そう言うと思ってた

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公爵令息は頷く

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アナスタシアが自分から離れて第三王子を選んだ時にすぐに引き下がったのは、アランがヴィクトールに目をつけられたくなかったから、と言うのが正しい。

アランは一応親戚でもある彼が酷く苦手だった。第一王子や第二王子はまだアランに対して少しは優しい顔を見せてくれるのだが、第三王子だけは真の姿を隠しきれない様子で、アランの弱い部分を抉ろうとしてくるからだ。

最近では自分に絡んでくることはなくても、カリナの周りをウロチョロしたり、今ではアナスタシアを自分から取り上げたりした。

アナスタシアに興味を持ったのだって元はといえばこうして二人一緒に企みに巻き込む気だったからに違いない。

アランは今更ながらに、バカなことをしたと反省した。きっと自分を捨てた女になど情けをかけずに予定通りに公爵家に帰っていればこんな場に巻き込まれることなく済んだのに。

「私に何か用ですか。」
「いや、君には用はないよ。」

恐ろしい笑みを浮かべながらアランの名を呼んだのに、ヴィクトールはアランに用はないと言う。

ならば何故アランはこの場に呼ばれているのか。

「誰かを誘き寄せたい、と?」
「そうだね。なら誰を誘き寄せたいかもわかるかな?ヒントは我が国の者ではない、とだけ言っておこうかな。」

アランの返事などは気にせずにヴィクトールは独り言を垂れ流す。こちらが理解していようがいまいが、彼の思考は止められない。だが、その独り言とやらは、どうでも良い話などではなく、死に物狂いで何が何でも理解しなければ自らの首を絞めかねない内容だったりするからタチが悪い。

「君は自分の母親が誰の婚約者であったか知っている?今の公爵の前に婚約していた男さ。ああ、叔父だとはきいているんだね?じゃあ、その男が今どこでどんな風に生きているかは知っている?公爵家を除籍になってからは知らないか。

君のご両親は君に話さなかったのかな。まあ、君とは直接関係はないものね。

実は君の叔父というのは、今は男爵位を継いでいるんだ。その昔、彼がある大変なことをしでかしたんだけど、その後始末を君の母君が手配して丸く収めてくれたんだよ。

彼女は今のご主人を尊敬していたから、公爵家に迷惑がかからないように手配してくれたんだ。

皆彼女を褒め称えて感謝したんだけど、一人?いや二人かな?問題を起こした君の叔父さんと、もう一人の共犯者は自分達が何も悪いことをしていないのに、母君のせいで酷い目に遭った、と恨んだ。

詳しくは省くけれど、君の叔父さんは公爵家に肖像画は残っているかい?」

アランは自分の顔によく似た男の肖像画を見つけた時のことが頭に過ぎった。

「君の叔父さんは見た目は君と同じでまあいい方ではあるけれど、頭の方も君と同じで少し弱かった。だからね、男爵位でも貴族だから、他国に我が国の情報を売れば、国家反逆罪に問われることすら気がつかない。君にはね、最初は囮になって貰って一緒に死んでもらおうかと思っていたんだ。だけど、嫌がられたからね、普通に。それで、一度だけなら許してあげようと思ったんだよ。」

アランは突然の彼の告白に、冗談ぽく話しているものの、少しだけ周りに悪寒を感じる。やはり最初の段階ではアランごと、処分する手筈だったようだ。

「その男爵とやらを捕まえれば私は許してもらえる、と?」

「ああ。そう言うことだ。だが、君の元恋人はダメだ。彼女には役割があって、残念だけど父親共々、責任をとってもらわなくてはならないんだ。」

多分これを了承しなければ、アランは躊躇なくこの男に殺される。そうなれば我が公爵家も一緒に責任を取らなくてはならない。これは流石にカリナは許してくれないだろう、とアランはアナスタシアを切り捨てる決断を受け入れた。
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