私は聖女なんかじゃありません

mios

文字の大きさ
35 / 53
懺悔編

優秀な犬

しおりを挟む
白い犬は、飼い犬ではない。人間の姿にもなれる立派な聖獣だが、人間の姿が絶世の美男とかではなく、その辺にいそうな男性であることから、スパイとして他国に潜り込んでいる。

普段は、犬として生活し、街中では人間として紛れる。犬の姿なら、人はうっかりして内緒話でも話してしまう。人には言えない悩み事や、愚痴、好きな人に対する想いなど、たくさんの話を犬は知っている。

彼が聖獣だと気づくのは、極少数で、身近にはいない。気づかれたとしても、今のところ、命の危機に陥ったことはない。どうやら犬は、自分が割と強いタイプの聖獣だと気づいていた。

王弟殿下は、昔から聖獣を呼び寄せる能力が高かった。人間よりも犬が好きだった。元々コミュニケーション能力のある兄と違い、自分をさらけ出すことが、苦手で、いつもごまかすためにニコニコしていた。

持ってうまれた悪人顔のせいで、裏で何を考えているのかわからない、などと勘繰られることは日常茶飯事だった。

単に、緊張していただけだが。

人間との会話に疲れ、犬を触ったりしている時に、犬に話しかけられて、ようやく聖獣であったと気づく。その一連を何度となく繰り返し、自分の聖獣を呼び寄せる能力を見つけた。

王弟殿下がまだただの王子だった頃から、聖獣は近くにいて、その成長を見守っていた。

中にはその事実により、王太子を挿げ替えるべきだと言い出す人もいたが、丁重に辞退した。王になれば、聖獣とゆっくりするなんてできなくなるし、人間との会話も増えてくる。人間との会話に今のところ何の興味も義務もないのだから、王太子になる器ではない、と。

聖獣も、同じことを思っていて、王になることを反対していた。王は、兄こそふさわしい。

王弟となった王子は、自分を王に担ぎ上げようとした貴族を一掃した。兄の仕事の邪魔にならないように。

そして、聖獣と一緒に兄を支えることにした。各国にスパイとして、聖獣を派遣し、何かしらの動きがあれば、すぐに干渉して、火種を消してしまう。

それ以外は聖獣として、その国を守って貰う。

そうやって自国を守るために派遣した聖獣の白い犬をこの度、呼び戻した。
聖獣たちは大喜びで駆け寄り、王弟殿下の顔をペロペロ舐める。人間から物の見事に、犬に変身したかと思えば、膝の上にのり、一心に撫でられて、気持ち良さに眠りそうな聖獣の様子に、エミリアたちは唖然とした。

真っ白なふわふわの犬に触りたい。
さっきまで人間だった犬にとっても、可愛い女の子に触られるのは嬉しいが、隣りのアーリオの顔を見たら、そんな不穏なことは言えなくなった。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

【完結】お飾り妃〜寵愛は聖女様のモノ〜

恋愛
今日、私はお飾りの妃となります。 ※実際の慣習等とは異なる場合があり、あくまでこの世界観での要素もございますので御了承ください。

【完結】真の聖女だった私は死にました。あなたたちのせいですよ?

恋愛
聖女として国のために尽くしてきたフローラ。 しかしその力を妬むカリアによって聖女の座を奪われ、顔に傷をつけられたあげく、さらには聖女を騙った罪で追放、彼女を称えていたはずの王太子からは婚約破棄を突きつけられてしまう。 追放が正式に決まった日、絶望した彼女はふたりの目の前で死ぬことを選んだ。 フローラの亡骸は水葬されるが、奇跡的に一命を取り留めていた彼女は船に乗っていた他国の騎士団長に拾われる。 ラピスと名乗った青年はフローラを気に入って自分の屋敷に居候させる。 記憶喪失と顔の傷を抱えながらも前向きに生きるフローラを周りは愛し、やがてその愛情に応えるように彼女のほんとうの力が目覚めて……。 一方、真の聖女がいなくなった国は滅びへと向かっていた── ※小説家になろうにも投稿しています いいねやエール嬉しいです!ありがとうございます!

リストラされた聖女 ~婚約破棄されたので結界維持を解除します

青の雀
恋愛
キャロラインは、王宮でのパーティで婚約者のジークフリク王太子殿下から婚約破棄されてしまい、王宮から追放されてしまう。 キャロラインは、国境を1歩でも出れば、自身が張っていた結界が消えてしまうのだ。 結界が消えた王国はいかに?

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました

日下奈緒
恋愛
アーリンは皇太子・クリフと婚約をし幸せな生活をしていた。 だがある日、クリフが妹のセシリーと結婚したいと言ってきた。 もしかして、婚約破棄⁉

処理中です...