七代目 双子の桃太郎

ヒムネ

文字の大きさ
1 / 50

    鬼退治

しおりを挟む
「ここまで育てて頂き、ありがとうございました」
 お爺様とお婆様に土下座した。
「おー~、淋しいの~」
 お婆様はそっとお茶を置き、
「そんなに焦らんでも~」
 彼は頭を上げ、
「いえ、自分自身で決めたことなんです。これは生まれた時から私の宿命ですから」
 決意を伝えた。
「お爺さん」
「宿命か······桃太ももう16じゃ、好きにするがええ、婆さんや」
 お婆様は、何時もの吉備団子きびだんごを用意して、
「気を付けて行き」
「忝ない」
 刀『双桃そうとう』を携え、
 いざっ、鬼退治の旅へと歩を運ぶ······。

 鬼の住む島『鬼ヶ島』。行くだけならば家から真っ直ぐ下って砂浜から小舟で漕いで進めるが、まず先に、キジ、犬、猿を仲間にしなければならない。
 なので迂回しようとすると、

あにぃ!」

 木に休む鳥が飛び立つほどの甲高い声、

「桃子」

 彼女は桃太と双子で妹。
 お婆様が桃から開いた時、そこにはきらびやかな双子兄妹の姿が。
 その双子に、男の子は『桃太』、女の子には『桃子』と名付けたのだ。
「兄、鬼ヶ島に向かうの?」
「ああそうだ、まずは仲間を集めにな」
わたくしも行きます!」

「駄目だ!」

「どうしてですかっ」
「鬼退治は本来男だけの仕事だ、桃子が行くことはならぬ」
「私だって今まで『桃太郎』としてこの時の為に修行を積んできました」
「ああそうだ、しかし······」

 僅かな草を蹴る音、

「何奴っ!」

 二人は納めている刀を握る。

 桃子は早速鬼と感づき息を飲むと、桃太が聞こえた方に走る、

 するとそこに、

「グワオーッ!」熊が茂みから姿を現す。

 だが彼は怯むことなく刀を抜き、

「桃流《足掛け》!」立ち襲う熊はすかさず胸から地面に倒れ、

「桃子ー!」

「桃流《真っ向両断》」刀を返し頭に峰打つ。

 怯えたのかそそくさと逃げ出す······。

「野生の熊だったか」
 お互い鞘に納め、
「兄、一緒に」
「お前は女だ。戦いではなく、せめて女性らしい幸せを掴んでほしい。お爺様やお婆様もそれを望んでいるはず、拙者も同じ願いだ」

「私はそんな事を望んでいないのに勝手です、女子おなごであっても立派な一人の『桃太郎』として努めてみせます」

 桃太は眼を閉じ妹に答えず背を向けて行ってしまう。

 彼女を想い独りを選んだ兄、唇を噛み締め見つめる事しか出来ないのかと自分の心に語りかける桃子。
 それでも彼は竹やぶに入って行くのだった······。
    
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...