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第三章 巻き込まれる
兄
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アンネちゃんを召喚してしまった時からずっとアンネちゃんの家族に申し訳なく思っていた。大切なお嬢さんを勝手に見ず知らずの俺たちが強引に連れてきてしまったのだから、と。
しかし、アンネちゃんが言うには、娘に対して特別可愛いと言う気持ちは持っていなくて、ただ政略結婚の駒として扱うような人だと聞いてから、あれだけ謝りたかったにも関わらず、謝罪を引き伸ばして、責任を負うのを躊躇っていた。
アンネちゃんは相変わらず、お兄さんに会いたくはなさそうだったので、無理はさせずに、新しく来た使用人として、俺と一緒に挨拶をした。
お兄さんは、酷く疲れた顔をしていた。ばあちゃんからの呼び出しで、すぐに来たことや、開口一番、「リーゼは見つかったのですか?」と聞いたことから、彼がアンネちゃんをずっと探していてここまで、憔悴していたことは一目瞭然だった。
ばあちゃんは、俺の背後に隠れていたアンネちゃんの顔色を咄嗟に見て、顔を横に振る。
倒れ込むようにソファに座った、兄のグレイ・リーフは、目を伏せたまま動かない。
「どこに行ってしまったんだ。やっぱりあんな男にリーゼは任せられない、と言ったんだ。王家が守るからと言いながら、全く守れなかったくせに、今度は聖女の後見だと?笑わせる。」
どす黒いオーラが見えそうなぐらい、目が据わっている。
アンネちゃんが言っていたお兄さんの姿とは全く同じように見えない。お兄さんとはあまり仲が良くないと言っていたのに、彼は妹を大切に想って、そのせいで、王子に腹を立てているように見える。
本当に、彼に嘘をついたままでいいのだろうか。彼に見つからないように、後ろのアンネちゃんの様子を見る。アンネちゃんは俯いてしまった。
公爵家の様子を尋ねると、皆死に物狂いで探しているが、成果が出ていないと言う。王家に捜索を頼んだら、そんなことより、新しく来た聖女の後見を、と打診されたらしい。
「そんなこと、だと?」
言ったのは王子ではないらしいが、リーフ公爵家が力を持っていることを忌々しく考えていた他の貴族達からすれば、婚約者のご令嬢を引き摺り下ろし、聖女を操って取り込めば、チャンスはあると考えたのだろう。
聖女の後見を断る意思表示として、あの日の夜会には参加しなかったのだ。
「リーゼを切り捨てるなら、王家に仕える筋合いはない。リーゼを探してくださらないのなら、私達リーフ公爵家は、王家を支持しない。」
そう、伝えたと言う。
中々過激だが、大丈夫なのだろう。
「リーゼが見つかって、もし王子の元へ帰りたくないと言ったらどうする?」
ばあちゃんが聞いてくれる。
俺もアンネちゃんもそれが聞きたい。
「あんな男に返してやるものか。リーゼが王子の元へ帰りたいならともかく帰りたくないなら、公爵家にずっといれば良い。リーゼ一人ぐらい養える。行きたいところがあれば、応援する。正直、生きていてくれさえすれば、いいのです。あの子は昔から我慢ばかりしていたので、もし両親が文句を言っても、私が何とかします。」
「だって。どうする?」
アンネちゃんにしか聞こえないぐらいの小さい声で尋ねると、泣きそうな顔で見上げる。
「話、してみる?」
アンネちゃんはまだ迷っていたみたいだった。
「もし、話してみてそれでも無理だったら、一緒に逃げよう。」
そう言うと、漸く決心がついたみたいだ。
ばあちゃんに頷くと、彼の元へ手を繋いで連れて行く。
「お兄様、黙っていて申し訳ございません。アンネリーゼです。ただいま戻りました。」
繋いだ手を外して、綺麗なカーテシーをするアンネちゃんはお兄さんによって強く抱きしめられたため、まっすぐに立ってはいられなかった。
感動の再会が終わると、お兄さんに何故か睨まれている。ああ、さっき手を繋いでいたからかな。これは土下座した方が良いのか?
しかし、アンネちゃんが言うには、娘に対して特別可愛いと言う気持ちは持っていなくて、ただ政略結婚の駒として扱うような人だと聞いてから、あれだけ謝りたかったにも関わらず、謝罪を引き伸ばして、責任を負うのを躊躇っていた。
アンネちゃんは相変わらず、お兄さんに会いたくはなさそうだったので、無理はさせずに、新しく来た使用人として、俺と一緒に挨拶をした。
お兄さんは、酷く疲れた顔をしていた。ばあちゃんからの呼び出しで、すぐに来たことや、開口一番、「リーゼは見つかったのですか?」と聞いたことから、彼がアンネちゃんをずっと探していてここまで、憔悴していたことは一目瞭然だった。
ばあちゃんは、俺の背後に隠れていたアンネちゃんの顔色を咄嗟に見て、顔を横に振る。
倒れ込むようにソファに座った、兄のグレイ・リーフは、目を伏せたまま動かない。
「どこに行ってしまったんだ。やっぱりあんな男にリーゼは任せられない、と言ったんだ。王家が守るからと言いながら、全く守れなかったくせに、今度は聖女の後見だと?笑わせる。」
どす黒いオーラが見えそうなぐらい、目が据わっている。
アンネちゃんが言っていたお兄さんの姿とは全く同じように見えない。お兄さんとはあまり仲が良くないと言っていたのに、彼は妹を大切に想って、そのせいで、王子に腹を立てているように見える。
本当に、彼に嘘をついたままでいいのだろうか。彼に見つからないように、後ろのアンネちゃんの様子を見る。アンネちゃんは俯いてしまった。
公爵家の様子を尋ねると、皆死に物狂いで探しているが、成果が出ていないと言う。王家に捜索を頼んだら、そんなことより、新しく来た聖女の後見を、と打診されたらしい。
「そんなこと、だと?」
言ったのは王子ではないらしいが、リーフ公爵家が力を持っていることを忌々しく考えていた他の貴族達からすれば、婚約者のご令嬢を引き摺り下ろし、聖女を操って取り込めば、チャンスはあると考えたのだろう。
聖女の後見を断る意思表示として、あの日の夜会には参加しなかったのだ。
「リーゼを切り捨てるなら、王家に仕える筋合いはない。リーゼを探してくださらないのなら、私達リーフ公爵家は、王家を支持しない。」
そう、伝えたと言う。
中々過激だが、大丈夫なのだろう。
「リーゼが見つかって、もし王子の元へ帰りたくないと言ったらどうする?」
ばあちゃんが聞いてくれる。
俺もアンネちゃんもそれが聞きたい。
「あんな男に返してやるものか。リーゼが王子の元へ帰りたいならともかく帰りたくないなら、公爵家にずっといれば良い。リーゼ一人ぐらい養える。行きたいところがあれば、応援する。正直、生きていてくれさえすれば、いいのです。あの子は昔から我慢ばかりしていたので、もし両親が文句を言っても、私が何とかします。」
「だって。どうする?」
アンネちゃんにしか聞こえないぐらいの小さい声で尋ねると、泣きそうな顔で見上げる。
「話、してみる?」
アンネちゃんはまだ迷っていたみたいだった。
「もし、話してみてそれでも無理だったら、一緒に逃げよう。」
そう言うと、漸く決心がついたみたいだ。
ばあちゃんに頷くと、彼の元へ手を繋いで連れて行く。
「お兄様、黙っていて申し訳ございません。アンネリーゼです。ただいま戻りました。」
繋いだ手を外して、綺麗なカーテシーをするアンネちゃんはお兄さんによって強く抱きしめられたため、まっすぐに立ってはいられなかった。
感動の再会が終わると、お兄さんに何故か睨まれている。ああ、さっき手を繋いでいたからかな。これは土下座した方が良いのか?
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