攻略対象達の婚約破棄ミッション!~僕達の婚約者がヤバいんです~

樹林

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Mission Ⅲ 新城奈央は地獄で笑う

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新城奈央の夏休みは地獄の始まりである。



「男のくせに可愛いとか言われて喜ぶなんて!変態よ!」

「そんな事ないよー?僕以外にもいるよっ?蘭子ちゃん、苦しい、苦しいからやめてっ」

「その喋り方も気持ち悪いのよ!」


奈央に危険なプロレス技をかけているのは、婚約者である百目鬼蘭子である。

彼女は繊維メーカーの娘で、有名ブランド『Estrenar』とは切っても切れない間側であり、この婚約も親達が決めたものであったが、奈央はこの婚約者と婚約破棄したい理由が3つあった。


① 蘭子がプロレスオタクである事
② 蘭子がジャージしか着ない事
③ 奈央の全てにイチャモンをつけるのが趣味である事


同じ学園の1つ上の蘭子は奈央をパシリに使う事も多く、片時もスマホを手放せない日々ではあるが、長期休みのように暴力をふるわれる事はない分、本人にとってはマシであった。





「もうやだよー!蘭子ちゃんの要求が日に日にひどくなってくるんだっ!この間なんかね?スタイナースクリュードライバーとツームステンパイルドライバーの2段構えでやられてねー?死にかけたんだよっ!僕もうしんじゃーーう!」

奈央はクッションを相手にプロレス技の再現をしながら訴えた。

「あのお嬢さんは危険人物度No.1だからな」

「奈央と一緒にいる姿は女王様と犬でしたっけ?」

「お前、能天気そうなのに苦労してんのな」

「そうだよー!苦労してるんだよっ!」

その時、いつものように颯矢がフッと笑ってこう言った。

「蘭子さんの趣味って知ってる?」

「プロレスと格闘技でしょー?」

「それだけじゃないよ、はいこれ」

そう言って鞄から取り出した封筒には、蘭子の意外な趣味を楽しむ様子の写真が大量に入っていた。

「これもね」

颯矢がニコニコ笑いながら渡した報告書を読んで、奈央は大きな目を更に見開いた。それ程に衝撃的だったのである。

「これ、本当ー?」

「映像も音源もあるよ?見てみる?」

奈央は両手を前に突き出して振りながら「ううん!いいっ!いらないっ!」と心から嫌そうに言った。

「僕、こんな子絶対に嫌だよー!婚約破棄したいよー!」

「じゃ、ミッション開始だ」

颯矢の輝かんばかりの笑顔は、奈央を安心させるものであった。








颯矢は奈央を連れてある場所にいた。

そこは、ロリータファッションブランド『メタ☆モリ』。
コンセプトは、どんな乙女へんし~ん☆夢を見せてあ・げ・るというもので、全ての体型に対応しているというロリータ好き、特に体型にコンプレックスのある乙女にとって垂涎の的と言われるショップであった。

蘭子ちゃんがこんな可愛いお洋服を作るなんて信じらんなーい」

奈央の呟きも当然である、彼といる前の蘭子は常にジャージ。しかも、中学ジャージから赤ジャージまで一度として同じジャージを着用している所を見た事がない程のジャージマニアなのである。少なくとも奈央と関係者はそう思っていた。

「こういうのが好きなら僕のデザインも好きだと思うんだけどなー」

奈央は、10代をターゲットにした『Estrenar』の姉妹店である『brillar』のデザイナーをしていた。コンセプトはほんの少しだけ背伸びしてみない?であるが、10代に合う大人可愛さを追求したブランドであるから、ロリータもさりげなく取り入れている。

「彼女の場合は、こういうTHEロリータが好きだから、奈央のブランドでは物足りないんじゃないかな?」

「うーん。そこは課題かもねー?」

「そうだと思うよ」

「でねー?颯矢ぁ。どうして僕はこの格好してるのかそろそろ教えてもらっていーい?」

今の奈央は、甘ロリと呼ばれるワンピースとボレロを着ている。
ピンク色のそれは場所によって長さの違う白いレースがふんだんに使われており、裾に向かって小さな花が広がるスカートの下にはパニエを履いており、フワフワとした妖精のような印象である。
そして、金髪の縦カールのウィッグにワンピースとお揃いのヘッドドレスも相まって、颯矢にメイクをされた奈央は今超のつく美少女に変身していた。

このワンピースとヘッドドレスは颯矢の手作りである。

どこにその才能を使ってるんだよー?と思う奈央であったが、どんなファッションも着こなす自分に満足していた。奈央は『可愛い自分』が大好きなナルシストである故に全くこの格好に抵抗するどころか、新しい世界を知った自分にワクワクしていたのだ。
そんな奈央に颯矢が囁いた。

「来たよ。ほら奈央を見て頬を赤らめてる」

奈央が颯矢が顔をクイッと向けた方向を見ると、自分専用に作ったド派手なロリータファッションに身を包み、原型が分からない程のメイクを施した蘭子がこちらを見ていた。

「さ、行こうか」

まるで執事のように振る舞う颯矢も、髪をきっちりと撫でつけて眼鏡をかけて変装していた。
颯矢は奈央の手を取り、さながら姫と執事のように蘭子のいる方向にゆっくりと歩く。

「段取りはOKだよね?」

「もっちろーん!まっかせてー!」

奈央の耳に顔を近づけて囁く颯矢と、嬉しそうな顔で微笑む奈央は周囲の視線を全て奪う程に美しかった。
当然、蘭子も心の中で「心のアルバムに刻み付けるのよ!」と思っている。

悠然と微笑む颯矢、この世の全ての可愛いを詰め込んだような愛らしさの奈央が蘭子の前にたった。

「このショップのデザイナーの百目鬼蘭子様でいらっしゃいますか?」

蘭子は突然話しかけられて動揺を見せたが、すぐに立ち直り「ええ、そうよ。あなたは誰なの?この私に声をかけるなんて失礼じゃないの?それとも、私に愛されたくて来たの?その男が邪魔だけどね」と言い、チラリと颯矢を見ながら強気に答えた。

その態度に奈央は眉を顰めて颯矢を見る。

「ねえ、どうしましょう?お気付きににもならないなんて・・・」

「そうですね。やはりあなたには相応しくないかと、いえ、我らの生きる世界に見る目のない者は必要ありません」

「どれだけ見た目を変えても僕には分かったよ。蘭子ちゃん」

普段、蘭子にたいして脅えたような表情しか見せない奈央の強気な言い方に蘭子は驚愕した。

「百目鬼蘭子、君のこの店は色々とやっているそうだね」

「えーとー、なんだっけー?」

「1年3ヶ月前に、店の2階に外からでないと入れない部屋ができたんだよね」

「15歳から23歳までの女の子がいっぱいいるよねっ 」

「蘭子さんのハーレムだそうだね」

「でもー、おじさん達からお金もらって女の子達貸すんでしょー?」

「そこの一番の常連は蘭子さんの父親だね」

「今、別の所に男の子集める部屋も作ってるんだよねー!」

「24歳の誕生日を迎えたら、誰にも言わないように肉体に覚えさせてからポイだってね。売られそうになった人もいるとか」

「逃げてきたお姉さんが言ってたよねー!あっ!もうねー色んな所に相談してるから安心してねっ!蘭子ちゃんとお話したいって人がいーっぱい外にいるから入ってもらうねっ」

テンポよく続く2人の会話に口を挟めなかった蘭子だが、奈央の最後の言葉に真っ青になった。

颯矢が蘭子から目を逸らさずに「もういいぞ」と言うと、ショップの扉が開き15人の女性達が入ってきた。
その全員が、真夏なのに長袖のカーディガンを羽織っている。

そして、その中には学園の・・・療養の為に離職した元職員までいた。

蘭子はガクガクと震えながら「どうしてあんた達が」と呟いているが、それを無視して代表らしい元職員女性が口を開いた。

「私達は蘭様の誰にも言ってはいけないという、体に刻まれた約束を守ってまいりましたが、こちらの獅子王様が医師を手配して下さいまして、こうやって蘭様の所へ伺う事が出来ましたのよ」

元職員が嬉しそうに言うと、女性達は一斉に上半身の服を脱ぎさり、蘭子に背中を見せた。
そこには、蘭子がつきた数の夥しい傷跡があった。
獅子王家の協力で少しずつ癒えてはいるが、完全に消える事はないであろう。

「ふふ、この贈り物を蘭様にも刻んで差し上げられるなんて光栄ですわ」

「これからは私達が蘭様を飼って差し上げますね」

「皆で幸せになりましょうね」

「蘭様、楽しみましょうね」

颯矢は確かに女性達の治療を指示した。
蘭子により洗脳されていた女性達の「蘭子の命令に従う」を「命令に従って蘭子を飼い、一生愛し続ける」に上書きしただけ。
そして、それが彼女達の望みであった為、洗脳は簡単だったという。

「さあ、参りましょう」

「もう上の蘭様のお部屋に色々用意してありますのよ」

「このショップの事は心配なさらないで、私が買い取りましたから」

幸せそうに微笑む女性達は、いつもの強気さを忘れてしまったかのように震え続ける蘭子を囲み裏口へと出て行った。

引っ張られて行く蘭子が「獅子王がどうして」「奈央は私の奴隷なのに」と言っていたが、裏口の扉が閉まった今はもう何も聞こえない。

「2階は完全防音だから音は漏れないそうだよ。かなり金額をかけていたそうだしバレる事はないね」

「そうなんだー!あっ婚約破棄の事言うの忘れてたけど大丈夫かなー?」

「それはもう大丈夫だよ。僕の父が今この映像を百目鬼当主に見せてるからね」

「そうなのー?じゃあ!百目鬼のおじ様ー!僕、婚約やめまーすっ!」

奈央の嬉しそうな声がショップ内に響き、奈央の婚約破棄ミッションは終わった。
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