そう言うと思ってた

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公爵領は潤った

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公爵夫人の誤算があるとすれば、それは夫との間の一人息子が愛しい夫ではなくその愚弟に似てしまったことだけだ。愛する我が子が忌々しい嘗ての元婚約者に似ているなんて、何の因果だろう。

とはいえ、叔父と甥が似るなんてよくあることだ。納得はしているものの、我が子を愛しいと思う気持ちは、年々薄れていった。

義父母がしたように、夫人にできるのは、優秀なご令嬢を婚約者に据え、息子ではなく公爵領を守ってくれるように願うだけ。そうして選ばれたのがカリナだった。

カリナに息子の婚約者になって、と言ったものの、愛してくれとは言えなかった。親である自分ができないことを他人に背負わせることはできない。

夫人は子にそれでも精一杯の愛情は与えたつもりだが、だからこそ息子が公爵を継ぐことが想像も出来なかった。

夫人は遠い親戚に優秀な子がいないか探した。夫に似て誠実で優秀な人間が、どこかにいるはずだ、と根気よく探し、奇跡的にたった一人だけ夫に似た青年を探し出したのだった。

彼は伯爵家の三男で、継ぐものがないからか婚約者はいなかった。歳はアランより四歳上で父親の後を継いだ長兄を支えて領地経営の補佐をしていた。

遠い親戚だからか、夫に似た雰囲気の彼は、夫人が是非産みたかった理想の息子像と似ていた。

全く可愛いと思えない、憎い男に似た我が子と、愛する夫に似た優秀な親戚の青年。どちらが公爵家の為になるか、など考えるまでもない。


彼をいつかは養子にすることを夢見て、それでも我が子に情けをかけて、見守る選択をしていた夫人だが、親の心は子には伝わっていなかった。

成長したアナスタシアは、母親ではなく、父親に似た性格に育った。あの王女に似ていればまだ幸せになれる可能性があったのに、自分勝手な父親に似てしまったばかりに、第三王子に囲われる羽目になった。

男爵はアナスタシアを盾に、自分が傷物にした王女の祖国を唆した。結果、彼女に溺れていたアランに目をつけられ、息子ごと同盟国に取り込まれるところだった。

回避できたのは第三王子を動かしたカリナと、親戚の青年トラヴィスである。




息子は自分が何もしていないのに、公爵領が潤っているのを当然のことだと思っている。頭は悪くないはずなのに、考えることができていないのは、誰かがやってくれて当然、と言う傲慢な考えが身に染み付いているから。

カリナやトラヴィスは違う。自分が知らないことは誰も手をつけていないことという考えだから、何か知らないことが起きれば、誰よりも早く調べに行く。

人に聞いたところで、その人が問題を理解しているか、本当のことを言うかはわからないからだ。



公爵家はこういう経緯から、一人息子を後継者に決めることは諦めた。トラヴィスを養子にして、カリナと婚約させることで、公爵家は次代も成り立っていく。

そこにアランは必要ないのだから、親として彼の居場所を探してやるつもりだった。
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