私は聖女なんかじゃありません

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聖女の誕生

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朝、目を開けるとアーリオの綺麗な寝顔が目の前にあった。声にならない声を発して、飛び上がりそうになった。
「うん?早いね…おはよう…」
ふわぁああ、と欠伸をしながら、起き上がるアーリオが普段と何も変わらなくて、エミリアは少し落ち込む。

ドキドキしているのは自分だけ。

軽く朝ごはんを食べて、時間までどうやって過ごすかを考える。

あと、あの嫌な王子のことも。

終わったら証明書をもらって、一旦家に帰ろう。その後、王子が来たら証明書を見せて、お帰りいただければいい。

きっと、もうすぐ日常に戻れる。本来楽しみなはずなのに、気分が落ち込むのを止められない。あの王子に聖女でなくても良い、とか言われて付き纏われたらどうしよう。嫌な考えが浮かんで、消えない。何度かため息をついてしまう。

アーリオは、よく眠れたらしく、元気で、大丈夫だと、慰めてくれた。

「今日は司祭様が確認してくれるから、多分大丈夫だよ。間違いはないと思う。」

昨日、申し込みをした時に、神官に言われたのだ。私では扱いきれない案件なので、司祭様が明日来られる時に回します、と。

司祭様は隣国の聖女様にも会われたり、話したりされていて、交流を持たれている。聖女に関することについて、多分この国の誰より詳しいだろう。

平民が聖女、と言う眉唾な話を悪用されては堪らない。実際は聖女ではないのに、そう言い張ることで、本当のことにしてしまおう、とあの王子なら考えかねない。けれど、あの司祭様に証明していただいた、と有れば、司祭様と王子で真っ向から対立することになる。

多分、それを王家は嫌がるだろう。

聖教会に思い入れは特にないものの、あの王子から、エミリアを守ることができるのならば、司祭様でも、悪魔にでも魂を売る覚悟だ。

司祭様を悪魔と同列にすれば、さすがに叱られるだろうが。

とにかく、時間に聖教会の本部を訪れると待合室で待つ。隣の部屋の中で何か重い物が落ちた音が聞こえた。ごん、と言う割と大きな音が。次に、「はあっっ!」と言う小さな悲鳴。

バタバタと人が何人か部屋に出たり入ったりする音が聞こえて、そののち、静かになった。

暫くして、順番が来て、二人で部屋に入る。司祭様が現れて、エミリアに水晶に触るように指示を出す。

エミリアは水晶の近くに行くと、首を傾げた。水晶を置く台が、明るすぎるぐらい光っている。照明が強すぎるのでは?

しかも、この水晶…

エミリアは周りを見渡すと、部屋の隅で俯いている若い巫女を見つけた。

これ、触ったらまずいのでは?

嫌な予感の通り、エミリアが手をかざしただけで、水晶はパックリ割れてしまった。

これは…?

恐る恐る、司祭様の顔を見ると、司祭様の隣の若い神官が、目を大きく見開いてエミリアに跪いた。

「聖女様!」

え、いえ、違います。
私、聖女ではありません。

アーリオは口を開けたまま、立ち尽くしている。

エミリアはまた震えが止まらなくなった。
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