私が殺した筈の女

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この世界は誰のもの

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自分の身体を好きに使おうとする悪霊に、身体の持ち主である女は表面上は抵抗しなかった。現状、目的地へ連れて行って貰うまでは、彼女に逆らうのは得策ではない。だって、彼らの住む家をそもそも女は知らない。

女は、名前をマリーと言い、元は平民だった。貴族家でメイドをしていた折、屋敷のお嬢様に目をつけられて酷い虐めにあっていたところを、お嬢様の婚約者に助け出された。お嬢様の婚約者とは何もなかったけれど、そのことがきっかけで職は失い、他家への再雇用も絶望的になった。虐めの事実は伏せられ、仕えていた家のご令嬢の婚約者に色目を使う泥棒猫だと、言いふらされたからだ。

事実はどうあれ、反対する術を持たないマリーにはどうすることもできなかった。変わり者の第三王子が、マリーに興味を示すまでは。

彼の愛人になってからは、マリーの世界は変わった。彼の愛人の多くは皆訳ありで彼とは結婚できない事情があった。皆同じ立場でありながら、誰一人それを不満に思うことはない。ただ、いつ彼が妻を迎えて、お払い箱にされるのか、そればかりが気がかりだった。

彼自身が本当の意味で恋をしたことがない、というのも大きかった。だからこそ、愛人を複数作れたし、だからこそ皆を均等に愛することが出来たのだ。


マリーは概ね幸せだった。悪霊が来て、彼の運命の相手とやらを彼に見せるまでは。

彼女にはどこかで会ったような気がしていて、マリーは胸騒ぎに襲われていた。何となく、近づきたくないようなそんな気持ち。彼を彼女に会わせようとしている悪霊とは反対に、彼らを決して会わせてはならない、と本能的に感じる。

悪霊と彼の話から、運命の彼女には別に愛する人がいると言う。ならば、絶対に彼らが離れないようにすればこちらまで危ない目に遭うことは回避できるのでは?

マリーは、平民だし、特に頭も良くはない。悪霊だって、多分マリーと同じくらいの頭しか持っていなさそうだ。

悪霊には、ローガンとか言う男を与えておけば、女の方はどうでもいいと、マリーにくれるかもしれない。

第三王子に見つかる前に彼女を逃がせることができれば、とマリーは考えてみたが、生きていると判れば彼女を決して諦めないかもしれないと、思い直し、最悪、始末しなければならない、と決意した。

マリーはそうは言っても、人を殺したことはない。ましてや平民が貴族を殺害すれば、処刑が待っている。躊躇うのが普通だ。

「だけど、どちらにしても死ぬんですよね、私。」

神様に救済の世界まで特別に作って貰うことになったマリーは、この先どう頑張っても、死が訪れる。ならば、せめて大好きな人の側で、と願ったのだ。だから、悪霊も受け入れた。マリーには悪あがきしか後がない。

神様を今更恨むこともできなくて、悪霊の暴走に身を委ねた。
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