひなたくろこも一緒だった。

「先生、なんですか?」
真夏が昼間に言った。

「前にも予告したがな、今日はお前たち、
ーー 腰を抜かすなよ」

「先生、私たち高校生ですよ」

「そうか、紹介する」

 部屋の隅から、三日月姫と妹、そして未来が現れた。

「双子の三日月姉妹と従者の未来です」
夢乃真夏が気付く。

「朝霧先生、星乃先生、そして、昼間先生と似ているわ」

「そうだろ、私たちの前世の人間だからな」

「昼間先生、何言ってるの」

「真夏ちゃん、よく見てご覧、そっくりだから」

 夢乃真夏は、言葉を失った。
傍にいた兄の神姫ヒメも、白石も同じだった。



 三日月姉妹と未来が野球帽子を机に置き素顔がはっきり見えた。

「おお、子どもたち、久しぶりじゃな」
三日月妹が真夏、神姫、白石に言った。

「本当ね、ここで帝のお子に出逢えるなど、夢のようね」
前世の未来だった。

三日月姫は、黙っていた。

「そちらの方は?」
白石が尋ねた。

「紫色の帽子を置いた方が三日月姫でござります」
前世の未来が言った。

「三日月姫、聞いたことあるわ。
ーー ああ、三日月未来の小説ね」

 昼間夕子が、鞄から『  』を取り出し三人の生徒に渡す。

日向黒子が部員を見て言った。

「三日月姫が、かぐや姫なのよ」

文芸部の部室に妖精の声が聞こえた。

[三日月姫、かぐや姫・・・・・・]
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