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期待通り

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魔王と名乗る男に捕まって何日経ったろう。毎日食べては寝てを繰り返していると、日にちの感覚はなくなる。

あの男は自分のことを、魔王だと思わせたいみたいだから、そこは、尊重するフリをして、油断を誘おうと思う。

なんせ、たぶんここらで有名な菓子職人なのだ。身柄を狙われているのか、身分を隠したいのだ。

リスは、あの男を魔王と言う名前だと言うことにした。


リスは最近、息苦しさを感じていた。何故か空気が薄い。本物の魔王様が何かしたのだろうか。お菓子は知らぬ間に補充され、やっぱり美味しい。

いつもの男の人が来たので、聞いてみたが、魔王様は何もしていないと言う。
貴方じゃなくて、本物の方よ?

「じゃあ何でこんなに苦しいの?」
「どこが苦しいんだ?」
「…お腹?」
「……」
「あと胸かな。」
「…凄くいいにくいけど、それお菓子の食い過ぎだと思う。」




………………はあ?

やっぱり、偽物は本物が何をしたかは、わからないってことね。

それにしても、失礼ね。食べ過ぎなんて。とても、女の子に言う言葉じゃないわ。


リスの反応に魔王は苦笑する。やっぱり自覚はなかったか。捕まえてから何日経っていると思ってるんだ。2週間毎日食っちゃ寝したら、元々体の小さいリスなのだから、太るに決まっているだろう。

まぁ、逃げなくするために太らせたのもあるが、ちょっと太らせすぎたか。
病気で死んだら困るし、痩せさせるか。

運動させるしかないか。
あと、お菓子を少し減らそう。

魔王の沈黙をどう受け取ったのか、リスは怒り狂っていた。

失礼すぎる!私のどこが太ってるのよ!

ふと、手にお菓子を掴んでいることに気づいた。そういえば、朝からずっとここにいる。そして、食べてる。

これか。これのことか。

「お前、家ではどう過ごしてたんだ?」
もう、覚えていない。どうしてただろう?

お菓子は、こんなに与えられてなかった。あと、割と動いてた気がする。


でもそれを正直に告白すると、走らされたりするのでは?

どうしよう。

「覚えてないのか。」

リスが話さないので、仕方ない、と言った様子で、魔王は居なくなって、そのうち戻ってきた。

とんでもない大きさの、あるものを持って。

あるものとは、回し車だった。

これ、家の前の公園にあった!
凄く人気で、列に並んでたけど、希望人数が多くて、結局できるまで、5日ぐらいかかった、あの回し車!

リスは、羨望の眼差しで、魔王を見る。

これ、いくらぐらいするの?
お菓子職人って儲かるのね。

たしかに、これならすぐ痩せられる!
楽しく痩せなくちゃ、美味しいお菓子もお腹が空いている方が、より美味しく感じるものね。






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