2 / 25
聞いた人
聞かされる
しおりを挟む
怖い話は苦手だ。怖いのが無理。本当に無理。だって寝る前に怖いことを考えちゃうから。考えなきゃ大丈夫って頭ではわかっているけど、つい嫌な想像ばかり頭に浮かぶんだ。
だからいつも絶対に怖い話は聞かないようにしている。なのに、それなのに……
「ごめんってえりこー。本当に悪かったって」
顔の前で両手を合わせて直美が謝ってくるがもう遅い。絶対に許さない。
「信じられない、私怖い話苦手だって言ったよね? てか前から知ってたでしょ?」
「ごめん、どうしてもパトロール男の話を聞いてほしくってさ」
「いやいやいや、なんで私なのよ」
「いやあ、それが今日一番最初に会ったのがえりこだったから」
「なにそれ! 聞きたくないって言ったでしょ!」
私はばんばん机を叩いた。手のひらがじんと痛んだが気にしない。
今朝、スマホのアラーム鳴らしっぱなしで寝続けた結果お母さんにかなり怒られてしまった。朝に弱い私はなんとかベッドから抜け出して、リビングに向かった。お母さんの説教を聞きながら朝ごはんを口に突っ込む。そして半分寝たまま制服を着て身支度を済ませて、ぼんやりした頭のまま登校してきた。
ふらふらと教室に向かい、あくびをしながら自分の席に座る。すると隣の席の直美がすごく嬉しそうに話しかけてきた。何の話かわからないまま聞いているとパトロール男という都市伝説だった。
「いつも言ってるでしょ。私は怖い話は嫌なの!」
「ごめんってほんと。でもそんなに怒らなくても……わかった、コンビニで好きなお菓子買ってあげるから許してよ」
「ほんと?」
「ほんと」
「じゃあプリンとシュークリームで!」
「え、二個も!? まあでもいいよ、無理に聞かせちゃったし」
「やったー!」
お菓子を買ってもらえると聞いて私は一気に機嫌が良くなった。お菓子の前では怖い話だって怖くなくなる。食欲に勝る欲なんて私には存在しないのだ。まあ怖くないのは食べている時だけなんだけど。
私は怖い話が苦手だ。すごく苦手だ。霊感なんて全くないし、不思議なことに巻き込まれたこともない。でも、絶対に無理。テレビで心霊特集なんてしていたらすぐにチャンネルを変えるし、ホラー映画のCMが流れたら目をつぶるようにしている。
お父さんもお母さんもそんな私を見てよく呆れているけど、こっちは本気で怖いんだもん仕方がない。夜一人でトイレに行くのもすごく怖い。でも、流石に高校生にもなって一人でトイレに行けないのはまずいと思い頑張っている。たまにお母さんを呼ぶことがあるけど、本当にたまにだ。
パトロール男。どうしよう絶対に遭遇したくない。お菓子を買ってもらえるのは嬉しいけれどやっぱり怖いものは怖い。どうしよう今日塾行くのやめようかな……
あ、でも、歩きスマホをしなかったらいいんだ。そうだ、そうすればいい。私は自分にそう言い聞かせて今日もちゃんと塾に行く事を決意をした。
「……えりこ、えりこ」
気がつくと直美に小声で何度も名前を呼ばれていた。
「えっ? なに? ……あ、山下」
突然気配を感じて前を向くと目の前に担任の山下がいた。全く気づかなかった。直美があちゃーって顔をしているのが横目に見える。あ、だから呼んでくれてたんだ。
山下はアラフォー独身の男の先生だ。嫌いじゃないけど好きでもない。背が高くてスタイルもいいけど彫りが深くて顔が少し怖い。そして顔だけじゃなくて普通に怖い。今も威圧感が半端ない。
「山下じゃなくて山下先生な。ちゃんと先生をつけろといつも言ってるだろう」
「すみません」
「富田、おれの話を聞いてたか?」
「ご、ごめんなさい」
「ホームルームがはじまったら起きろ、まったく……富田も起きたし大事なことだからもう一回言うぞ。知っている人もいると思うが、最近周りの学校で不審者による事件が多発している。突然後ろから突き飛ばしてくる奴がいるそうだ。みんなくれぐれも気をつけるように。じゃあ、今朝のホームルームはこれまで。さあ授業を始めるぞー」
寝てなかったとは言えなかった。だって反論したら絶対上乗せで怒られるもん。あと、山下の淡々とした連絡事項の内容がなんだか頭に引っかかっていた。
隣の席を見る。直美は何も思わなかったようだ。黙々と教科書とノートを準備している。私の気にしすぎかもしれない。私も気にしないことにして鞄から教科書とノートを取り出した。
あ、やばい一時間目から眠たい。放課後お菓子を買ってもらうんだから授業ぐらい頑張らないと。
こうして今日も学校での私と睡魔との戦いが幕を開けた。
だからいつも絶対に怖い話は聞かないようにしている。なのに、それなのに……
「ごめんってえりこー。本当に悪かったって」
顔の前で両手を合わせて直美が謝ってくるがもう遅い。絶対に許さない。
「信じられない、私怖い話苦手だって言ったよね? てか前から知ってたでしょ?」
「ごめん、どうしてもパトロール男の話を聞いてほしくってさ」
「いやいやいや、なんで私なのよ」
「いやあ、それが今日一番最初に会ったのがえりこだったから」
「なにそれ! 聞きたくないって言ったでしょ!」
私はばんばん机を叩いた。手のひらがじんと痛んだが気にしない。
今朝、スマホのアラーム鳴らしっぱなしで寝続けた結果お母さんにかなり怒られてしまった。朝に弱い私はなんとかベッドから抜け出して、リビングに向かった。お母さんの説教を聞きながら朝ごはんを口に突っ込む。そして半分寝たまま制服を着て身支度を済ませて、ぼんやりした頭のまま登校してきた。
ふらふらと教室に向かい、あくびをしながら自分の席に座る。すると隣の席の直美がすごく嬉しそうに話しかけてきた。何の話かわからないまま聞いているとパトロール男という都市伝説だった。
「いつも言ってるでしょ。私は怖い話は嫌なの!」
「ごめんってほんと。でもそんなに怒らなくても……わかった、コンビニで好きなお菓子買ってあげるから許してよ」
「ほんと?」
「ほんと」
「じゃあプリンとシュークリームで!」
「え、二個も!? まあでもいいよ、無理に聞かせちゃったし」
「やったー!」
お菓子を買ってもらえると聞いて私は一気に機嫌が良くなった。お菓子の前では怖い話だって怖くなくなる。食欲に勝る欲なんて私には存在しないのだ。まあ怖くないのは食べている時だけなんだけど。
私は怖い話が苦手だ。すごく苦手だ。霊感なんて全くないし、不思議なことに巻き込まれたこともない。でも、絶対に無理。テレビで心霊特集なんてしていたらすぐにチャンネルを変えるし、ホラー映画のCMが流れたら目をつぶるようにしている。
お父さんもお母さんもそんな私を見てよく呆れているけど、こっちは本気で怖いんだもん仕方がない。夜一人でトイレに行くのもすごく怖い。でも、流石に高校生にもなって一人でトイレに行けないのはまずいと思い頑張っている。たまにお母さんを呼ぶことがあるけど、本当にたまにだ。
パトロール男。どうしよう絶対に遭遇したくない。お菓子を買ってもらえるのは嬉しいけれどやっぱり怖いものは怖い。どうしよう今日塾行くのやめようかな……
あ、でも、歩きスマホをしなかったらいいんだ。そうだ、そうすればいい。私は自分にそう言い聞かせて今日もちゃんと塾に行く事を決意をした。
「……えりこ、えりこ」
気がつくと直美に小声で何度も名前を呼ばれていた。
「えっ? なに? ……あ、山下」
突然気配を感じて前を向くと目の前に担任の山下がいた。全く気づかなかった。直美があちゃーって顔をしているのが横目に見える。あ、だから呼んでくれてたんだ。
山下はアラフォー独身の男の先生だ。嫌いじゃないけど好きでもない。背が高くてスタイルもいいけど彫りが深くて顔が少し怖い。そして顔だけじゃなくて普通に怖い。今も威圧感が半端ない。
「山下じゃなくて山下先生な。ちゃんと先生をつけろといつも言ってるだろう」
「すみません」
「富田、おれの話を聞いてたか?」
「ご、ごめんなさい」
「ホームルームがはじまったら起きろ、まったく……富田も起きたし大事なことだからもう一回言うぞ。知っている人もいると思うが、最近周りの学校で不審者による事件が多発している。突然後ろから突き飛ばしてくる奴がいるそうだ。みんなくれぐれも気をつけるように。じゃあ、今朝のホームルームはこれまで。さあ授業を始めるぞー」
寝てなかったとは言えなかった。だって反論したら絶対上乗せで怒られるもん。あと、山下の淡々とした連絡事項の内容がなんだか頭に引っかかっていた。
隣の席を見る。直美は何も思わなかったようだ。黙々と教科書とノートを準備している。私の気にしすぎかもしれない。私も気にしないことにして鞄から教科書とノートを取り出した。
あ、やばい一時間目から眠たい。放課後お菓子を買ってもらうんだから授業ぐらい頑張らないと。
こうして今日も学校での私と睡魔との戦いが幕を開けた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしてそこにトリックアートを設置したんですか?
鞠目
ホラー
N県の某ショッピングモールには、エントランスホールやエレベーター付近など、色んなところにトリックアートが設置されている。
先日、そのトリックアートについて設置場所がおかしいものがあると聞いた私は、わかる範囲で調べてみることにした。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/12/15:『ちいさなむし』の章を追加。2025/12/22の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/14:『さむいしゃわー』の章を追加。2025/12/21の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/13:『ものおと』の章を追加。2025/12/20の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/12:『つえ』の章を追加。2025/12/19の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/11:『にく』の章を追加。2025/12/18の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/10:『うでどけい』の章を追加。2025/12/17の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/9:『ひかるかお』の章を追加。2025/12/16の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
視える僕らのシェアハウス
橘しづき
ホラー
安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。
電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。
ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。
『月乃庭 管理人 竜崎奏多』
不思議なルームシェアが、始まる。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる