私は聖女なんかじゃありません

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本編 表側

悪魔との遭遇

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船の中はなるほど、たくさんの人がいるにはいるが、チロを連れているから寄ってくる人はいない。

犬っぽい何かに近づいてくるのは、好奇心旺盛の何も知らない子どもか、逆に全てを知った上で利用してやろう、と思うやつか、その両方か。

悪魔と呼ばれた少年は、もふもふを触りたくて近づいた。殺気を消して、正体がバレる筈なかったのだが、どこからか結界が現れる。身体ごと弾き飛ばされる。
少年は首を傾げる。少年はすでに分裂したあとだと言うのに、どこが人間と違うと言うのだろう。

アーリオとエミリアの目が、少年に釘付けになる。異質のものを見る目。二人は結界の存在すら知らない。

少年は顔を上げると、二人の視線に気付いた。禍々しい空気が少年を取り囲む。
触りたくて仕方がなかったもふもふからも殺気を感じ、少年は悲しくなる。

アーリオがエミリアを隠すように立ちはだかる。少年はそれをただ眺めている。
動かない少年に、そばにいた女性が手を差し伸べてくれた。「ありがとうございます。」そう言って少年は笑った筈なのに、みるみるうちに、女性の顔は歪み、悲鳴をあげた。

今の自分は少年の筈だ。なのに、なぜ?
アーリオと目が合う。
笑いたくないのに、自分の口角が勝手に上がり、狙いを定めたのが、わかった。


アーリオの真後ろの辺りで様子を伺っていたイーサンが、子どもに気づく。森の中で遭遇した時との、あまりにかけ離れた風貌に背筋がゾクゾクする。

まるで人間を辞めたみたい。

第二王子の言いつけだったが、イーサンは囮。他に王子の息のかかった追っ手がいたはずだが、姿は見えない。

あいつは、一体どこで何をしてる?

平民の女性を保護するのが、第二王子からの指令なので、ここで殺されるのは困る。イーサンは今、無性に弱音を吐きたい気分だ。こんなの聞いていないぞ、と。

アーリオの保護は、命令に入っておらず、本来なら捨て置くことも可能。イーサンが騎士として、それができるか、と言われたら否。アーリオは魔力も持っていない普通の平民なのに、彼女を助けようと、異形のものに立ち向かおうとしている。なのに騎士が逃げていいのか?

本当に、今度こそたくさん手当てを貰わないとやってられん。そう考えた先には第一王子の姿。イーサンの主は、ジーク以外にはない。

アーリオと、化け物の間に立ちはだかると、化け物は、ニイと奇妙に笑った。





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