私は聖女なんかじゃありません

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本編 表側

咆哮

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エミリアは少し眠ったことで、元気を取り戻していた。アーリオは安心する。森はまだ続いているし、魔獣やら盗賊やら追っ手やら、考えても仕方ないが、てんこ盛りなのだ。クヨクヨしている時間が勿体ない。

森の奥だから、人がいないのはわかるのだが、さっきから全く魔獣も出ない。魔獣の少ない森ではなかったはずだけど。

え、まさか、聖女の力?なんてな。エミリアが怯えるからやめよう。いや、冗談にしては悪質だな。ごめん、エミリア。

アーリオは決して口には出さず、心の中で完結させて、前を向いた。さっきから、非常に小さいが、魔獣の咆哮が遠くから聞こえていて、それがだんだん近づいてきている気がする。

嫌な感じ。どこまで離れていて、この大きさなのだろう。多分他の魔獣が現れないのは、この咆哮のせいなのではないか。

魔獣が近づく前に森を抜けられたら、と思っていると、遠くに馬車らしきものを発見する。

「エミリア、待って。あれ、何だろう。」
少し前を歩くエミリアを引き止めて、木陰に身を隠す。

女性が、服装は平民だが、振る舞いは貴族っぽい。と言うか、偉そう。

「何で私がこんなことしなきゃいけないわけ?なんなのよ、あの男!ちょっと顔がいいからって、私にこんなことさせるなんて、私が平民の格好なんて、…本当に通るんでしょうね。魔獣が出たらどうするのよ。私は貴族令嬢なのよ?」

護衛はまあまあいそうだけど、あんなに大きな声で叫んでいたら、襲ってくれと言っているようなものだ。

道を変えた方が良いかもしれない。遠回りにはなるけれど、嫌な予感がする。
エミリアに道を変えよう、と言って、音を出さないように注意しながら、森の更に奥の道を通る。魔獣の咆哮からは離れたようだが、新たな緊張は生まれる。

そおっと、足音を立てずに、馬車の近くを通り過ぎる。馬車の中ではずっと口論している声が聞こえていたが、それは突然の悲鳴により、中断した。

「な、何よ、これ。嫌っ!こ、来ないで~!!」

馬車から転げ落ちるように逃げ出した女が、人の気配に気づきこちらに来る。

逃げようとした二人の後ろから、さらなる悲鳴が聞こえて来る。

あと、悪態も。

「あの、悪魔め。私を囮にするなんて。酷いわ。あいつ、次あったら、殺してやる。嫌だ、死にたくない~嫌~!来ないで~!」

周りに魔獣の気配が立ち込める。恐怖が押し寄せる。これが普通なのだ。森の中なのだから。でも、なぜこのタイミングで?

まあ、あれだけ騒いでたら、仕方ないか。今のアーリオには武器は一つだけ。申し訳ないが、エミリアを守るしかできないから、彼女達は助けられないかもしれない。自分はただの平民で、騎士や傭兵ではない。

草の陰に隠れて、状況を見守る。エミリアを背中に隠して、じっとしていると、思わぬ助っ人が現れた。





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