勇者に恋した魔王の配下

ヒムネ

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酒場にあらわれて

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 ――カラン、カランッ。2人組の男がグランジウムの酒場にやってきた。

「いらっしゃい」

「よっと……マスター酒たのむ……しかしここ一週間で突然魔物が増えたな~」

「ああ、おかげで魔物退治で儲けられるからな、ヘヘ。しかも城下町には何故か魔物が入れない」

「い~い世の中になったぜ」

 酒場の扉が開く。

「ここにも……いるわけないか……」

「お、可愛いのが来たねぇ~」

「い、いえ、私は……」

「付き合ってくれよお嬢ちゃん、デヘヘ」

「そ、そんな、すいませんっ」

「おっと逃さねえぜ」


「離してっ」

「可愛子ちゃん……いでででっ、だ、誰だてめぇ?」

「……嫌なもん見せんじゃないよ」

「んだとボロい白コート野郎」

「そんなに付き合ってほしいなら……あたいが付き合ってやろうか?」


 掴んでる手の爪が伸び縮みさせる。


「つ、爪が、な、なんだコイツ……あぶね……ずらかるぞ」

「へ、へい」

 最初の態度はどこへやらと2人組はカウンターにお金を置いて逃げていった……。


「あ、あの、ありがとうございました」

「あんたみたいな女の子が、1人で酒場に入っちゃいけないよ」

「……そうなんですが」

「なんか訳ありそうだね……」

 酒場を出て女の子の家に向かおうとしたら雨が降っていた。手のひらで雨の雫を受けていると疼いてくる。

「雨、か……冷たいね……この感じはひさしぶりだ……」

 魔性の森で雨が降ると1人の時の寂しさがより大きくなって泣いてたっけか。

「あ、あの、私はトリカ、貴女のお名前は」

「あたいは、ネモネア」


 ――トリカの家はグランジウムの城下町の酒場から南にある所。そこで、助けてくれたお礼にとホットなコーヒーをあたいに注いでくれた。

「寒いときに温かいコーヒーは美味いな」

「ネモネアさんは、その……魔族」

「うん、そう……怖いかい?」

「いえ、そんなっ、助けてくださった人に……ただ」

「無理もないか、魔物や魔獣が出てくるようになってビクビクしてるんだろ」

「はい……それと」

「さっき話したお父さんか、それで町中を探したが見当たらない」

 一週間前、突然と現れた魔物よりも恐ろしい魔獣たちの出現により城下町から出れなくなって仕事のないトリカのお父さん、仕事を探しに外出。

「そう言って……」

「外か……もしかして」

「えっ、お父さんっ、まさか!」


「――うわぁぁぁっ!」

「お父さんっ!」

「ふんっ!」

 魔獣に爪で攻撃するも素早く避けた。

「ひぃ、今度はなんだっ」

「おい、あんたっ、トリカの父親だろ」

「え? は、はいっ」

 案の定、城下のすぐ外で襲われていたのはトリカの父親。

「グルルッ」

「魔獣ライオンか、凶暴な面だな……こいっ」

「グルルァァァッ!」

「ネモネアさんっ!」

 ゆだれダラダラ白目の魔獣ライオンが直進してくるとあたいも直進。

「グルル……ア……」

「へ?」

「魔獣化したライオンは理性なく突っ込んでくるから、しっかりと顔から目を離さなきゃ鼻を掴むのは簡単……」

 すかさず右爪を伸ばして魔獣ライオンのおでこに両目ごと突き刺す。

「終わり……」

「ああっ!」
「ひぃいっ!」

 こうしてトリカの父親は魔獣ライオンの餌食になることなく助かった……。


「――ぐすっ、お父さん、心配したのよ。勝手に魔物と戦おうとするなんて」

「すまんトリカ、私が馬鹿だった。ありがとうございます、ネモネアさん」

「稼ぎが無くて魔物や魔獣を倒そうと思ったんだ……」

「はい……まさかあそこまで凶暴とは」

「いいかい、魔獣ってのは理性を失った魔物なんだ。あたいがたまたまトリカにあったから良かったものの、もう2度と魔獣と戦おうなんて思わないことだよ」

「はい、ネモネアさん私も、もう懲りごりです」

 あたいがいなければこのトリカの父親は間違いなく餌にされていた。それだけ今のこの世界ツオーゴは荒れている。

「じゃあ」

「ネモネアさん、まって」


「……どうしたトリカ、雨に濡れるよ」

「父の事は、ありがとうございました。それと……なんて言ったらいいかわかないけど、ネモネアさんの哀しい眼が、笑顔になることを心からお祈りしています」

「哀しい眼、か……トリカ」

「はい」

「また会ったとき、コーヒー頼むよ」

「はい、ネモネアさんなら、いつでもお出しします」

 偶然出会ったトリカの事情を聞いて父親を救ったあたいはトリカの家から出た。トリカの言う『哀しそうな眼』そんなつもりはなくてもジュリくらいの年の子には分かるらしい、あたいの内が。でも哀しんでなんかいられない、あたいはあたいの想いで動いているのだから……。


 ――カランカランッ。

「いらっしゃい……ああ貴女はネモネアさんですね」

「マスター、例の件は」

 するとポケットから紙が。

「んじゃ、これ」

 あたいもポケットからお金を渡す。

「こんな時によくお金が稼げますね~」

「こんな時だからこそでね……魔獣を狩れって言われればそうするまでだよ」

「うちも助かりましたよ魔獣退治、それでこの……」

、それと……情報ありがとう、じゃあ……」
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