元ヒロインの娘は隣国の叔母に助けを求める

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公爵令息スペンサー

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隣国に従姉がいるというのは母から聞いて知っていた。伯母が一代限りの男爵に嫁いだため、娘は平民であり、貴族ではない、と。だから、母を頼って公爵家に来ることになったと聞いて、下女や使用人として雇うことになるのだと理解した。母の姉、従姉の母親は随分奔放な方だったらしく、たくさんの婚約を破断にした。その中には母の縁談も含まれていて、おかげで母は父と結婚し、スペンサーが生まれた。母も父も勿論自分も幸せだからこそ伯母には感謝している。

だが、正直にいうと、あまり会いたくはない部類の親戚であった。それは多分母も同じ。自分からは積極的に彼女達に関わりを持つと言った訳ではなかった。

現れた従姉は、見た目も平民らしかった。所作も態度も貴族らしくはない。男爵令嬢らしい教育を受けていたのなら公爵家では無理でも下位貴族の屋敷で侍女として働くことは出来るだろうが、これは無理かな。スペンサーはモニカを不憫に思った。同時に彼女を指導する侍女達にも同情した。カーテシーすらままならない幼子のような従姉。平民として生きるなら下女でも結構なお金になる。

下女ならカーテシーの機会などないのだから、恥をかくこともない。

当然ながら彼女に与えられた部屋は使用人部屋。母とはそれから何度か話をしていたらしいが、スペンサーや弟妹が彼女と会うことはなかった。

だから侍女ではなくて下女になったのだろう、そう思っていた。

公爵家には何人もの使用人がいるが、その全体を把握しているのは母と家令ぐらいだろう。嫡男であるスペンサーも下女や下男となると、中々全員は把握できない。彼らは主家の人の前に現れることはなく、緊急事態を除き、その存在は隠されている。これまでの彼らは皆行儀良く、公爵家に相応しい勤務態度であったことは明白だった。だが、それが異物が紛れ込んだことにより、乱されることになる。

スペンサーについている侍女カミラは父が騎士爵を持っていて本人もそれなりに戦える。侍女と言えど護衛も兼ねていて、一見可憐に見えるのだが、内情を知る者からはゴリラと呼ばれている。

そのカミラが最近、下男を捕まえることが増えたのである。それも一人や二人ではなく、三日でざっと八人もの下男をスペンサーと弟妹の部屋付近で捕まえることとなった。

スペンサーの部屋に近づいた下男は何をしていたかと言うと、ある手紙を部屋に置こうとしていた。下男からのものではなく、差出人は従姉モニカであった。

弟サイオンの部屋で捕まえた下男も同じ。モニカからの手紙を持っていた。それだけならまだ良かったのだが、妹エリザベスの部屋にいた下男はエリザベスの装飾品を懐に入れていた為に窃盗の罪で捕らえられた。

下男から聞いた話では、その装飾品はモニカのもので初めて屋敷に呼ばれた際にエリザベスに奪われたと言う。下男はエリザベスの為人を知らない。公爵家の令嬢は我儘だと言うモニカの嘘に引っかかって、秘密裏に取り返そうと忍び込んだようだ。

エリザベスとモニカの面識はスペンサーと同じ、あの独特なカーテシーを見た一瞬だけだ。あの時身につけてなかったネックレスをエリザベスが奪える訳もない。それにそのネックレスは彼女の誕生日に母が特注で作らせたもので、一見地味に見えるそれは平民が一生働いても買えない高値がついている。

スペンサーとサイオンに宛てた手紙には仲良くして欲しいことと、エリザベスや下女、侍女にいじめられていることが書いてあり、助けてほしい、とも書いてあった。書いてあることが本当ならスペンサーやサイオンに出来ることはない。それは母の領分だ。

とはいえ、スペンサーは理解した。モニカとは、そう言う類の人間なのだと。男性には媚を売り、女性とは敵対する。スペンサーの周りにもそういった変な人間は偶に存在する。彼女達の共通点は人の話を聞かないことと、妙に自分に自信があることだ。

自信があるのは良いことだが、だからといって妹を貶めるようなことを口にする嘘つきは嫌いだ。スペンサーはモニカを敵と見做した。
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