私が殺した筈の女

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プリシラは夢を見ているような気分だった。目の前に現れた女性を知っている筈はないのに、どこか懐かしいような、だけどどこか恐ろしくもあった。

怖い夢を見た時みたいに精神が不安定で目覚めた時にローガンを求めてしまう。ローガンはあの夜会からプリシラに誰かが近づくのすら恐れているようで、必然的にプリシラと対面するのはローガンだけになっていく。

ローガンはプリシラを拘束こそしなかったが、プリシラを視界の外に出すことを嫌がった。

プリシラはローガンがそばにいる事で随分落ち着いたものの、彼の方は日に日に草臥れていくような状態だ。

彼女は、侍女のような格好で、ローガンに近づくが彼は彼女を認識しない。彼が見ているのは、プリシラだけ。

だが、いつまでもそうしてはいられない。貴族であり続けるには義務を果たさなくてはならない。

彼が仕事で出かける日を見計らって、その女は正体を現した。


見た目はあまり似ていないのに、嫌な偶然もあるものだ。彼女は最期に見たあの嫌な笑顔を浮かべ、またもやプリシラの前に立ちはだかる。


「久しぶりね。私のこと覚えてるわよね?貴女に昔殺されたカリーナよ。一度は邪魔されたけれど、今度こそ私がローガンを手に入れるわ。私、今はこの身体を借りているのだけど、気付いたの。私が貴女の身体を乗っ取れば全てうまく行くんじゃないかしら、って。あんたを愛してる彼はきっと中身が替わっても愛し続けてくれると思うわ。どうかしら。

あ、勿論。貴女のことは追い出すわ。同居にはならないから安心して。

霊体になるとね、長い間、身体から切り離されると、存在が消滅してしまうんですって。私は殺されてから随分たくさんの身体に乗り移って、そのおかげで消滅せずにすんでいるけれど。

だからね。貴女も、私に身体を奪われたらすぐに誰かの身体を借りないと、死んでしまうって訳。私も鬼じゃないんだから貴女にはこの身体をあげるわよ。これ、あんたの運命の男が囲っていた愛人の身体なの。

あんたがローガンを諦めて、あの男の元に行けば、正妻にはなれないけれどまた愛人として愛してくれるかもしれないわよ?」

何がおかしいのかケラケラと笑う女に、プリシラは呑気にも「なるほど、そう言うこともできるのね」と納得していた。



彼女はそう言っているけれど、最初からその身体にいるお嬢さんはそれで良いのだろうか。

彼女の体から悪霊が飛び出した瞬間に、悪霊を除霊してしまえば、彼女の企みはなくなってしまうのだけれど。


プリシラはカリーナを自称する悪霊に、少しは謝罪の意が出るかな、と考えていたけれど、残念なことにその気持ちはないようだった。

プリシラが自分の手で彼女を殺したにも関わらず、あまりにも酷い言い様だとは思うが、霊体になっても人を苦しめてきたからの悪霊なのだろうと容易に想像できてしまい、自分の犯行は棚に上げて呆れてしまった。

自分も彼女の片棒を担いだようなものだと、プリシラは反省したが、それはあくまで彼女の行動に付随する意見であって、自分の行動を振り返って得られたものではない。


どうにかして、カリーナに身体を奪われている女性に意思を確認する方法はないかしら。

プリシラは、カリーナの長い話を聞きながら、彼女を退治する隙を探っていた。
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