私は聖女なんかじゃありません

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本編 表側

聖獣の力

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聖女が国を離れたと言うことは、わかる人にはわかるらしい。フォルシアに入った時に感じた結界を今は感じることができない、と王族の従者が口にしていた。これにより、聖女を追いかける奴らを撹乱する為に、結界を張るように言われ、エミリアは混乱した。が、すぐに思い出した。自分は聖女でないから難しいが、チロは聖獣だと、イーサンか誰かが言っていた。チロに頼めば、やってくれるかもしれない。

「一応、頼んでは見ますけれど、難しいかもしれません。」念のため、伝えておく。いまだにチロと会話ができるわけではないから。

チロを撫でながら、お願いをしてみる。ここにいた聖女様のために、結界を張ってほしい、と伝えたつもり。ひたすら撫でながら感謝の気持ちも伝えながら。チロが何を考えているか、などは全くわからないままただ要求をする。結界を張ったとしても、エミリアにはそれを知ることができないのだが。

少しして、従者の人が部屋に入ってきた。チロを撫でて、お礼を言っているから、どうやら出来たみたいだ。

エミリアの方をみて、「さすがだな、ありがとう。」と言った。何もしてないけど、感謝は素直に受け取っておく。今まで怖くて目を合わせることすらできなかったけれど、意外にも優しい目をしていた。やはり動物をさわるのは心を癒すのだと感じた。チロを触っていると、気持ち良すぎて、寝てしまうもの。

今は寝るわけには行かないから、起きているけれど。

そういえば、アーリオが寝てる時に髪を触ったりしてくるのは、同じような効果があるのだろうか。アーリオの癒しになれていたら良いなあ、とエミリアは思う。自分がアーリオに癒されているように、同じように思ってくれてたら、幸せなのに、と。

アーリオは所在なげにしていたが、今はソファーに座って本を読んでいる。聖女様が潜伏していた時に読んでいたものだろうか。中にはロマンス小説みたいなのもあって、聖女様はこういうのをお読みになるのね、と微笑ましく思った。

美味しそうな料理本もある。ふいに家族のことが気になってしまう。心配しているだろう。急に出てきてしまったし、手紙も送っていないのだから。それに、家族は大丈夫だろうか。王子に嫌がらせを受けたりしていないだろうか。次から次へと不安が押し寄せる。

気づくと、アーリオの隣に座らせられていた。アーリオの服の袖で顔を拭かれる。涙が出てしまっていたらしい。「もうすぐ帰れるよ。」アーリオに抱きしめられると、涙がまたこぼれてしまった。

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