攻略対象達の婚約破棄ミッション!~僕達の婚約者がヤバいんです~

樹林

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Mission Ⅳ 剣崎英司は檻を壊す

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英司は、会う度に菓子と芝居の話しかしない婚約者にうんざりしていた。

「で、あのお芝居は人の心の奥底を引きずり出すのです!」

英司の婚約者───宇佐麗華。

麗華は、父の同僚でもある名門宇佐家の一人娘で、英司は成人と同時に結婚・宇佐家への婿入りが決まっていたが・・・。

彼女の事が気に入らない理由は3つ。

①  運動嫌いと菓子好きのせいで、身長160cmに対し、体重は推定96kg

②  ダイエットの話になると自分より太った女性を比較に出して逃げる

③  観劇に毎月100万円使う


だが、この婚約を断る事は難しかった。
宇佐家は父親の部下とはいえ名門であり、英司は長年彼女の祖父に師事していたのである。

そして、道場で麗華が英司に一目惚れして婚約が決まった。


「あーー!毎回あの国のあの菓子が食いたいだの、あの芝居がみたいだのチケットとれだの、全部自分でやりやがれ!!」

英司は智の家で咆哮を上げていた。

その時、フッと颯矢が笑いこう言った。

「麗華さんには兄がいるって知ってたかな?」

英司は驚いた。麗華からも宇佐家の人間からも「姉妹」だと聞いていたからだ。

「正確には彼女も知らない義兄がいるんだ。当主がまだ高3の時にできた子だよ。当卒業間際に当時の彼女から妊娠を告げられたけど、当主がお金を渡して逃げた。妊娠6ヶ月だった彼女は1人で産んで、子供が12歳の時に亡くなったんだよ」

「マジかよ・・・」

「この話には続きがあってね、息子の名前は実さんって言うんだけど、新開組の舎弟で前科もあるんだよ。もしそれがバレればどうなるか分かるよね?」

英司は愕然とした。

もし、この話が公になれば名門宇佐家は終わる。そして、麗華と結婚する自分の夢も終わりを告げるのである。

警察はその仕事上、家族・親戚も含めて犯罪者や思想者等がいないかどうか身辺調査される。
例え名門であっても、それは変わらない。



「ミッションを開始しよう」


颯矢のその言葉に全員が頷いた。











颯矢は写真を英司に渡した。

宇佐家当主と当時の彼女のツーショット。
子供を産んだばかりの母親と実。
小学校の入学式・卒業式の2人。
施設の集合写真。
そして、新開組の舎弟をしているもの。

「当主にそっくりでしょ」

颯矢の仕事の早さに英司は驚いた。

「こんな写真、どうやって手に入れたんだよ・・・」

「子供の頃のは2人が住んでたハイツの大家から。これ大家が撮ってるんだよ。実さんの母親は天涯孤独で、施設を出てからずっと同じハイツに住んでいてね、大家とは本当の親子のようだったそうだよ」

「じゃあ、捨てた後は一度も彼女達の所を訪ねていないって事か?」

「そういう事」

「最低だな・・・待ってたのかもしれんのに」

「これ報告書ね」

英司は、颯矢に手渡された報告書を食い入るように読んだ。

そこには、彼らがどう暮らしてきたかが書かれていた。

慎ましくはあるが仲の良い親子。
母親はよく働き、息子はよく手伝い、支えあって生きていた様子が分かった。

そんな日常の書かれた報告書の最後のページで英司の手が止まった。


実の中学入学の前日、買い物に行った帰りに男に襲われて母親は即死、実は意識不明の重体。

強盗殺人事件として扱われたが、一週間後に犯人が自首して捜査終了。

実は犯人は自首した男ではないと主張するが、襲われたのが夜であった事、実自身も刺されて重体であった事から黙殺された。

「目撃者はいなかったんですか?」

英司の横で報告書を覗いていた悠斗が問うと、颯矢は紙を1枚渡した。

「目撃者は2人いたよ」

仕事帰りのOLと、そして───。

「宇佐家当主が目撃者・・・?」

「そう」

「おい待て、これどういう事だ!」

「書いてある通りだよ。ちなみにこのOLが当主の愛人だった事も書いてあるよ。」

「そうか・・・颯矢、これ全部貰っていってもいいのか?」

「もちろん。僕の名前も出していいからね。あ、身辺調査した理由は大学卒業後に英司をSPとして雇うつもりだったからとでも言っておいて」

「ありがとう。じゃあ今日は帰るわ」

そう言って英司は智の家を出て、ただひたすらに前を向いて自宅へと帰った。





その日の夜、英司の父親は22時過ぎに帰宅した。

「親父、見てもらいたいものがあるんだ」

「おかえり」すらもなく言った英司だが、父親怒る事もなく了承する。
父親は英司の真剣な表情に父親としてだけではなく、警察としての力も必要としていると悟っていた。


父親が着替えと風呂を終え書斎に入ると英司はピシッとした姿勢で立っていた。

「待たせたな」と英司の前の椅子に座り着席を促すと、英司は封筒から写真と報告書を出してテーブルに置き「最後まで黙ってきいて下さい」と頭を下げてから席に座り話し始めた。


父親は、1人で子供を産み育てた写真の女性を知っていた。

父親と宇佐家当主もまた幼馴染であり、大学で離れるまでの12年間は部活も同じで、親友といえる程の間柄だったのだ。

そして、この女性はその部活のマネージャーであり、宇佐との付き合いは全校生徒が知っていると言っていい程。そんな女性を金だけ渡して捨てたという事も、強盗に見せかけて殺すという事も・・・宇佐の息子が道を踏み外した原因が警察である事も、信じたくはないが現実だった。

その時、扉の向こうからすすり泣きが聞こえてきた。
英司が扉を開けると、廊下に座り込み泣いている英司の母親の姿があった。

母親と女性は高校のクラスメイトで仲の良い友人関係にあったが、高校を卒業して半年程経った頃に女性と連絡がとれなくなったのだという。

婚約者であった英司の父親を通して宇佐家当主に聞くと、彼女は遠い親戚の幼女になる事が決まり、そこで結婚する為に自分とは別れたと言われた。

そして10数年後、一度だけでも連絡がとりたいと頼むと、数日後に彼女は亡くなっていたと悲痛な顔で言われたそうだ。
母親は亡くなった日を聞き出し、毎月その日に心の中で経を唱え冥福を祈った。
それが今でも続いていただけに母親の焦燥は激しく「この婚約はなかった事にして」「あの男を捕まえて」とうわ言のように呟いていた。




翌日、父親は英司を連れて宇佐家を訪れた。

突然の来訪に驚きながらも客間に通した宇佐家当主に報告書のコピーと写真を見せると、真っ青になって土下座をした。

「頼む、頼むから黙っていてくれ。親友だろう!大体、今更なんなんだ。あいつが俺そっくりのガキを産むのが悪いんだ!殺すのは当然だろう、な?」

叫ぶように言う宇佐家当主を英司は嫌悪した。

「お前が彼女を殺害した時点で友人関係は終わっている。今のお前は私と妻の大切な友人を殺した殺人犯だ。ああそうだ、この会話は聞かれているから逃げる事はできんぞ」

それとほぼ同時に10人以上の警察官が宇佐家になだれ込み、宇佐家当主は連行された。

困惑する宇佐家の者たちに事情を説明し、婚約破棄も申し付けて外にでると颯矢が立っていた。

「僕も関係者だからね」

そう言って、英司の肩に手を置き「頑張ったな」とポツリと言った。
英司はその言葉に返事を返す事なく、部下達に指示をだす父親の大きな背中を見つめ続けていた。


半月後、家の前に実が立っていた。

英司が声をかけると、実は「ありがとうございました」と頭を下げ、一回りも上の年齢の男に頭を下げられた英司は動揺した。

家に上がる事を固辞した実と共に、近所の公園へと無言で向かった。
公園に着きベンチに座ると、実がポツポツと彼女の話を始め、英司と颯矢のした事が心の中で叫び続けていた12歳の実を救ってくれたおかげで組を抜ける事もできたと清々しい表情で言われ、英司は涙を零した。

「俺は・・・何もできていないっす。ただ親父に話しただけです」

英司が言うと、実は「君のおかげで警察をまた信じられるようになったんだから大手柄だよ」と笑った。
その言葉に英司は「自分では何もしていない」という思いが少しずつ消えて行った。

実が去り際に「俺の中の俺を檻から出してくれてありがとう」と言った時の笑顔を英司は一生忘れない。

その翌日、実から教えてもらったハイツへと足を向けた英司は、今は空き地になっているそこで花を手向けている1人の少女に出会った。

大家の孫だというその少女は英司より1つ年上。

「ここに仲の良いお母さんと息子さんが住んでたっておばあちゃんによく聞いてて。
聞きすぎたせいで会った事もないのに私までその親子の事が大好きになったんですよ。
お母さんは亡くなったって聞いたんですけど、お墓の場所が分からないから、毎月ここに来てるんです」

と笑う少女に英司は言った。

「俺の母親が彼女の高校時代の友人なんだが、同じように墓の場所が分からなくて困ってるんだ。
だから迷惑じゃなければ母親にこの場所と君の事を話してもいいか?一緒に彼女の事を思ってくれる人がいたら嬉しいと思うんだ」

少女は快諾し、翌月から母親と待ち合わせて花を手向けている。


こうして、英司の婚約破棄は終わった。






───この少女が英司の妻になるのは10年後。
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