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接待と洗脳

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檻に入れられた生活は案外快適で、リス自身逃げなくてもいいかも、と思い始めていた。

お菓子はたくさん出されるし、話し相手はいるし、何よりフワッフワのベッドがあるし、たまに誰かに尻尾をもふもふされてる気配はあるのだけど、それ以外は不審なことはない。

あの男の人は暇なのか、毎日様子を見にくる。毎日、新作のお菓子を味見させてくれて、話し相手になってくれて、外にいる怖い動物や、魔物の話をしてくれる。お母さんに昔聞いた御伽噺のような物語はとても面白い。

魔王城の周辺の話も聞いた。魔王城を出て右にずっと行くとキツネの獣人の集落があるらしい。危ないから右には行くなよ、と言われた。リスにとってキツネは天敵だもの。行かないよ。

また魔王城の左手には、猫の集落もあるらしい。危ないからこれも行かない。

まっすぐは何があるのだろう。
人間の集落か…捕まると、奴隷にされるらしいから行かない。

リスは、この時、魔王城の外にはもう出られないな、と思った。それこそが、魔王の思う壺なのに。

魔王は、キツネも猫も、人間の集落さえどこにあるか知らない。

物凄くまっすぐ行けば、たどり着けるのではないか、と言うざっくりした推測だったが、リスは信じたから、良しとした。

それにしても、本当に危機管理がなっていない。あんなに人の言うことを何でも信じて、この先大丈夫なのか?
あれでも一応独り立ちしなければいけない年頃だろう。

やっぱり一人にするのはまだ早いな、と魔王は考えていた。
昔もっと彼女が幼い頃、魔王がまだ少年で魔王の称号を持たなかった頃、魔王城に迷い込んだリスを助けたのは、ここにいる魔王であった。

あの時も、こちらが悪意を持っているか、わからぬうちに、帰り道を素直に聞いていた。勿論、意地悪はせず、きちんと帰したが。

野生のリスの獣人として、警戒心とかちゃんと持ち合わせていないと、いつか騙されて、陥れられてしまう。

後、野生のリスなのに、頬袋を全く使っていない。リスの可愛さなぞ、頬袋に集約してあると言っても過言ではない。

リスであることを言い聞かせるために、洗脳でもしてやればいいのだろうか。

アホなリスに引っ張られるかのように、魔王もまた単純な思考に落ち着いていく。

リスは魔王を恐れるあまり、男が何を言っても、男自身が魔王であることを認めない。威厳がないのか。らしくないと、あしらわれている。では男は何にみえるのだろう。恐る恐る尋ねると、
「お菓子屋さん?」

「違う。」魔王の不機嫌そうな声が魔王城に響いた。



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