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公爵令息は引き寄せられる
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馬車が急に止まったことで投げ出され、バランスを崩したアランは不機嫌さを隠そうともせずに、窓から外を見た。馭者が言うには誰かが飛び出したと言う。
この辺りに野盗が出るとは聞いていないが人気のない場所だから、小さな規模の野盗はいるのかもしれない、と緊張が体に走る。
「女性が……どうしますか?」
飛び出したのは女性で、助けを求めているらしくアランは急がねばならないと言うのに、彼女の口にした名前に引き寄せられた。
彼女は「アナスタシア」と確かに口にした。
「アナスタシア?それは、」
あのアナスタシアか?別のアナスタシアか?
彼女は続けてこう言った。
「アナスタシア様は近々、責任を押し付けられて処刑されてしまいます。どうか助けて下さい。」
アランは自分が公爵家に帰らねばならないことや、急がされていることを全て忘れて、彼女の話に聞き入った。
カリナとアナスタシアを天秤にかけたつもりもないのだが、未だにカリナなら許してくれると思い込んでいたのか、アランは深く考えずに突き進んでいった。
「アナスタシアは、第三王子と一緒にいるのではないか?」
女性はアランがアナスタシアの名前を出したことに怪訝な顔をして、そのことは誰にも公表されていないことを告げた。
第三王子の婚約者は確かにまだ発表されていないものの、アランはアナスタシアからの手紙で知っていた為に口にしたのだが、それが女性にはアナスタシアを害す側の人間だと思わせたようだった。
アランは本当に言うつもりはなかったのだが、彼女を安心させ続きを聞き出そうと、アナスタシアの元友人だと告げた。証拠を出すように言われたら、と以前お揃いで買った装飾品を出せば、見覚えのあるものなのか女性は一旦信じてくれた。
「それで彼女はどうなるんだ?」
何がどうなって処刑になるのかと問えば、ハラハラと涙を流し、アナスタシアが嵌められたのだと女性は言った。
「処刑は三日後です。彼の方はそれまで部屋に閉じ込められています。貴方を信じて話すのですが、この鍵を使って彼女を助けていただけませんか?身代わりはこちらで用意しますので、心配いりません。保険のために、貴方の名前は聞かないことにします。」
アランの名前を知らなければ、捕まって自白剤を飲まされたところで見つかることはない。
アランはアナスタシアに会う前は、頭は悪い方ではなかったが、妙な正義感による思考力の低下は度々起こっていた。こんな怪しげな申し出をすんなり信じてしまうぐらいには。アランは言われた通りに女性の言う鍵を預かって、馭者と別れ、女性の指示通りに、ある場所までのこのこと出向いていく。
女性は逃げるための服や逃走経路を説明し、アランを促した。アランはあまりの手際の良さに感心し、こんなに完璧に準備が整っているならどうして、あんなに必死にアランを呼びにきたのか不思議に思った。
あの時は気がつかなかったが、色々おかしくはないか?
アランは女性のすぐ後ろを歩きながら、この女性について行って本当に正しいのかわからなくなって来た。
偶々助けを呼んだ人間が偶々助ける側の知り合いで、偶々逃走準備ができている、なんて起こり得るのだろうか。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。」
先に先に歩いて行く女性の背中に声をかけるも間に合わず、彼は促されるままに部屋に足を踏み入れると、ああやっぱり、これは罠だったのだと思い至った。
「これはこれはご機嫌よう。久しぶりだね。アラン。」
アランを待っていたのはアナスタシアでなく、第三王子ヴィクトール、その人だった。
この辺りに野盗が出るとは聞いていないが人気のない場所だから、小さな規模の野盗はいるのかもしれない、と緊張が体に走る。
「女性が……どうしますか?」
飛び出したのは女性で、助けを求めているらしくアランは急がねばならないと言うのに、彼女の口にした名前に引き寄せられた。
彼女は「アナスタシア」と確かに口にした。
「アナスタシア?それは、」
あのアナスタシアか?別のアナスタシアか?
彼女は続けてこう言った。
「アナスタシア様は近々、責任を押し付けられて処刑されてしまいます。どうか助けて下さい。」
アランは自分が公爵家に帰らねばならないことや、急がされていることを全て忘れて、彼女の話に聞き入った。
カリナとアナスタシアを天秤にかけたつもりもないのだが、未だにカリナなら許してくれると思い込んでいたのか、アランは深く考えずに突き進んでいった。
「アナスタシアは、第三王子と一緒にいるのではないか?」
女性はアランがアナスタシアの名前を出したことに怪訝な顔をして、そのことは誰にも公表されていないことを告げた。
第三王子の婚約者は確かにまだ発表されていないものの、アランはアナスタシアからの手紙で知っていた為に口にしたのだが、それが女性にはアナスタシアを害す側の人間だと思わせたようだった。
アランは本当に言うつもりはなかったのだが、彼女を安心させ続きを聞き出そうと、アナスタシアの元友人だと告げた。証拠を出すように言われたら、と以前お揃いで買った装飾品を出せば、見覚えのあるものなのか女性は一旦信じてくれた。
「それで彼女はどうなるんだ?」
何がどうなって処刑になるのかと問えば、ハラハラと涙を流し、アナスタシアが嵌められたのだと女性は言った。
「処刑は三日後です。彼の方はそれまで部屋に閉じ込められています。貴方を信じて話すのですが、この鍵を使って彼女を助けていただけませんか?身代わりはこちらで用意しますので、心配いりません。保険のために、貴方の名前は聞かないことにします。」
アランの名前を知らなければ、捕まって自白剤を飲まされたところで見つかることはない。
アランはアナスタシアに会う前は、頭は悪い方ではなかったが、妙な正義感による思考力の低下は度々起こっていた。こんな怪しげな申し出をすんなり信じてしまうぐらいには。アランは言われた通りに女性の言う鍵を預かって、馭者と別れ、女性の指示通りに、ある場所までのこのこと出向いていく。
女性は逃げるための服や逃走経路を説明し、アランを促した。アランはあまりの手際の良さに感心し、こんなに完璧に準備が整っているならどうして、あんなに必死にアランを呼びにきたのか不思議に思った。
あの時は気がつかなかったが、色々おかしくはないか?
アランは女性のすぐ後ろを歩きながら、この女性について行って本当に正しいのかわからなくなって来た。
偶々助けを呼んだ人間が偶々助ける側の知り合いで、偶々逃走準備ができている、なんて起こり得るのだろうか。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。」
先に先に歩いて行く女性の背中に声をかけるも間に合わず、彼は促されるままに部屋に足を踏み入れると、ああやっぱり、これは罠だったのだと思い至った。
「これはこれはご機嫌よう。久しぶりだね。アラン。」
アランを待っていたのはアナスタシアでなく、第三王子ヴィクトール、その人だった。
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