異世界で嫁に捨てられそう

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リラックスした嫁と恐怖で動けない俺

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「かなこ、ちょっと待って。どこまで行くの?」俺の問いかけに、意味深に笑いながら、どんどん森の中に入っていく。まさか、逸れるわけにいかず、ついていく選択肢しかない俺は、かなこの後ろを歩きながら、びくびくしていた。

ずっと歩くと、開けた場所にでた。何か嫌な予感がずっとしていたのだけど、理由がわかった。

嫁は真っ先に触るために走っていってしまう。離れるのは怖いが、近寄るのも難しい。

何これ?狼っぽいけど、デカい。嫁は顔をふわふわの毛に埋めて気持ち良さそげにうっとりしてるけど、いやいや野生の獣だよ?危ないって。

さっき少しだけ勇気を出して近づいたら、唸りやがって、もうそれ以上は近づけなかった。またここでも、精霊王の娘とただの村人が出てくるんだなぁ。

顔を埋めたまま動かない嫁を心配するが、寝てるのかもしれない。そこからは苦痛だった。嫁を起こしに行くのは難しい。嫁が起きるまで待たなくてはいけない。嫁は全く起きる気配がない。嫁と離れたら俺は死ぬ。ね、詰んでる。

しょうもないことを考えて時間を潰す。嫁は「精霊王の娘」というレアキャラだが、あれ、どういう意味なんだ?①本当に娘②精霊王に愛されていると言う意味の愛し子③勝手に言ってるだけ。
どれなんだろう。俺としては③かなぁ。でも、夢があるのは①か②だよな。
今後精霊王に会えたら聞いてみよう。

「今のままでは、お前は会えないぞ。」
ん?今の誰だ。

周りを全方位見渡して、今話しかけてきた人間を探す。だれもいない、だと?
ふと、デカい狼と目が合う。いや、まさかな。

ふっ、と笑った気がする。
狼は、こちらを向いて、言葉を発した。
これ、アニメ映画で見た。

「精霊王の怒りをお前は買いすぎている。娘を蔑ろにされて、王はお怒りだ。」

さっきの問題の答えは、①か②ですね。
答え合わせみたいになったが、やっぱりかなこは凄いなあ。俺にとっては義父みたいな感じか。と考えて、既に怖い。自分がしたことを覚えているだけに、とても怖い。ま、まさか、殺されたりはしないよね。

狼は嬉しそうな顔をして俺を見ている。否定も肯定もしないところが、またリアルだ。精霊王にただの村人が何かできるとは思えないので、会ったらひたすら謝ろう。土下座をずっとし続けよう。

ちなみに精霊王はどこにお住まいなのだろう。心の準備は必要だ。ふいをつかれないようにしないと、また急に異世界に来た、とかならないようにしたいね。

精霊王に会うまでにかなこと仲直りしたいけど、難しいよな。

「あの、精霊王と仲良いんですか?」
狼さんにお聞きしてみる。
「森に住むものなら誰でも仲は良い。」
狼さんは、さっき唸ってた割に、話しかけると、返事してくれるし、案外良い人だったみたい。人なのかはわからないけど。

ようやく夢から覚めたかなこが、ボーッとしている。そういえばいつも朝起きたてはぼんやりしていたな。いつも笑顔のかなこが、朝だけはあどけない顔をしていて、自分だけの特別を見ているようで嬉しかった日々を思い出す。

あの時は、かなこをよく知ることが楽しかったのに。いつからこの贅沢を手放していたのだろう。

かなこはボーッとしながらも、狼さんにお礼を言って、深呼吸していた。森で深呼吸すると、気持ちいいよな。真似して深呼吸する。かなこと目が合ってお互い笑い合った。かなこはその後すぐ、笑うのをやめてしまったけれど、何だか昔に戻れたようで、そうでない、と言うのが切なく感じた。裏切ったのに、切ないなんて、許されない。きっと精霊王は許さないだろう。

狼さんはかなこに、「精霊王に会いたいか。」と聞いた。かなこは俺を見て、首を振った。「また来ます。」
俺は理解した。俺のレベルが20になって、嫁の側を離れてから親子水いらずで会いたいのだろうと。

確かに俺も、怒られるとわかってて、会いたくはないけどさ。まあ、願わくは、かなこに付いていって、見てみたいかも、と言うのもある。だって精霊王なんて、今後会える可能性なんてないよ。娘と一緒じゃなきゃ。俺、嫌われてるし。

俺の考えがわかるのか、狼さんはふっ、と笑ったみたいだが。呆れているのだろうな。

俺はいつまでかなこと一緒に居られるのだろう。最近特にレベルが上がりにくい。ほとんど嫁の働きにより、クエストの報酬を貰っているのに、高い武器を買うのは申し訳ないが、かなこがいつまでも弱いのは困ると言って、初心者に使いやすいナイフを買ってくれた。

魔物を倒すのにはほぼ使えていないが、薬草を採取するにはまあまあの切れ味で役に立っている。

ポーションを作るのはかなこで、材料を採取するのは俺の役目。何処にあるかを探すのはかなこ。かなこが全部した方が早く終わるみたいだけど、少しでも自分ができることをしたい。そうでなければ一緒にいる意味がない。こんな簡単なことを忘れていたことに自分で呆れている。





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