お花畑聖女は願う

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召喚前

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「本当に召喚するの?」
「表向きは、君の為、ということらしいからね。私は反対などできないよ。」

聖女オーロラは、夫である王太子殿下の前で溜息を零した。

「この子が生まれるまでは、聖女の仕事が出来ないのは本当のところだし。奴等の思惑がどうあれ、女神様は君を害する者達を許さないだろう?それに、ちゃんとした聖女が来てくれる可能性だってあるんだ。大丈夫さ。」

聖女オーロラは、大きくなってきたお腹に手を当てて幸せそうな顔をしている夫を見る。彼が大丈夫、というからにはこちらに何が起こることはないのだろう。

大丈夫ではないのは、彼らの方。

第二王子イーサンをはじめとする、夫を引きずり落とそうと画策する者達は、聖女を使って一発逆転を狙っているようだ。

聖女オーロラを妻にした彼が王位に就いたのはただの偶然だし、第一王子が失脚したのは彼の自業自得でしかないのに、一部の者達が好んだ噂によると、夫が全ての黒幕で第一王子を消し、自分が王位を奪う為に聖女を妻にした、なんて言われている。

失礼な話だわ。元々婚約者であったのは夫クリスであって、第一王子ではなかったのに。オーロラが聖女になってから目の色を変えて第一王子が迫ってきただけで、元から私は彼だけが愛する人だったというのに。


オーロラは聖女と認定される前から女神の愛し子と認識されていた。厳密には聖女の資質がある者は、殆どが女神の愛を授けられる為に、それ自体は大して珍しいことでもなかった。

第一王子の元婚約者ロジーナも、女神の愛し子であり、オーロラと同じ聖女の資質があった。

オーロラはクリスと、ロジーナは第一王子と、それぞれ婚約を結んでいたが、ロジーナと第一王子は壊滅的に相性が悪かった。

ロジーナは公爵家で愛された末娘。慎ましやかな性格でおっとりとした可愛い人だった。ロジーナが今もこの国にいれば絶対に、オーロラよりも聖女の称号が彼女にこそ相応しいとされていただろう。

今更考えても仕方ないことだとわかってはいるものの、親友でもあったロジーナが居てくれたら、と考えてしまう自分にため息をついた。

ロジーナとオーロラ、どちらが聖女になるかはある意味分かり切っていたことだ。国母も聖女も、片手間に出来ることではない。どちらかが王妃となるなら、もう一人が聖女に選ばれる。それだけの話。

なのに、昔からの決まり事を知らなかった第一王子は、聖女に選ばれなかったロジーナを切り捨て、オーロラと婚姻を結ぼうとした。

第一王子は夢みがちなところがあって、どこかで読んだ小説のように、聖女と王位のどちらも手に入れようとした。

彼の短絡的な思考の元といえば、第一王子でありながら、クリスに負け続けた意趣返しでもあるのだろう。クリスが公爵家の出でありながら、王太子となった理由は、第一王子の暴走の結果、仕方なく、と言うのが真実の姿だ。

「オーロラが国母になるなら、私が聖女になるだけなのに。」

ロジーナは、元婚約者に見切りをつけた家族に連れられて、早々に国外へ逃亡した。


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