~マザー·ガーディアン~

ヒムネ

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       H·T·M

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 十月五日、太平洋側に台風が発生したが、日本に上陸せずに済んだのは不幸中の幸いだ。
 未来が目覚めてないのだから······。

 この日、休憩時間にオレはトレーニング室にいた。未来の事を訊くために、
「いつも、どんな感じで訓練してた?」

「普通に。細かく言いますと、いつも笑顔で、疲れると愚痴を言って、ポジティブに考えて、大人な言葉で常に話しますが、時折子供のようにはしゃぐ姿も見られることから大人になろうとしているのかもしれない方です」

「ハハッ、大体合ってるね、さすがだよ」
「未来さんはまだ眠ったままですか?」
「ん、そうだよ······知らなかった訳じゃないよね?」
「はい、知ってます」
「じゃあ――どうして?」
「分かりません、ただ」
「ただ?」

「ただ未来さんがそこのドアを開けてくるような気がしました」

「へ~」
 AIにも、気がする、なんてあるんだと思った。
「じゃあ作業に戻るよ」
「徹さん」
「なに?」
「徹さんにとって未来さんは何ですか?」

「かけがえのない人、だよ」

「かけがえのないのない人······」
「チャイルドっ」
「はい、何ですか?」

「オレからも言わせて、君が未来の友達で良かったよ」

「いえ、私はAIで」
「未来が元気になったら、また頼むよ」
「――はい」
 そしてトレーニング室をあとにする······。

「友達······」


 ――十月六日、この日は朝早く生月先生に呼ばれて、
「おはようございます、何ですか?」
「おはよう、妊娠十一週目よ」
「そうですか」
 未来のお腹の赤ちゃんは、今大変と知らずぐんぐんと成長している。
「ただ······このままの状態じゃ危険よ」
「分かってます。もうすぐ、もうすぐですから」
 そう言うと、生月先生は笑顔で、
「あともう一息、頑張ってっ!」

「はいっ――」


 ――十月九日、遂に、

「完成だっ!」
 ヒューマン·チューニング·マシン、略して、“H·T·M”が完成した。

「ふう~、時間は今――午前七時過ぎ、徹、午後まで休め」

「母さん、オレはすぐ使うよ!」
「そいつは無理だ」
「徹、焦る気持ちは分かるが同調は簡単じゃない。休んで備えるんだ」
「父さん······分かった、そうするよ」
 焦ってミスる訳にはいかない。なので午後まで休む事にした。
「徹、私もいいかな」
「うん」
 仮眠を取る······。

そして、

 会社の食堂で昼食を取りながら、
「徹、いよいよだな」
「ああ」
「緊張はしてるか?」

「いや、早く未来を救って······話したい」

「そうか······強いな、お前は」
「へへっ」
 昼食も終わり、LINE電話をして、未来の両親も呼んだ······。


 午後一時半、保健室に、オレ、母さんと父さんに生月先生、心拠さん、そして未来の両親二人とーー眠っている未来が集まった。
「未来っ!」
「未来······」
 花さんは、娘に抱きつく。
「徹君、未来は······」
 生月先生が、
「今日で、十四日眠っています」

「そんなに······」

「でも健康面は、私と生月先生と道長君でやってましたので大丈夫です」

「愛ちゃん」
「徹君、大丈夫なんだね?」
 オレは笑顔で、
「まかせて下さい」
「未来君の両親ですか」
「この方は」
「もうし遅れました。徹の父の、道長 創造です」
「未来の父の隅野 鉄です」
「母の花です」
 挨拶すると花さんの目線は、
「······霞さん」
「何です?」

「あなたも力を貸してくれたのね」

「社長として当然の事をしたまでです」

「······そう」
 母さん、少しは素直になったかなあ。
「話はそれくらいにして、始めます」
 生月先生は、ベッドから未来を起こし、H·T·Mゴーグルをセット。
 そして、
「未来のお父さん、お母さん、何があっても未来は必ず救い出しますっ!」

「信じてるわっ」

「徹君っ!」
 自分にもH·T·Mゴーグルをセットする。
「母さん、お願いしますっ!」

「徹っ!」
 母さんがスイッチを押すっ······。

 未来――。
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