悪役令嬢は冤罪を嗜む

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正妃のターン①表側

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改めての話し合いに、側妃様はいなかった。代わりにいたのは正妃様。聞いていなかったのか、陛下の顔色は真っ青を通り越して真っ白になっている。

「何だか面白そうなことをやってるから来ちゃった。」

そんなあざといことを言っても似合ってしまうのが正妃様。

「なーんてね、あの子が来られないって言うから私が代わりに来ただけよ。まあちょっとした悪戯だったんだけど、それを誰かに利用されるなんて思わなかったものだから。本当に呆れるわ。」

顔は笑っているのに、しっかりと怒気は感じられる。陛下の存在感は徐々に薄れていくようだ。

「先の、側妃シルビアと、陛下のやりとりは皆覚えていて?あの真相から、話していくことにするわね。」

正妃様の口から語られた真実は、クラリスの予想通りのことだった。

「私の妊娠中に、陛下がシルビアに手をつけたのは、本当よ。シルビアは私の数少ない友人で、陛下にとっても身近な存在だった。まあ、それは良いわ。彼女が陛下の好きなタイプだって知っていたし、私の側に置くのなら、こうなることもある、と思っていたから。

ただ、それが妊娠中に行われると思っていなかったのよ。知ってるのよ。世の男性方が浮気しやすい時期って言うのは、妻が妊娠中が多いって。ただね、本当にそんなことがある、って実感していなかった。

シルビアが見た男性と言うのはね、お恥ずかしい話、私のことなの。陛下とシルビアがそうなったことを知って、居ても立っても居られなくなって、男性に変装して、部屋に入ったわ。

シルビアに姿を見られて、怖かっただろうに騒ぐと、陛下や私に迷惑がかかるかも、と我慢した彼女を見て、沸々と怒りが湧いたわ。誰にって、その横で呑気に鼾かいてる男によ。

陛下によく似た息子を産んでくれ、人を悪役にしてまで側に置くのを望んだくせに、今になってあっさり自分だけ罪から逃げようとするその卑怯な男に、心底失望したの。

しかも貴方、あの子にお酒を飲ませて、襲ったのよね。あの子はお酒に弱いの、知っていたわよね。意識のない状態で同意の得られない行為をするのは、例え貴方が最高権力者であっても、犯罪ですからね。挙げ句の果てに今になって自分の罪を隠そうとするなんて、お生憎様。貴方とアレクセイは親子である、と既に証明されているわ。逃げることは許されないわよ。」

正妃オリビアが2枚の紙を陛下に突きつける。陛下はご存知でなかったようだが、最近托卵を防ぐ為に親子関係を証明するための道具が開発されたのである。

仕組みはよくわからないが、何種類かの検体を元に親子であるかがわかる画期的な物らしく、托卵だと困る貴族家や王家を中心に世界で売れている代物である。

シモン公爵家は我が国でいち早くその道具を手に入れた。アレクセイの出自が疑われた噂の最初の段階でアレクセイは陛下の子だと結論づけていた。

その結果は正妃オリビアに委ねられていただけのこと。


「アレクセイとシルビアを悪者にして、自分は逃げるなんて、卑怯なことなさらないわよね。陛下はそんな器の小さいことなさらないわよね?ああ、でもアントニオのことを自分の子ではないかもしれないと、漏らしたことがあったわね。あの時と同じかしら。また誰か口説きたい女性でも出来たのかしら。」

正妃様によれば、陛下は女を口説く時に自分の子を否定し、あわよくば自分の子が王位につけるのでは?と勘違いさせて手をつける、謂わば相手の欲を引き出して行為を正当化するタイプらしい。ドン引きだ。

「そんな者はいない。私は少しの可能性を提示しただけだ。」

「そう、ならばご安心なさって。貴方にはアントニオ、アレクセイと言う立派な息子が二人もいるわ。どちらも貴方の息子で間違いない、と出ているから、貴方の後は、安泰よ?」

クラリスは内心アレ?と思った。だが、何も言わずにやり過ごす。ここで無闇な発言をして、混乱を広げるのは得策ではない。

陛下は前回の発言を撤回し、混乱させたことを皆に詫びた。
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